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キツネさん、ビール大瓶を一気飲みする

今回タイトルにほとんど意味はないです。

毎回ない気もしますが。

「タダシ殿、近くの天ぷら屋でよいかの?」

「ええ、連休で臨時休業してなければ。私が休みなように、世間の人々も休みにしていることはありますからね」

「そういうものか。さて、飯を食べに外へ行くから、母もソルも用意をせい」


 俺が着替える間、キツネさんは客二人の外出の支度を促す。と言っても魔術的な何かで外見をごまかすだけのようで、俺がシャツを被って頭を出すまでの間に支度は終わっていたようだ。

 ソルさんは昨日と同じように中東のイケメン風味。他の人種の年齢って見た目で推測が難しいんだが、中年ではなく青年と言っていいのだろう。

 リュウさんはキツネさんと同じくらいに身長が伸びて、黒髪のスラッとしたアジア人モデル風味の美人さんになっている。見た目の年の頃はキツネさんと大差ない。誰かにキツネさんの義理の母と紹介しても、育ての親とは思わずに複雑な家庭環境を思い浮かべられそうだ。


「見た目が大人でないと、外では酒を飲まさないと言われてな。面倒になるからと。髪色はついでだ」


 俺の視線を疑問と受け取ったのか、リュウさんが姿を変えた理由を言う。キツネさんが俺を女体化したときといい、異世界人は姿をポンポン平気で変えよる。

 家から出ながら、ふと思った疑問をぶつけてみる。


「そうやって姿形を簡単に変えられると、異世界そちらでは色々と不都合はおきないんですか?逃げた犯罪者を追うときとか」

「いやいや、姿を変えるのは簡単ではないですよ」


 イケメンが穏やかに頭を左右に振って否定する。

 曰く。ソルさんが姿を変えている方法は幻であり、実際に肉体が変化を起こしているわけではない。肉体を変化させることもできるが、面倒だからしていない。さらに言えば肉体を変化させることは相当高度な魔術であり、そんじょそこらの魔術師ができる芸当ではない。変化できる魔術師は魔力が特徴的でわからないはずはない。幻で姿をごまかす程度の魔術であれば多数いるが、それを検知できる魔術師の役人もまた多数いる、と。

 なるほど、にわかに魔術を知った程度で考えられる犯罪の手口への対応などは構築済みであると。現代日本でも技術が更新されるたびに犯罪の手口もまた更新されるが、それへの対策もまた更新される。どこも変わらないということか。


「それに、高位の魔術師ならば真っ当に稼いだ方が楽じゃしの」


 ソルさんの言葉をキツネさんが補足する。

 変化の術は高度な術という。そのままこちらの技術で例えるなら整形外科技術というところか。医師免許を取得する人なら、普通は真っ当な医者として仕事をするだろう。


「それでも、一部にはあえて罪を犯すような高位の魔術師も出てくるのでは?」


 全員が外に出て玄関の鍵を閉めながら、なお細かく質問してみる。高度で確かな腕を持つ医者だからこそ、俺の知らない社会の暗闇で輝くこともあるだろう。

 すると、キツネさんとリュウさんが不敵に笑って応えた。


「そういう場合こそ、儂等や儂等の身内の者達の出番じゃな」

「市井の者には対処しがたい魔物や魔術師の処理は、儂らの飯のタネだからな。はっはっは」


 一般的な警察組織には対処できない犯罪者への対応時に、キツネさん達の出番があるということか。どうやらうちの嫁さんと義母は機動隊か何かも兼務してるようだ。

 揃ってこっちで酒飲んだくれてていいのだろうか。そう思いつつも、向かう先の飯処でまた飲むのは明らかであるが。昨日、阿保みたいに酒を飲み干していった二人が、揚げたての天ぷらを食べて酒を飲まないはずがない。


「キツネさんやリュウさんならば、大抵の犯罪者など片手間で処理されるでしょうけどね。本気で対応しなければいけない場合は、それはすでに犯罪者ではなく、災害に等しい」


 再びイケメンが穏やかに頭を左右に振りながら、二人の言葉を補足する。うちの嫁さんと義母はレスキュー隊か何かも兼務しているようだ。いや、重機扱いなのかもしれない。いやいや、どっちかと言うと災害側の可能性が。実はキツネさん達がこっちに居る方が、異世界あちら側としてはほっとしてる人が多い、なんてことはないよね?


「その、どうも色々と治安維持に活躍しているようですが、揃って異世界あちらから居なくなっていても大丈夫なのですか?」

「身内の者が対応してなんとかするからのう。儂や母がやることは身内の者達を鍛えることの方が多いし、最近その役割も日本では儂の娘が、大陸では兄達が担うことが多くなってきたらしいがの」


 うちの嫁さんと義母は現場を離れた教官のようだ。さらに言えば実力を持ったままの名誉校長と言ったところか。別に煙たがられてはいないのだろう。たぶん。


「それでも一月近く連絡が無くて、キツネは娘に小言を言われていたがな!」

「一月居ない程度で気にし過ぎなのじゃ、葛の葉は」

「親の安否を気にしているだけだろう。キツネは奔放だから分からん考えかも知れんがな!」

「やかましい、分かっておるわ。それと儂が奔放なのは親譲りじゃ」


 やいのやいの言いながらマンションから出て小道を歩く。美人二人が小突きあいながら楽しげに歩いているのを男性陣が追う形だ。


「いやー、お二人とも仲がよろしいデスネー」

「そ、そうですねー」


 ソルさんが急に妙な発音の日本語で話しかけてきたので、どもって反応してしまった。

 なんですか唐突に。


「リュウサンは日本語がお上手デス。こちらへ来た最初からある程度話せたのかもしれまセン。異世界あちらの日本語との誤差をある程度修正するのと、ワタシが慣れるまで皆さんが魔術の翻訳を続けてくれるように、気にかけてくれているのデスネー」


 言われてみれば、前を行く二人の言葉は相変わらず魔力を込められているが、日本語で会話している。語彙が多少時代がかっているが、やりとりは日本人として問題ないレベルだ。魔力によって込められた意思が副音声的に聞こえていて、そちらに意識がいっていてリュウさんの日本語に気付かなかった。


「ワタシはまだまだデス。読みたい本がタクサンあるので、頑張らないとデスネー」

「半日でそれだけ話せたら普通は十分どころじゃないんですけどね」

「ははは。イエイエ、まだまだ」


 逆にソルさんの言葉には魔力が込められていない。

 各人とも外出するにあたって、外国語を何故か理解できてしまう不思議現象が、道行く人に変に思われて目立つことのないように気にかけてくれたのだろう。日本語の分からない外人さんに遭遇しても、まあ大丈夫だろう、たぶん。

 しかし、ソルさんも一日で会話が出来るようになっている時点で理解力がおかしい。


「スイマセーン、瓶ビール四つと、野菜の天ぷら追加でお願いしマース!」


 無事に開いていた目的の店で、店員さんに積極的に日本語を試してみるソルさんの姿は、様相と片言発音が変にマッチしていた。

副題 魔王、日本語インストール

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