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キツネさん、待ち合わせする

「小難しいことは置いといて、タダシ殿は秋葉原へ行く以外に何か予定はあるかの?」

「特にないです。時間まで家でのんびりしてようかと思います」

「儂もそうしたい気分じゃが、稼げる時に稼いでおかんとな。終わったら家へ迎えに行けばよいかの?」

「そうですね……いや、先に行ってますんで、終わったら秋葉原で待ち合わせましょう。試しに一人で電車に乗ってみてください」


 ただ移動するだけなら、キツネさんならどうとでもしてしまうだろう。なので、こちらの日本を理解するための一環として、一人で公共交通機関を利用してもらいたい。

 俺の意図を理解してくれたのか、特に異論なく頭を縦にふる。


「駅に着いたら連絡をくれれば迎えに行きますんで。電気街口という出口から出てください」

「でんきがいぐち、じゃな。電気か。機械の類が関係あるのかの」

「そうですね。数十年と、機械の部品の専門店があって賑わっているところです。専門的過ぎて俺にはさっぱりですが」

「……何故そんなところに、その、夜のための道具が売っているのかの」


 キツネさんのごく当たり前の疑問に、肩を竦めて応える。


「さあ。その店ができた頃には、すでに機械の類を目的とした人以外にも色々と人が集まるところになっていたので、商売の目処が立ったからそこに店を構えたんでしょうけど。普通の人から見たら特異な店が多いですからね、あそこは」

「ふむ。何やら面白そうな街のようじゃの」

「さて。どうでしょうかね。まあ、中古のゲームや漫画にアニメソフトとかを扱う店も多いので、買うなら中野ここらよりも便利ではあります。というか、その手の物を扱う街として世界的に有名ですからね」

「……ゲームと漫画とアニメと、夜の道具との接点が、やはりさっぱりわからん」


 そう言われても、俺は再び肩を竦めて応えるしかない。知らんし。


「まあ、大きな街には何処かにその手の店はあるもんです。新宿にも中野にもありますが、秋葉原に行くのは、その店が俺の知る限り一番大きいので」

「タダシ殿はその手の店に詳しい、ということかの?」


 キツネさんの目が楽しげに俺を見つめる。男の子ってエッチでしょうがないわね、もう!とでも言わんばかりである。


 別に詳しくはないだのなんだのと話しているうちに、ほどよくキツネさんの出勤時間となる。キツネさんはにこやかに手を振って、店の中から直接新宿にワープして行った。

 周囲の人々は何も気にしてはいない様子である。今更ながら監視カメラの類とかは大丈夫だろうか。気にしてもどうにもならんが。


 中野から中央線で御茶ノ水まで行き、総武線に乗り換えて一駅東へ向かって秋葉原に着く。利用客の多い駅の最近の流行らしく、駅構内からすでに色々と店が並んでいる。

 秋葉原に来たら、その中の牛乳を瓶で売る店をつい利用してしまう。コーヒー牛乳飲料なんて巷に溢れているというのに、百円出してコーヒー牛乳を買ってしまう。瓶ごとキンキンに冷やされているのがいいのだろうか。

 くいっと一本飲んで売店のおばちゃんに空瓶を渡し、やたらとアニメやゲームの類の広告が多い駅構内から電気街口の改札を出て、右に曲がって空の下へ出る。

 各種の小売店やサービス店が開き始めている時間で、それなりに人出がある。これが朝方や深夜になると、新宿などとは違ってめっきり人がいなくなる。ある意味正しくオンオフがはっきりしているとも言える。

 数ヶ月前ぶりの街並みを観察しながら歩いていくと、いつの間にか新しい食べ物屋が出来ていたり、以前はそこそこ通った店がなくなっていたり変化がある。相変わらずにアニメかゲームかの広告を大音量とともにスクリーンに流していたり、無双系ゲームのように吹っ飛ばしたくなるくらい鬱陶しい何かのカフェの客引きがわらわらいたり、変わらないものもある。良くも悪くも元気な街だ。最後のはどうにかして欲しいが。


 歩いていると、左手が勝手にスマホを取り出して俺の目の前に持ってこられた。サキの仕業である。


『まちあわせまで何をするんです?』

「ん〜。居るか分からないけど、知り合いの顔をちょっと拝みに行って、あとはそこらの店をぶらぶら冷やかそうかな」


 電話するふりでサキと会話しつつ、目的の店へ入る。何かの新刊の漫画の単行本やら雑誌やらが置かれている。


『本やですか?』

『本屋ではあるね』


 店の中で電話すると悪目立ちするので、スマホのメモ機能を使って会話する。

 店の中を進むと、音楽CDやらゲームやらがある。が、それらは同人のものだ。企業が作ったものではなく、個人や私的な集まりが作成したものである。

 同人と言えば。


『はだかの人のうすい本がたくさんありますね』

『そういう店だからね』

『さきほど、わすれろといわれたスライムの本が』

『気にしなくていいからね』


 成年向けの同人誌。なんだかんだ言って同人アイテムを扱う店ではこいつらの占有面積は広い。


『うすいのにたかいですね』

『そうだね』


 その辺は、まあ、しょうがない理由がある。というか別に買うつもりもないので、解説はせずに適当に流して、店員が作業してそうな辺りに行く。

 そこには元同僚の見慣れた顔があった。俺が以前働いていた店なのだから偶然でもなんでもない。相変わらず微妙に無駄にイケメンな顔を首の上に乗っけて、手にはエロ同人抱えて作業していた。

 最近の秋葉原の流行や、お互いの細かい私事を迷惑にならない程度に話をした。夏と冬が一番忙しい店である。オフシーズンの朝なんて、多少時間をとっても問題ないのは経験上分かっているし。


『ご友人ですか』

「うん。ここで一緒に働いていたことがあってね」


 店を出ると、大人しくしていたサキが早速とばかりに左手を操ってきた。どっかの寄生生物か君は。生活的に依存しているのは俺の方だが。


『キツネさまは恋人ではないのですか』

「嫁さんか婚約者だからね」


 友人と浮いた話はないのかということを聞かれ、恋人は相変わらず居ないと答えたのだ。詭弁である。


「居るって言っても、説明が難しいからねえ」

『なるほど』


 サキは素直に引いてくれた。

 というかね。真正直に話しても「それなんてエロゲ?」って言われておしまいな気がする。それに、仮に理解されたとして「嫁さんの友達紹介して」と言われてもサキかタマくらいしか知らん。これまた、いろんな意味で紹介したくない。

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