キツネさん、少子化を語る
近所の写真ボックスに着く。
証明写真とでかでかと外側に表示されていて、用途がそのままわかりやすい。
「これかぁ。文字面からして、身分を証明するための写真を撮るものと思っていたのじゃが、履歴書にも使うものなのかの?」
「まあ大抵は履歴書に貼付ける写真は身分証明用の写真と規格が同じですからね。というか、在留カードに使ってた写真はどうしたんです?」
「うん?ああ、あのカードにも儂の顔が写されておったのう。その辺りはソルが適当にやってくれたようじゃ」
ソルさんがなんでも出来すぎる。
というか、ソルさんが出来ることならばキツネさんも出来るはず。写真の一枚や二枚適当に魔術ででっち上げてしまえばいいようにも思う。
しかしキツネさんは興味深そうに入り口のカーテンをめくって中をきょろきょろと観察し、撮る気満々のようだ。
「とりあえず使ってみるかの。どうすればよい?」
「髪を後ろでまとめて、そこの椅子に座ってカーテンを閉めて、中に書いてある指示にしたがって操作すればなんとかなるはずです」
「ふむ、わかった。すまんが少々外で待っていておくれ」
ボックス内から何やらカチャカチャワサワサ音がすること数分、さほど待つことも無く、勢い良くカーテンが開けられてキツネさんが出てきた。そのままキツネさんが写真排出口をじっと見て、さして待たないうちに一枚の紙が落ちた。キツネさんが手に取った紙には、表情の硬いキツネさんのバストショットが分割されて写っている。
何故か自身の写真を見て、キツネさんが笑い出した。
「はははっ。どこか間抜けじゃのう」
「まあ証明写真ってそんなもんですからねえ」
「して、これは履歴書の貼り付け欄に合わせて切って、のりで貼ればよいのじゃな?」
「そうです。じゃ、戻りますか」
目的を果たしたので、さっさとワープして部屋に戻る。
部屋に戻るとキツネさんは文房具類をまとめてある場所からスティックのりを取り出し、いつの間にか分割されていた写真を履歴書に貼りつけた。
ボールペンやハサミ程度のものとは別に、普段あまり使わない文房具類を他にまとめておいたのだが、使う機会が少ないので微妙に場所をうろ覚えだった。キツネさんのほうが俺より部屋の中の配置を把握している。呆れ気味に感心しながらキツネさんに尋ねる。
「よくのりの位置なんて知ってましたね」
「ふふん、部屋の中をあらためよいと言われておるからの。住む場所についてよくよく知っておくくらい当たり前じゃ。タダシ殿が仕事をしている間に洗いざらい調べておるわ」
「洗いざらいですか」
「うむ。例えば」
キツネさんはスチールラックにほったらかしにしている箱を引っ張り出して、ごそごそと中からコンドームを取り出した。
「こんなところに避妊具が!まあ儂には必要ないものじゃが」
「ああ、ありましたねそんなものも……」
キツネさんとの性交渉はすべて生身で行われているので、俺たちには必要のないものだ。普通の女性に「今日は大丈夫な日だから」なんて言われても装着する俺だが、キツネさんに自信を持って妊娠や性病感染がないと保証されているからだ。一度性別ごと身体を変化されていたり、他にも日常的に超常な経験をしているので、キツネさんの保証を疑うはずもない。
意気揚々とキツネさんが差し出すコンドウさんの箱を受け取って裏を見る。そこには日付が印字されている。いつ買ったやつだろう、これ。
「捨てちゃいますか」
「くふ。一度使ってみるのもよいじゃろう?」
数字の列をキツネさんに指し示して、首を横に振って見せた。
「こんなものでも安全に使うための使用期限がありまして、これはもうとっくに過ぎてるんですよ。使えません」
「む。そうじゃったのか。一つ使ってみたが、そうとはわからんかったがの」
「なんで一人でコンドーム使ってるんですか」
自身の知らぬ間にパートナーに避妊具を使用されているというのは、不倫浮気不義密通の類を疑われる可能性があることだ。キツネさんがその手の事をして俺に不快な思いを与えるくらいなら、とっとと出ていくか、俺を洗脳して逆ハーレムでも作るかするだろう。その辺りのカミングアウトではないはず。
一人で楽しむためにコンドームを使用する、ということも男女ともに無くはない。秋葉原に行ったときにいろいろと買い込んだものがあるので、それに対して使ったということだろうか。まあこっちのほうが安全安心な事態ではある。バイブの使用時にコンドームをつけるのは衛生管理的に楽だし。いやそれでも使用期限が。
「どんなものかと一物を生やして着けてみたんじゃが、なかなか妙な感触じゃったのう。使われる側の感触も知りたかったのじゃが」
「生やし……え?」
「以前買ったものを試してみたのじゃよ」
想定していたちょっと斜め上の返事が来た。
そういえば秋葉原で買ったもののの中に男向けのものもあった。
「こちらの自慰用の道具は凄いのう。少子化にもなろうというものじゃ」
キツネさんがとても真面目な顔でジョークグッズのレビューをし始めた。履歴書を書く時よりきりっとしてる。
反応に困って大人しく聞いていたら寝る時間になり、キツネさんは熱く語りすぎたと反省していた。