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キツネさん、ピザを受け取る

 ゲームにいそしむキツネさんを横目にアナルプレイの本を精読していたら、ガラス戸から見える外の景色には日差しがなくなっていた。


「キツネさん、夕飯どうします?」

「ん?ん。おお。もうそんな時間か。確かに腹が減った。ゲームをしていると時を忘れてしまうの」


 RPGは気に入ってもらえたのか、色々と豪快な人だが、ちまちまとプレイするゲームも悪くないようだ。


「何かゲームをしながら食べられるものを買ってくるか……いや、タダシ殿をそんな食事に付き合わせるわけにはいかんの」


 それどころかゲーム廃人めいたことを言い始めている。

 キツネさんとの生活で、俺は痩せたり身の回りが綺麗になったりと良い影響が出ているが、キツネさんには悪い影響ばかり与えている気がする。まあ、元々の生活スタイルを詳しく知っているわけでもないのだけれども。

 なんとなく、そんなキツネさんをさらに駄目人間にしてしまうかもしれない一手を打ってみよう。


「こちらには電話で注文すれば食事を届けてくれる店がありましてですね。ああ、でもゲームしながら食べるには向かないか」

「構わんよ、面白そうじゃ。どのような食べ物を注文できるのかの」


 冷蔵庫の横にあるカラーボックスから宅配ピザのチラシを取り出し、キツネさんの近くで広げる。二十代の頃は一人でLサイズ頼んでみたりもしたが、三十超えてからは油分が多いのもあってあまり使ってなかった。


「パンみたいなものの上に具材を置いて焼き上げるピザって食べ物です」

「やけに高いの」

「店まで買いに行くと半値ですね。半分くらいは配達代でしょう」

「人件費というものじゃな。まあ試してみるかの」


 適当にクワトロなんとかという具材の組み合わせが四種のものLサイズと、付け合わせのポテト、クーポンで無料のコーラ1リットルを電話で注文する。


「三十分ほどで来るそうです」

「ふむ。早くもなく遅くもなく。作る時間と配達の時間を考えれば早いのかの?」


 まあよい、と言ってキツネさんは再び電子の世界へ旅立ち、約二十五分。玄関のチャイムが鳴らされる。少し早く来たようだ。

 財布を持って配達員さんを出迎えようとすると、キツネさんもゲームを中断してついてくる。ドアを開けると爽やかな大学生風の青年が、お待たせしました、と微笑んだ。先に注文したものを受け取る。


「キツネさん、これ持って行ってください」

「はーい、あなた」


 いつもの口調ではないキツネさんにものすごい違和感を覚えつつ、代金を支払う。いや、猫を被るというか、外面を合わせてくれているのはわかるんだけど。そういえば、今日は帰ってきて即ゲームだったので、下着姿でなくてよかった。

 奥さん美人っすね!羨ましいっす!と快活に笑って、代金を受け取った配達員さんは帰って行った。こんな時、どんな顔をすればいいのかわからん。笑えばいいのかもしれないが、彼には曖昧な微笑みに見えていたことだろう。


「ふふ、奥さん。奥さん。いい響きじゃのう」


 部屋の中に戻ると、テレビの前、ファミコンの上にテーブルを用意し、その上にピザとポテトが広げられた横で、キツネさんがニマニマ笑って尻尾をパタパタしていた。


「準備はこんなところでよいのじゃろう?」

「ファミコンの上は避けた方がいいんですが、まあ狭いからしょうがないですね。電源入ってるところに動かすとゲームがフリーズしちゃいかねませんし」

「フリーズ?」

「予期せぬ出来事に機械が止まってしまうことを言います。ファミコンではよくあることなんで、遊んでるときには注意が必要です。ああ、言ってませんでしたね」

「……危うく動かすところじゃった」


 キツネさん用にビール、俺用にコーラを注ぐためのグラス、それと取り皿を用意し、キツネさんの隣に座る。じゃあ頂きますかと言いながら、まずは一切れ取って一口食べて見せる。そしてキツネさんも一口。


「ふむ。チーズとベーコンの塩気と脂がなんとも……」


 そして二人同時にピザの後味を洗うように、それぞれビールとコーラを一口。


「くあー。濃ゆい味をビールでさっぱりとさせるのがたまらんの。そしてまた食べる!美味い!」

「気に入ったようでなによりです」

「うむ。しかし、手が油まみれになるの。タマよ、儂が食べている間、最初の町の周辺で経験値稼ぎをしておいておくれ」


 キツネさんに指示されて、タマがうぞうぞとコントローラーに近寄る。スライム的な生き物がスライム狩りをし始めた。

 君はそれでいいのか。


「ところで、タダシ殿が飲んでいるものはなんじゃ?」

「コーラと言います。飲んでみますか?」


 俺の渡したグラスを煽り、これはこれで合うの、なんて言葉をかわしつつピザとポテトを消費していく。

 ピザは十二分割されていた。具材パターン四種を一切れずつ計四切れずつ食べ、残り四種が一切れずつ残ったものをどう配分するか、先にキツネさんに選択肢を譲ったところで、今日何度目かのファンファーレが鳴った。


「スライムばかり倒してたので、レベルが上がるまで時間かかりましたね」

「仕方あるまい。タマに任せて先へ進めることも出来ようが、自分でやらんとつまらんからの」

「人のプレイを見るというのも楽しめたりしますけどね。ネットに色々と動画も上がってますし。自分とは違うゲームの進め方を見るのは面白いです」

「遊びとはそういうものじゃろう。しかし、動画もそうじゃが、食べ物も電話一つでやって来たりと、便利なものじゃのう」

「キツネさんのワープには負けると思いますけどね」


 ピザを十分に楽しんだ後もビールを傍に置きつつ、キツネさんは再びコントローラーを握った。勧めたものの、どれだけやるつもりなのだろうか。

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