月の夜に
俺は月の夜が嫌いだ。
特に満月の綺麗な夜はウンザリする。
今迄の経験上ろくなことがない、本当だ。
子供の頃は犬に追いかけられたり、財布を落としたり。この前だって……
とにかくだ、ろくなことがない!
今日は部活でこんな時間になってしまった
寄り道せずに早く帰らなければ。
因みに部活というのは子供の頃から続けている、武術。
ではなくバスケットボール部だったりする。
理由は二つ、一つは部活でも武術系をやるのが嫌だったから。
二つ目は坊主にしなくていいからだ。何を言ってるのかと思われるかもしれないが、中学まで祖父にやらされていた武術の稽古で丸坊主にしていたのだ。
理由は気合が入るから
なんだその理由は。
そんなこんなで高校では武術に関係の無いバスケットボール部に入部したのだった。
まぁ、友人の誘いで何となくだけれど。
かといっても反動で髪を特別長くする訳でもなく、健全なごくごく普通の爽やかな短髪にとどめている。
丸坊主でなければ何でもいい訳だ。とにかく。
しかしこんなに月夜と相性が悪いのは俺の一族の名前にもあるのじゃないか?
太陽これが苗字。
これを聞くと大抵の人間はカッコイイだの、珍しいだの、羨ましいだのと言うわけだ。
しかし俺のフルネームは
太陽昇
ギャグか何かか? 両親がふざけてるとしか思えない名前を俺は気に入らないのだった。
「とにかく早いところ帰らなければな。近道を使うか。」
この先に廃ビルがある。取り壊し前のビルなのだから立入禁止な訳だけれど、この廃ビルを通り抜けると中々のショートカットになるのだ。
「着いた、夜になると中々に雰囲気があるな。」
同じく廃ビルの屋上
真っ黒なスーツに身を包んだ二人組が辺りを見回している
何か否、誰かを捜している様子だ。
「全く、このビルに逃げ込んだのは間違いないんだろうな。マジで。」
1人目の男は口が軽く適当そうな印象の長髪の男。
「間違いない。装置に反応があるのだから。文句、不平を漏らさずに我々は任務を遂行するだけだ。」
2人目の男は固く真面目そうな印象のスキンヘッドの男。
「分かったよ。おめぇも真面目だな、相変わらず。さっさと適当に終わらせて呑みにでも行こうぜ」
「お前は物事を楽観視しすぎる所がある。もっと緊張感を任務に持つべきだ」
睨みながら話す
「へーへー、睨むなって。しかし面倒だぜ正直な話。生きたまま丁重に確保しろとはな。」
「それが任務なら遂行するだけだ。」
「お前そればっかりじゃん。ま、抵抗してくれなければ楽なんだがな実際。」
男が手に持つ謎の計数機が反応した
ピピッと音を発している。
「近い、ビルの中を捜索するぞ。」
「はいはい。了解了解。」
同じく廃ビルの一室
金髪の少女が息を潜めている
見た感じ14歳か15歳位なのだろうか。
外国人とも日本人にも見える不思議な雰囲気の少女。
何かに追われている様子だ。
「ここも直ぐに見つかってしまう、どうにかして逃げないと。でもどうやって?
あの二人組はきっとプロだわ、素人じゃあない。考えるのよ、考えるのミカ。」
コツコツ
コツコツ
遠くから二つの足音が近づいてくる
「……!!」
物音を立てないように息を潜める
静かに……静かに……
しかし無駄だった、あの二人組には計数機で
場所が分かってしまうのだから。
「見つけたぜお嬢様。手間かけさせんなよ。全く。」
「保護対象を発見、任務を遂行する。」
「何故分かったの? 私が此処に逃げ込んだ事が! 」
「さて何でだろうな。でもそんな事はどうでもいいんだよ。俺らの仕事はお嬢様を連れ戻す事だからな。」
「嫌よ。私は戻らない! 私にはやらなければならない事がありますから!」
「お嬢様。抵抗はしないで下さい、抵抗しなければ危害を加えるつもりはありません。」
「ま、諦めなあんたは所詮鳥かごの中の鳥だ大人しく戻りな。乱暴な事は俺だってしたくはないさ。」
「そう……乱暴な事はしないのね? 約束よ?」
背中に手を隠し何かを持っている
「約束します。ですから大人しく降伏して下さい。」
「約束するよ。だから早く戻りな。」
少しずつ二人組はミカに距離を詰めて行く
「私は……」
「あ? 何か言ったか?」
「私は……」
後ろに隠していた物を地面に叩きつけた!
「鳥かごの鳥なんかじゃないわ!」
部屋中をまばゆい光が覆う!
叩きつけたのは閃光弾。
「何っ! くそっ! 」
「くっ、予想外! 」
二人組は閃光弾で視界を一時的に失っている
「今のうちに遠くへ! とりあえずビルから出ないと! 下へ! 」
一気に階段を駆け下りて行く
早く、早く、少しでも遠くへ!
「ハァ、ハァ! 」
駆け下りる、早く、早く!
遠くへ! 遠くへ!
遂にビルの外に飛び出した
しかし視界の回復した二人組も追いつく寸前まで迫っている!
「くそっ! 少し痛い目に合わなきゃ分からないみたいだな!」
「冷静に対処するんだ。冷静にな。」
「分かってるよ! ちくしょう、目がチカチカしやがるぜ! 何で閃光弾なんか持ってやがんだ?」
閃光弾の光が外にも漏れている
「ああ? 部屋が光った? オイオイここ廃ビルだろ。何だいったい。」
二人組とミカが対峙している
「女の子?」
どう見てもあの二人組に追われてる感じだよな。
でも俺には関係ない事だよな、あの女の子の事知らないし
助けを求められた訳でも無いし。
月の夜に関わるとろくな事がないしな。
まぁ漫画とか映画なら、カッコよく助けに入ったりするんだろうけれど。
現実だから厄介事はゴメンだ。俺は只のごくごく普通の健全な高校一年生なのだから。
「おい。嫌がっているじゃないか。やめてやれよ!」
と、心では分かっているのだけれど身体が動いていた。
勝手にそう勝手にだ。馬鹿じゃないのか俺は