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キツネさん、日本語を教える

「透明の柔らかい容器に入ったものより、ビン入りのものの方が美味いな」

「それが値段の差に出てますからね」


 リュウさんが2リットル近い安売り焼酎を飲み干した後、少しお高めの720ミリリットル麦焼酎をラッパ飲みして、味を批評する。

 というか、飲むペースが半端ねえ。2リットル近くを十分程度で飲むって酒関係無くしんどいだろう普通。まあ色々と普通の人じゃないんだろうが。


「母は儂より飲むからのう。今はこれでも抑えて飲んでいる方だがの」

「抑えてこれなんですか?」

「人の姿をとっているからの。龍本来の姿に戻って本気で飲み始めたら、酒蔵ごと飲み干してしまう」

「キツネと違って本来の姿はかなり大きくなるから、この部屋には収まらんしな」


 そうだった。人じゃなかった。


「リュウさんの本来の姿ですか。そんなに大きいなんて、一度見てみたいですねえ」

「わはははは。愛でるならキツネを愛でてやれ!」

「いや、愛でたいわけではなくてですね……」


 わいわい酒盛りをする中で、キツネさんはビールの缶の飲み口を口元でプラプラさせながらファミコンをセットする。挿すソフトはドラクエ。

 親と友人がいる中でそのチョイスか、キツネさん。せめてシューティングやアクションとかの分かりやすいものとか、対戦出来るものをやればいいのに。

 と、思いきや。


「これは何と読むのですか?」

「左上から順に、はなす、つよさ、かいだん、とびら、右の上からじゅもん、どうぐ、しらべる、とる、と書かれておる」

「話す、強さ、階段、扉、呪文、道具、調べる、取る、と」


 ソロさんがゲーム画面内の言葉を尋ね、キツネさんが答える。ゲームを使った日本語講座が同時に開かれる。ふむ。まさかそうなるとは。


「スライムベスのベスってなんでしょうか?」

「儂にはよく分からん」


 俺も知りません。ベスってなんでしょうね。

 キツネさんとソルさんに視線で訴えかけられたが、肩をすくめて応える。

 勉強になってるような、なってないような。

 キツネさんがゲームの内容も含めて説明しながら進行する。


「テトリスとは全く違う遊びなんだな」


 リュウさんが呟くと表現するには大きい声で誰に向けるでもなく言った。

 なんでテトリスを知っているのかと思ったが、キツネさんが持ち込んだ物の中にあったのだろう。パズル系を持って行ったとは予想していたが、リュウさんから言葉として出てくるとは思わず不意を突かれた。


「テトリス持って行ったんです?」

「うむ。ゲーム機本体とソフトを2つずつに通信ケーブルもセットにしてイザナギイザナミ夫婦に献上して来た。それを母も一緒になって遊んでいた」

「え?献上?」

「おう。珍しい面白いと遊んでいたぞ。持って行った電池がすぐに無くなりそうな勢いじゃった」


 キツネさんが現代日本のテクノロジーを持ち込んで異世界を掻き回している。これは異世界技術チートと言っていいのだろうか。


「ソルを連れて来た理由の一つもそれに関わってな。電池を何度も持って行くのは面倒じゃし、魔術でその辺なんとか出来るようにならんかと思ってな。こちらの日本の技術をソルに学んでもらって、魔術でなんとか出来るようにしてもらおうと考えたのじゃ」

「なるほど。私はこの何か不思議な箱についても学ぶことを求められていると。ふふ。いいですね。とても興味深い」


 キツネさんのお土産が異世界で面倒なことになりそうなので、ソルさんに押し付けようとしているってことだと思うんだが、ソルさんは乗り気である。お互い納得した取引なら俺の言うことはあるまい。


「電池を持って行く代わりに金子きんす でも貰って稼げるかとも考えたのじゃが、こちらに持ち帰っても売るのにまた面倒事がありそうだと思いとどまってな」


 異世界間輸出入を考えたが面倒そうで止めたと。なかなかいいセンスである。さすがキツネさん。


「こちらで大量に金を売るとなると身分証が必要ですし、出元が問われますからね」

「こちらでは何をするにも身分証じゃなあ。酒も飯も美味いし暇つぶしには事欠かないが、窮屈で仕方ないの」


 ふう、と長く息をはいて新しいビールの缶を開けるキツネさんに、リュウさんが意外そうに問う。


「多少の細かいことなど推し通るのがキツネだろうに。どうした?」

「それは母譲りの作法じゃ。付け足して言うなら、世話になった者に迷惑をかけんのも母譲りの作法。惚れた腫れた関係なく、世話になったタダシ殿が目立つことを望んでおらぬ故に、出来るだけ目立たぬようにしているだけよ」

「筋を通すためか。ならば仕方ないな。儂もそうしよう」

「私もキツネさんに倣いますよ」

「そうして貰えると助かる」


 リュウさんもキツネさんも筋を通すということを大切にしているようだ。俺が願ったためにキツネさんが自重しているのはわかっているが、リュウさんもソルさんもキツネさんの方針に従うと言う。

 俺の手元の核爆弾のスイッチが3つに増えた件について。なんだかとっても責任が重いような気がしてきたぞ?


「ところで、このゲームは最終的になにをするものなのです?」

「竜王を倒すして世界に平和を取り戻すのが目的のゲームじゃの」

「儂を倒して平和になるとはどういうことだ?」

「母のことではないわい。母が倒されるような争いが起きたら世界が滅ぶわ」


 和やかに笑いながらゲームしているが、話している内容が、これまたえらく物騒な件。責任がさらに重くなった気がする。

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