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キツネさん、選り好む

 俺がぐったりしている横で、キツネさんとソルさんが魔術考証をしている。

 リュウさんはそれに興味がないようで、ニコニコしながら曲目選択の機械とマイクを俺に差し出してくる。


「別に魔力を込めんでよいから、さきほどの歌をもう一度聞きたい」

「はあ。まあ構いませんが」


 まさかのアンコール。キツネさん達のお話の邪魔になるだろうかと思って目線を送ったが、構わないと頷きが返される。

 ならばと同じ曲を入力し、再び三人にご静聴頂く。

 歌い終わると、キツネさんは微笑み、リュウさんはやんやと手を叩き、ソルさんも合わせて拍手する。

 気恥ずかしい。学芸会を見に来られた子供のようだ。

 そこで退室時間になった。


「結局曲数としては一曲しか歌ってないんですが、よかったんですかね?」

「母は満足そうじゃなから、よいのではないかの」

「おう、楽しかった!他にも色々な歌を知っているのだろうから聞いてはみたくあるが、タダシの喉が耐えうるまで歌えというのは酷だろうしな。ほどほどでよいだろうよ。何事もほどほどがよい」


 楽しんで頂けたならいいんですけどね。

 一時間歌いっぱなしくらいなら大丈夫だが、学芸会状態で一時間は精神のほうにしんどいので、気遣ってくれるならば切り上げさせてもらおう。それよりも、昨日ほどほどですまないレベルで酒飲んでいた気がするんだが、酔ってなかったしあれでもほどほどだったんだろうか。

 会計を済ませて外に出ると、人で賑わっている場所を見て回ることになった。キツネさんとリュウさんが相変わらず元気におしゃべりしている中、その後ろに続いて歩く俺の横で何か思案していたソルさんが口を開く。


「タダシさん。弦楽器や打楽器の音に妙な感じがしまシタ。昨日ゲームで聞いたような、私の知らない音というわけでもなく。町中で聞こえる音楽からも、同じように感じるものもあれば自然なものもあって。これはなんなのでショウ?」

「ああ、なんて言えばいいかな。機械で加工された音なんで、普通の楽器とは違う音になるんです。この曲を演奏しろと指示を送ると、曲の情報に沿ってそれっぽい音を時間に合わせて鳴らしているだけで、人の演奏した音をそのまま再現したわけではないので。カラオケのシステムをいちから説明するには機械の構造やらなんやら色んなものを話さないといけないですね。それに、逆に加工された音を意図的に使う音楽というものもありすし」

「ふうむ、なるほど。理解するには大変そうデス。音楽の文化もいろいろとあるようデスネ」


 大変そうといいながら、ソルさんはとても楽しそうだ。知らない土地の知らない文化を知るのは楽しくもあるが、割と疲れるものである。しかし知識欲が半端無いのか、柔和な笑顔からは疲れは微塵も感じられない。そもそもが幻なのだから、本当のところはよくわからない。

 リュウさんはその辺どうでもいいらしく、わかりやすいものに興味を向けた。クレープ屋で丸く焼かれた生地が手際よく折りたたまれていくのに歓声を上げて笑顔の店員さんから受け取り、スーツショップの前で缶ビール何本分なのかキツネさんと計算して眉間に皺を寄せ、宝飾店の前でキツネさんにアクセサリーをねだるものの土産の酒を減らすと言われるとおろおろして結局諦めた。

 そんなこんなで新宿をうろついている途中、リュウさんがしかめっつらをして何かを指差した。


「あれはなんだ?やけに騒がしいようだが」

「賭博場です。うるさいしタバコの煙だらけなので、入るのはお勧めしません」

「あいかわらず耳が痛くなりそうで、近寄る気にはなれんのう」


 パチンコ屋だ。警察等は三店方式を認識していないというスタンスでかたくなに博打ではないと言い張っているが、どう考えても博打である。

 キツネさんも眉をひそめる。どの鉄道駅前にもよくあるので以前に説明だけはしたことがあるのだ。そのときは聞くだけ聞いて、「うわ」と一言呟いて首を横に振っていた。博打そのものに忌避観はないのだが、消費する時間と耐えなければいけない騒音と匂いを考えたら到底やる気になれない、とのことだ。勧めるわけではないけど魔術でどうにでもなるでしょうと聞いたが、それでも面白くなさそうだと気がすすまないらしい。

 俺は博打にもパチンコそのものにもそれほど忌避観はない。母と姉がパチンコ含め博打によくわからない強さを発揮する人なので、影響を受けたのだろう俺も大学時代などはよくやったものである。

 しかしあの人達は俺の理解の範疇外の理屈で勝つ。どうも俺は博才というものを母の中に置きさって生を受けたようだと結論付けて以来、どうにも安定して勝てやしないと、自分の好きなアニメやゲームに関連するものをちょろっと触る程度になった。大抵は勝負的にも台の出来的にもがっかりする結果になるだけだが。


「賭博場はどこも騒がしくなるものデスが、どうにも人の騒がしさとは違うようデスネー」

「同じように騒がしい音がしてくる場所が他にもあるな。そこに、あそこに。こんなに賭博場が多いものなのか?」

「まあ、そうですねぇ」


 実際に、パチンコ屋が賭博場であると定義すると、日本はやたら賭博場が多い。しかし、なんでもかんでも博打にしてしまう欧米のブックメーカーやFXのバイナリーオプションを考えると、博打好きの人の多さってのは国別にそう変わらんのではなかろうか。


「ここは店先に太鼓があるな。賭博場に太鼓とは、何のためにあるのだ?」


 俺がせんなきことを思っていると、リュウさんは小走りに和太鼓らしき構造物に向かい、皮面をてしてしと軽く叩く。しかし思ったような音が響かなかったのか、リュウさんは首をかしげる。


「なんだ?太鼓のようで何か違うな、これは」

「それは太鼓を模したゲームです。ここは賭博とは違う、ゲーム、遊びを提供する店ですよ」

麻雀なんかでも言うオカルト理論派の言うことはよくわからん。

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