キツネさん、こだわる
なんだかよくわからないままキツネさんに搾り取られた。
二人揃って素っ裸のままタマとサキに事後処理をされるがままでいると、玄関をコンコンと叩く音がした。
「ソルじゃな。よっと」
キツネさんは掛け声とともに体を跳ね起こし、手早く魔術でワンピース姿になる。ついでに俺の体もふわっと浮いたかと思ったら、あっという間に服を着せられていた。
あっという間に着せることができるならば脱がせることもできそうなもんだが、そのようにされたことがない。脱がし脱がされを魔術でささっとやってしまうのも情緒がないからいいんだが。キツネさんも同じように思っているのだろうか。
キツネさんはソルさんを玄関から招き入れているところなので、そんなことを聞けもしないけども。キツネさんはベッドへ椅子代わりに座って話をし始めた。俺はその後ろであぐらをかいている。ソルさんは骨状態で何故か立ちっ放しだ。
「ソル。図書館はどうじゃった」
「素晴らしいデスネー。とてもたくさんの本があって嬉しいのデスが、あまりにも多すぎてどうしようかと。とりあえずは写すだけ写してきたので、図書館が開いていないときに読み進めようと思っていマス」
写すとはどういうことか詳しく聞いてみると、本をそのまんま丸暗記したらしい。入館時間中には本の内容をそのまま暗記し、閉館時間中に暗記したものを思い起こして内容を精査するようだ。
やはり人外である。手順がおかしい。そしてキツネさんもその点について特に疑問も持っていない。どうもソルさんにとっては珍しくもない手段のようだ。
「写すのと読むので忙しいデスネー。しばらくはそれにかかりきりデス」
「日程の予定としては?」
「本を読む時間だけでも数ヶ月は」
「ふむ、そうか。であるならば」
キツネさんはベッド下から札束を一つ取り出して放った。ソルさんは両手で札束を受け止める。
「飲み食いはあまり必要ないかもしれんが、その他にも入り用になることもあろう。あまり無駄遣いはせんでくれよ?」
「わかりマシタ」
一連の流れを傍観していて、なんかヤクザ映画みたいなやりとりしてんなコイツらって思った。
実態は文化調査だけど。ソルさんは、つかったらレシートとっておきマスネー、なんて札束手にしながらのほほんとしている。百万円分のレシートとか仕分けたくねえなあ。
「調べの進みがどうあれ、七日に一度程度は顔を合わせよう。儂の方からそちらへ出向くようにしようかの」
「そうデスネー。本を読むだけではよくないデショウし」
「いや、それよりも言葉は大丈夫なのかの?」
「ハハハ。ひらがな、カタカナ、アルファベットはもう覚えマシター。あとは辞書の類も写し終えマシタし、どうとでもなりマス。少し確認程度に、キツネさんとタダシさんにお手伝いしていただくかもデスネー」
賢王半端ねえ。俺の説明役はあっという間にほぼいらない子である。
「それでは、こちらにもしばらくは寄らず、ひたすら図書館近辺で本を楽しもうと思ってマス。失礼しマスネー」
そう言って一礼し、座りもせず早々に玄関から出て行ってしまった。骨のままだったんだが、一応気配の隠蔽とかはしてくれているのだろう。キツネさんも手を振りながら、気をつけろよー、と声を投げかけていた。
さておき、どうやらようやくキツネさんと二人で休みを過ごすモードに入るようだ。とは言え、どこに出かける予定も立てていない。キツネさんがこちらの時間にして数時間で帰ってくるとは予定していなかったので。少し聞いてみるか。
「キツネさん。俺の休みはまだ数日あるわけなんですが、少し遠くにでも足を延ばしてみます?」
「ふむ、そうじゃったな。遠くとは、例えばどのあたりじゃ?」
「空いているかどうかわからないですけど、箱根の温泉宿とか。調べてみますか」
「箱根かぁ。こちらでも温泉が有名なのじゃなあ」
キツネさんは納得するように二回頷き、そして一回首を横に振った。
「のんびりするだけならば、部屋でゆるりと過ごしていればよいかの。異世界とこちらの違いを楽しむのもよいとは思うが」
「そうですか。まあ俺も言ってみただけですけどね」
「それに大きな風呂に入りたければ、以前行ったホテルでもいいしのう?」
キツネさんは楽しげに笑いながら、俺の膝に寝転ぶ。まあ大きい風呂を二人で楽しむって意味じゃあ悪くはないけど、さっき散々したのに、またホテルの話とか。
ちょっと俺がげんなりしたのを見て、キツネさんがころころと笑う。
「今から行こうと言っているのでもないのじゃ。そんな顔をしないでおくれ」
「ああ。いや、すいません」
「よい。さて、出かけるのも億劫じゃ。出前でもとって、のんびり遊ぶとするかのう」
そう言うとキツネさんはのそのそとベッドの上を這って、枕の近くにおいてあるスマホに近づく。
出前かあ。今日は天ぷらに食べ歩きでこってりしたものばかり食べていたような気がする。出前って味濃いのばっかのような。
「んー。さっぱりしたもの食べたいんで、何か買ってきますよ。何がいいです?」
「む。ならば儂も行く」
俺が立ち上がると、キツネさんが軽く人間工学を無視した機動で俺の横に飛んできた。
「この時間じゃと、惣菜の割引は精々が二割程度じゃのう」
「割引の惣菜って油っこいの多くないですか?」
「儂はまだ唐揚げを『あ〜ん』させてもらっておらんからの」
「別に唐揚げじゃなくてもいいでしょうに。なんのこだわりですか」
二人で笑いながら買い出しへ行き、戻ってからも眠るまでゆっくりと過ごす。
その後の連休もそんな感じで、ゆるくゲームしたり散歩したりして過ごすのが大半だった。