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キツネさん、異世界の米を食べる

 タバコを吸い終わって再び歩き出す。

 キツネさんは変わらず周囲を見回しながら歩き、時々強く興味をそそられるものがあるような時は少し立ち止まったりもしながら軽く質問をしてくる。


「これはなんじゃ?ガラスに飲み物が覆われているようじゃが」

「お金を入れてボタンを押すと飲み物が買える機械です。カラクリと言ったら分かりますかね。車も機械ですが」

「機械か。ふむ。聖術や魔術の類ではないのか」


 お、来たかファンタジー言語。


「聖術に魔術とは?」

「例えば、言葉や踊りもしくは文字や線を用いて、地を割り、水を生み、火を起こし、風を呼ぶ。儂ほどの優れた術師となれば、幻を起こし、昼を暗闇で塗り、時を操り、空を割る。突飛な術であるほど、使った後に体は重く心は虚ろとなり休む必要がある」

「体の中の何かを使って人の手では普通出来ないことをする、と」

「うむ。その何かは所変われば呼び方も変わる。聖力魔力心力精霊力神通力と挙げたらきりがない」


 要は呪文にMPだろう。機械を魔術具的なものと思っていたということか。


「そのような考え方はありますが、空想にあるだけですね」

「儂から言わせれば術もなくカラクリのみで車が走っていることの方が絵空事じゃがの。あちらの術具では自動車を作ることなど出来ぬが」


 つまり、科学技術もあるにはあるし、呪文的な力はよく使われているが研究はあまり進んではいないということか。


 こちらからも聞きたいことが色々出来たが、目的地に着いた。


「ここで朝飯を食べます」

「ふむ。委細任せる」


 店はなんてことはない、牛丼チェーン店である。このチェーン店の、朝の定食が好きなのだ。平日はパンを口に押し込むだけだが、休日はのんびり米で始める。


「とろろ芋と納豆と豚肉、どれがいいですか」

「む?むー。肉」


 店に入り食券を二つ買う。

 席に座り、店員にとろろと豚皿とつげる。


「ここは朝だけ出す食事があって、そこそこ安い値段で食べられるのが好きなんです。まあ、過度な期待はしないで下さい」

「む。分かった」


 出されたお茶に口をつけたキツネさんは特に感想を言うでもなく、他の客やポスターなどを見回す。

 静かにしているのは、他の客が黙々と食べては店を出るからだろう。


 数分待つと注文のものが運ばれてきた。

 サラダとソーセージと目玉焼き、漬物に焼き海苔に選択小鉢、白いご飯に味噌汁。


「腸詰めに玉子じゃの」

「ええ、で、その皿が豚肉です。じゃ、いただきます」

「ふむ。いただこう」


 海苔のフィルムを向いて見せ、醤油の容器を使って見せる。普段は醤油は使わない。

 その他の調味料も軽く説明、気になるなら空いた皿に少し出して試すことをすすめる。


 その後は、またなんとなく言葉少なく食べきってしまい、店を出る。


「悪くはない。そこそこじゃったな。玉子とタレは目についたの」

「まあ、ありふれた食事です。一人分で昨日飲んだビール二本より安い価格と、手っ取り早さが魅力といいますか。玉子がどうかしましたか?特に珍しいものではないですが」

「珍しくない、とな。いくらじゃ」

「後で行く店だと、生の玉子で一つあたり十円から二十円くらいで、何個かでまとめ売りしてます」

「うーむ……む、そこの時給900円以上とはなんじゃ」


 物価の基準をどこに置いていいのか分からず呻いていたのだろう。そこに、丁度良く給料の見本に気付いてくれた。


「一日を朝昼夜合わせて二十四に分けて一時間と数えます。えーと、一日八時間ほど働くのがよくあることで、日の出過ぎから日の入り前まで休みを挟んで働くくらいですかね。つまり、一日の稼ぎが七千二百円てことです、税が取られる前で」

「ふむ。借家なら家賃も払わねばならんじゃろうし、他にも色々払いがあるのじゃろうし。儂は今のところ居候じゃし。うーむ」

「まあ、俺は二人で困るほど稼ぎが少ないわけではないですから安心して下さい。贅沢もあまり出来ませんけどね」

「こちらの生き方を学んだら、働き口を探すつもりじゃ。それまでは慎ましくするかの」


 そうして頂けるとありがたいです。

 しかし、キツネさんは戸籍もないし、働くといってもどうすればいいのだろう。それどころじゃないかもしれない。


「今の日本だと、一人一人が生まれから死ぬまで情報が管理されてます。税もその情報を元に徴収されます。働くどころか、外を出歩いて警官……役人に身分を尋ねられたら不審に思われて捕まるかもしれません。まあ、見た目は美人過ぎて目立ちますが日本人として問題ないと思いますし、いざとなったら軽く逃げられるでしょうけど」

「むー、確かに人を撒くくらいどうとでもなろうが……大手を振って歩けぬのはなんとも落ち着かぬな。仕方がないかの。悪くとも、タダシ殿に迷惑はかけぬよ」

「迷惑とは思ってませんよ。戸惑ってはいますが」

「美人と思ってくれておるからかの?」


 キツネさんがくつくつと、なんとも艶っぽく口元に手をあてて笑う。

 まあ、否定はしない。

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