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キツネさん、店員を驚かせる

 ゲームセンターを後にしてビリヤードなんかにちょっと手をだしてみたり、キツネさんと一緒に来たことのあるバッティングセンターに寄ってみたり、日が暮れるまで遊んだ。

 飲食店にもあちこち顔を突っ込んで、たこ焼きだのなんだの合間にちょくちょく食べたり。


「晩飯時だな」

「母以外はそれほど腹を減らしておらん。そろそろ土産を買いに行くから、異世界あちらに帰ってから食べるがよい」


 リュウさんは食べてるそばから消化しているんじゃなかろうかと思えるが、キツネさんもキツネさんで本気で酒を飲んだときは明らかに飲んだ容積がおかしかった。体にとり入れたものはいったいどこに行っているのか。エネルギーに変換してよくわからん方法で保管していても不思議じゃないな。まだ短いつきあいでは何ができないのかもよくわからないし。


「ほれ、一旦戻るぞ」

「帰りたくない!」

「本気で居座るつもりなら儂には止められんし構わんがの。客でないなら儂は酒代も飯代も出さんぞ。儂とて稼ぐあてが真っ当とも言えんのに、母に稼げるかのう」

「ぬう、わかった。土産は頼むぞ?」


 どうやら駄々をこれ以上こねずにお帰りいただけるようだ。

 キツネさんが開いたワープの穴を通り、家の近所のスーパー近くまで移動する。


「儂と母はそこで土産を買ってくる」

「土産なのにいつものスーパーでいいんですか?」

「酒を買うなら見知った店の方が話をしやすいしの。それに値段を調べたが、この店は酒に関してはかなり安いほうじゃ。母の土産を選ぶのに丁度いいのじゃよ。タダシ殿はソルに図書館あたりでも案内してくれんか」


 否はない。是と答え、スーパーに向かう女性陣を見送る。市場調査して価格の比較なんてしてたのね。俺が近くていつも利用しているから、キツネさんも流れでなんとなく利用してるものと思ってた。

 キツネさんから近所のことで教わるとはなあ。いやまあ調べようともしてなかったことだけども。

 店員さんからしたら連日酒を大量に買っていく若い娘さんに見えるのだろうな。なんの仕入れだ。

 酒、酒と嬉しそうに嬉し気に歩くリュウさんを見てふと思った。俺の実感としては片手間程度に生身で雲の上までジェットコースターさせられた程度だが、いやそれもたいがい酷いが、核でさえなんとかできると言い切ったキツネさんが止められないという人である。軽く世界を支配してしまえるのでは。そうしないのは俺に迷惑をかけないためだけとも思えない。

 ソルさんと図書館へ向かう道すがらに軽く話を振る。


「ソルさん、俺はリュウさんの実力を正しく知るわけではないんですが、あの人であれば世界の一つくらい征服して酒飲み放題くらい軽くやってのけそうに思うんですけど」

「タダシさんはそう思うのデスネー。実際にできるのかも知れマセンが、その過程でどれだけ世界が荒れるかわかりマセン。荒れたらそれだけ酒や食べ物がつくられなくなりマス。リュウさんは戦うのが好きな方だと聞いてマスが、それにこだわって他の楽しみが減るのもよくないと自重してるのデショウ。異世界あちらの上位層はおおよそがそのような理由で制御するために結託してマスネー」

「結託、ですか。リュウさんみたいな人達が」

「エエ。逆らう者はリュウさんに近しい実力者が集まって袋叩きデスネー。普通の人の王程度は知らないことデスが」


 柔和なイケメンフェイスでほんわかと袋叩きとか言うが、恐ろしい話である。


「それは……どんな戦いになるんですかね?下手したら陸地がなくなるかと思うんですが」

「おお、タダシさんは中々鋭いデスネー。結託するべきかどうかという話が出たとき、一つなくなりマシター」

「……え?」

「私は詳しくは知らないのデスが、アトランティスという名の大きい島が過去なくなったようデス。そのときは制御する派と自由にする派の最終戦地がそこになったようデスネ」


 アトランティス。島ですか。大陸じゃないんですね。まあ一つの大陸がなくなる余波を考えるとある意味現実的か。

 ……現実的ってなんだ?

 というかリュウさんレベルが集まって殴り合いとかラグナロクかよ。ラッパ吹いたのは誰だ。


「戦争ですか」

「神話戦争なんて巷では言われてマスネー。超人戦争とか人外戦争とか言う人もいマスが。その戦争で制御する派が勝って以降は、小さい島がなくなったりちょっと山や谷ができる争いが時折ある程度デスネ」

「神話ですか」

「まあ普通の寿命の人々にとっては、はるか昔のことになりマスから。私達のように永らく生きている者のもとには、学者はもちろん様々な人々がたくさん集まって話をせがむようデスネー」


 私はそういうの面倒で隠れてましたけどねー、と他人のちょっとした不幸を見つけたときのようにソルさんがくつくつ笑う。

 そりゃ神話を直に聞けるなら人も集まるわな。キツネさんにもそういうものがあっておかしくないのか。


「数千年前の歴史がどうのでいがみ合っている世界の住人としてはうらやましい話です。どれが本当の話でどれが正しいのか、俺のような一般人には真偽がつかないので」

「うーん。長生きしていても記憶が確かかどうかは別デスからネー。話してる本人が都合よく改竄していたらわかりマセンし、結局はあまり関係ないとも思いマスが」

「数千年生きるような力を持っているのにボケたりするんですか?」

「うーん。ボケるというか。もともとトボケた性格というか。口が軽いというか。そういう方もいるのデス」


 数千年単位でトボケた奴がいる。とんでもねえ奴だな。

 と思ったがキツネさんもリュウさんもソルさんも、わりかしトボケたというかイイ性格をしているような気がする。勝手に異世界に行ったり、娘に酒を奢らせたり、拉致されたのに飄々としてたり。

 そもそも数千年も生きてるのに頭のネジが一個も外れてない奴なんてのもいないか。いや、寿命は関係ない。人間誰でもどっかネジの一個や二個すっとんでるものだろうな。俺だって他人のことは言えん。

店員「二日続けてビール箱買いですか!?」


さて、筆者の頭のネジはどれだけ外れているやら。

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