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キツネさん、寝かしつけられる

「やれやれ、では寝るとするかの」


 そう言って起き上がり欠伸をひとつすると、キツネさんはキャミソールを脱ぎ捨てた。さらにブラとショーツも脱ぎ捨て明かりを落とし、再びベッドに横になって俺の腕の中に潜り込んで、脇から胸のあたりに頭をのせた。

 寝るのに窮屈なブラを外すのはわかるが、何故にショーツまで脱ぐのか。これがわからない。


「なんで下まで脱いでるんです?」

「昨日今日とは何もせずに寝るからの。せめてタダシ殿の温もりをより感じて寝ようかと思ってな」


 ショーツを脱ぐことによって増える温もりとは如何に。

 仰向けで寝っ転がる俺にキツネさんの半身が被さって、足に足を絡めて尻尾がさわさわと触れる。さらに俺のシャツの中に手を入れ、シャツを胸元までめくり上げつつ心臓のあたりまで撫であげてくる。


「くふ。おやすみ、タダシ殿」

「寝かせてくれる気があるとは思えないんですが」

「気のせいじゃ気のせい」

「てい」


 悪戯を仕掛けてきた意趣返しというわけではないが、キツネさんのゲームをしっぱなしでこったであろう首を掴んで揉む。ちょっと体勢がつらいけど。


「お。お。あー。あー……」


 なんだかんだ言ってもやはり眠気には勝てなかったらしく、目を瞑ってマッサージを受け入れているとすぐに寝付いてしまった。

 キツネさんの心地良い重さを感じながら、俺も目を閉じる。



 ベッドの端で目が覚める。暑い。というか布団が重い。なんだ?

 キツネさんはどうかというと、掛け布団を俺の方に除けてしまったらしく、素っ裸でいろいろあけっぴろげである。野生児か。まあ野でも山でも裸ひとつで生きられるんだろうが。ベッドを広く使って大の字になり、どんな夢を見ているのかにへらと笑いながら気持ち良さそうに寝ている。追いやられたわけではないと思いたい。セミダブルというサイズは、つくづく一人でゆったり寝る用のサイズだと思う。


 計二回にわけて十分に寝たせいか、まだ朝七時過ぎだ。キツネさんに悪戯したい誘惑に駆られたが、寝ろと言ったのは俺が悪戯して早々に起こすのは人の道に反するだろう。

 キツネさんを起こすまでの時間を潰すためにこっそり外に出ようとすると、サキがシャツの内側に張り付いてついてきたので一緒に出る。

 寝起きの一服を吸うためにタバコをくわえるたところで、ライターを持ち出すのを忘れたことに気づく。戻るのもなんなので魔術で火を出すか。周囲に人目はないし。火を点けるのに魔術でもライターでも、どっちでもいいっちゃどっちでもいい。しかしライターは使いきらないと捨てられないので、普段は基本的にライターを使っている。

 人差し指の先に火を出し、タバコに火をつける。なんだかとても強キャラっぽい吸い方だなあと夢想するが、現実にはしがないサラリーマンである。喧嘩に巻き込まれでもした時には牽制程度には使えるかもしれない。

 タバコを吸い終わってマンションから出るものの、さて、どう過ごしたらいいものか。


「キツネさんを起こすのを九時過ぎとして二時間弱。さてさて」

『どこにいくんです?』

「どうしようかねえ。とくにこれといって、ねえ」


 一人で呟く怪しい人に見られないように、スマホにイヤホンを挿して電話してるフリをして、シャツの袖から出てきて文字を浮かべるサキにぼやく。


「ふらっと散歩をして、俺とキツネさん用の朝ごはんでも買って帰るかねえ」

『二時間もかからないような』

「だねえ。適当にコンビニで立ち読みでもするか……ま、のんびり歩いて考えよう」


 てくてくと駅前に向かって歩いていく。

 休日の朝の空気は好きだ。仕事や学業のためにせかせか歩く人が少なく、のんびりしている。

 それでもチェーンの飲食店やコンビニなんかはほぼ年中無休で開店が早い。中野駅付近では個人経営の飲食店は除いてファストフード系のチェーン店だけでもゆうに片手を超えるし、入ったことはないがコーヒーショップも色々とある。

 買って帰らないで、一緒に食べに出直してもいいか。作られてすぐ食べた方が美味いに決まってるわけだし。何を食べるか自分で選ぶのだってキツネさんは楽しいだろうし。そうしよう。


 中野駅南口から東へ行くと以前キツネさんに案内した図書館があり、イベントホールなども連なっている。

 そこからさらに先には結構大きいホームセンターもある。


「今使っているベッドはここで買ったんだよ。二人で寝るには手狭だし、今度新しくもっと大きいのを見繕いに来るのもいいかもね」

『わたしとタマでなんとでもなるかと』


 ありがたい申し出だが、スライムベッドの上で夫婦生活を営むのは如何なものかと思う。


「さすがに、会話できる相手を寝具にした上では、色々と、ねえ」

『スライム使いの男があれこれとする本もありましたが』

「忘れよう。忘れていいんだ、そういうのは」


 興味がないとは言わない。でもサキにあれこれさせるってのはなんかいやだ。サキは使役するモンスターっつーよりフリーダムな家政婦さんって感じだし。絵面はともかく内面的に、夫とそれに従う家政婦に責められる嫁って感じになってしまうような。アリだな。いやだからそうじゃなくて。


『キツネさまにそうだんしてみます』

「しなくていいから。今のベッドで十分だから」

『せまいベッドでキツネさまと仲よくありたいのですね』


 キツネさんじゃなくて俺がサキに弄ばれてる気がする。天然なのかわざと言っているのかわからないが、どちらにしろ俺が弄られ続ける生活なのは変わらないのではなかろうか。俺としては名前をつけただけだから、仕えてくれるといっても上から目線で指示を飛ばす気にならないし。というか居なくなると色々と困るレベルで助かってるし。


「別にベッドがどうだろうとキツネさんとは仲良くしていたいけどさ」

『あさごはんまえからごちそうさまです』


 おう。召し上がりやがれ。性的なことじゃなければ思う存分惚気てやる。

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