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キツネさん、誘う

 寝っ転がってキツネさんのゲームプレイを見ているうちに眠ってしまっていた。最近はリラックスした体勢をとって動画を見るなりしていると寝てしまうことが多々ある。子供の頃は親父や親戚のおじさんなどのそういう様を見て、よく眠れるもんだなあと思ったものだが。

 キツネさんは外出着から下着用途の黒い薄手のキャミソール姿になった以外、変わらずにコントローラーを手にしながら酒を侍らせていた。テーブルの上には冷凍枝豆の残骸が皿に盛られている。時刻を確認すると、午前三時半を回っていた。何時間やってたの、俺の奥さん。


「おう、タダシ殿。起きたか」


 キツネさんは俺が起きた気配を察したのか、ちらりと目線を向けて声をかけてくる。


「寝ちゃったみたいですね、すいません」

「謝ることではない。せっかくの土曜の夜だというのに、ゲームにのめり込んでしまった儂が悪い」

「勧めたのは俺なんでなんとも。楽しんでいるなら何よりです」


 おう、と返事をしつつ、画面内の『きつね』は最初の王様のいる場所へと向かう。中断するためのパスワードの仕様はおおよそ教えていた。どうやらようやく止めるらしい。

 王様に話しかけてパスワードが表示されると、俺にとって衝撃的な事態が起こった。キツネさんはスマホでパスワードを写真に撮ったのだ。

 なんということでしょう。

 そこは紙に書いてどっかに無くして、また最初からかと嘆きつつ再開して欲しかった。そこまで含めてファミコンの文化だろうに。猫に踏まれてバグるとかさ。間違った感覚というのは否定しないが。

 俺は微妙にがっかりして妙な顔をしていたのだろう、キツネさんが怪訝そうに尋ねる。


「な、何か儂は間違えたかの?」

「いえ、何も間違えてはいません。パスワードの保存方法としては手軽で確実かと思います」

「うむ。まあ、このくらいの文字量なら覚えようと思えば覚えられるがの。便利な道具は使ってこそじゃ」


 全くですね。ええ本当に。

 ゲームの中断の記録も問題なく終わった。ベッドでうつ伏せになっていた俺に、重みがかかりすぎないように柔らかい体が被さってくる。


「夜更けというより、そろそろ明け方じゃが……」


 キツネさんの唇が俺の左耳をそっと包み、離れるのを数度繰り返し、どうする、とひそやかな声がくすぐる。


「いや、寝ましょうよ」

「えー」


 キツネさんが体をゆする。押し付けられた胸がムニュムニュと形を変えるのが背中でわかる。


「儂は大丈夫じゃ。タダシ殿は一眠りしたじゃろう」

「もう一眠りさせてください。というか、できるだけ夜はちゃんと寝るようにしましょうよ」

「むぅ。仕方がないの。あの本に書かれていたことをするのかと、少し期待していたのじゃが」

「へ?」


 普通ではないプレイをご期待とおっしゃる。意外な発言に、つい素っ頓狂に声を裏返らせてしまった。


「あのような本を持っていたということは、いずれは試してみたいという思いの表れじゃろう?儂の求めるがままに無理をさせていたようじゃから、タダシ殿が求めるならば、と儂も覚悟していたのじゃがの。今日も熱心に読んでいたようじゃし」

「いや、あの本は貰っただけで、今日までろくに読んだことなかったんですが。せっかくだし、捨てる前にどんなものか確認しがてら読んでいただけで」

「え?」

「え?」


 キツネさんの動きが止まった。なんだろう。キツネさんに覆い被さられたまま、どうしたらよいものやらわからん。

 しかし、キツネさんに引かれたくないがために本をさっさと処分してしまおうとしていたが、してみてもいいと言うならば、ちよっとやってみたい。痛い系のプレイでなければ色々と興味はある。

 固まったままのキツネさんに提案してみる。


「んー、キツネさんがしてみてもいいなら、やってみたくはあります。でも、色々と下準備が必要なんですよね。どっちにしろ今からは無理です」

「む?お、おお。そうか。わかった。そうか、そうか……」


 狼狽気味に応え、数秒おいて、キツネさんは力を抜いて俺に体を預けてくる。全体重がかかっているが、そんなに重くない。


「……いわゆる、普通の交わりではないことは理解しておる。儂が忌避せんことを気持ち悪がられるかと思った」

「あんな本を持ってた俺の方こそ気持ち悪がられると思ってました」

「あー、もう、変に緊張したわ。で、準備が必要というが、何が必要なのじゃ?」


 キツネさんが俺の上から転がって横に移動し、半眼で気疲れ気味の表情で横から顔を覗き込んでくる。


「まあ色々と。本を読んで慣らしが必要だってことは分かっているでしょう?」

「まあ、の。何やら色々と道具を使ったりもするようじゃが」

「ええ。まずはそれらを買わないと」

「近所にそのような店があったかのう。ネットで買うのかの?」


 まあ、ネットで買うのもいいんだが、実物を見てから買う方がいいだろう。物見遊山が目的と言うならば、性嗜好品というのもある意味で文化の一端を担うものだし。


「いえ、そういうのを取り扱っている店は近所にもありますよ。行ったことがないだけでしょう。でもちょっと品揃えが少ないので、専門店に行こうかと」


 近所の店でも用は足せるが、ついでだ。専門店のある所は観光名所でもあるし、出掛けるにはちょうどいいだろう。

 新宿とは違う意味でカオスな街、秋葉原へ。

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