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キツネさん、送り返す

「ソルのことはよい。そろそろ母に帰ってもらおう。一日たっぷり遊んだことじゃし、満足じゃろうしの」


 キツネさんはため息一つついて、酒の山の上で酒をかっくらうリュウさんを見上げた。


「ほれ。儂と違って、あまり長い間住まいを空けるのもまずかろう」

「わかったわかった。ここでの酒と肴は名残惜しいが、確かに、そろそろ帰らんとな」


 リュウさんはキツネさんへ大げさに腕を動かして承諾の意を示して、持っていた酒瓶を口に垂直に立てて一気に飲み干す。空瓶をタマに放り投げ、すうっと宙を浮いてキツネさんの前に浮き、優しく頭を撫でた。


「昨日も言ったが、兄弟達に顔を見せに行ってやれ。な」

「うむ。子を産んだら行くつもりじゃ」

「そうか、十年もかからずに来そうだな。産むときは苦しいだろうが……」

「大丈夫じゃ。そこいらの娘とは違うからの」


 リュウさんを連れて来たときにはふてくされ気味だったキツネさんだが、今は大人しく頭を撫でられながら少しはにかみつつも微笑んでいる。

 リュウさんも微笑み、そうだな、と一つ頷く。


「それでは門を開けてくれ」

「おう」


 魔力の風が吹く。ソルさんの術よりも盛大な流れを感じる。あちらはあちらで召喚術なのかなんなのかわからないが高等な術であったろうに、それを超えるキツネさんの術をこうして体感すると、ソルさんがキツネさんに敵わないと言う事実の一端がかいま見える。

 異世界へと通じる穴が開き、リュウさんがその前に立って振り返り様に手を挙げ、俺を見た。


「タダシよ。そそっかしいところもある娘だが、よろしく頼むな!」


 笑顔で言葉を残したリュウさんは、そそくさと穴へ飛び込む。


「余計なことを言いよってからに、土産を送らんぞ!この馬鹿親!」


 声が届いているのかわからないが、穴に向かってキツネさんはそう叫びつつも、タマとサキが物品をぽいぽいと穴に放り込むのを止めない。あっというまに狭い部屋にあったものとしては膨大な量の品物が消え、穴も蒸発するように消えた。

 ふう、と溜め息を一つ吐き出して、キツネさんは冷蔵庫からビールを取り出し、冷蔵庫に片腕をのせて寄っかかりながら数回喉を動かす。


「疲れましたか?」

「うむ」


 どこを見るでもなく視線は下にやって、ぶっきらぼうに返事をするが、キツネさんの表情に不満はなさそうに見える。

 いろいろと連れ回させられたが、親子そろって肩肘張らずに遊んだ一日だったはずだ。悪くはない時間だっただろう。


「楽しかったですか?」

「……うむ」


 俺の問いに、キツネさんは数拍おいて頷く。何か思うところがあるのか、沈んだ気配はないものの、どこか気がそぞろに見える。

 語りたいのか、水を向けてもらいたいのか。しかし、なんとなくそっとしておいた方がよさそうに思える。ちょっと一服してきますと言って、サキを連れてキツネさんの横をすり抜ける。

 靴を履こうとしたら、背中に何かが触れた。


「タダシ殿……儂は嫁としてふさわしいのかの?」


 キツネさんが頭を寄せているようだ。

 俺の側にいていいのかということであれば、ただ頷くだけなのだが。どういう思考過程の後に出てきた言葉なのか、今日の出来事をふまえてみるものの、意図が掴めない。

 女性に近づかない生活をしていたせいか、俺は女性の機微ってのに疎い自覚がある。なんと答えたらいいものか。俺がどう思うかではなく、キツネさんが自身に向けて何か思うところがあるようだし。


「それを言うなら、俺は夫としてふさわしいんですかね?」


 適当に軽口を叩いてみる。

 こう言葉に出してみると、俺自身が矮小な零細企業勤務の一般人で収入も同世代の中央値を下回る身で、人との付き合いが上手いとも思っていないので、どうにも結婚相手としてあまりお勧めできる物件ではないのではと思える。

 キツネさんじゃなくとも、嫁さんがいるだけで恩の字なわけで。


「ふうむ。ふむ、ふむ。そうか」


 背中への圧力が消える。

 キツネさんは何かに納得したらしい。

 そのまま外に出て一服しながら少し頭を働かせてみたものの、よくわからない。わからないまましょうがなく部屋に戻ると、セクシーランジェリーに身を包んだご機嫌なキツネさんの吶喊を喰らった。


「ようし、戻ったかタダシ殿!抱き上げてベッドへ連れて行って欲しいんじゃがの!」

「さっきまでの妙にしんみりしてた空気は何処に行ったんですかね」

「細かいことは気にせんでよい。腹も減っておらんし、ソルが戻るまで時間はある。数日ぶりの夫婦の語らいじゃからの、可愛がってもらわんとの」

「ああ、時間が異世界あちらとこちらでズレてるんでしたっけ」


 俺の観点だとキツネさんのいない時間はごく短かったから忘れていた。

 言われるがままにキツネさんを抱き上げて、首筋や頬にキスの嵐を受けながらベッドへ進む。


「ほれ、ほれ。は、や、く。は、や、く」


 ご機嫌通り越してハイテンションなキツネさんをベッドに降ろすと、俺はそのまま上半身を引き込まれてガードポジションで上着を脱がされた。そのままベルトも緩められ、足も器用に動かしてあっという間にキツネさんに剥き身にされる。

 ソルさんが来るまで滅茶苦茶セックスした。

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