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キツネさん、ファミコンで遊ぶ

 問題の本を手にしながらベッドに寝っ転がって、キツネさんの言葉を色々と悩んでいると、当人が再び戻って来た。時間を確認すると、どうやら俺は数十分思索にふけっていたらしい。


「ほれ、タダシ殿。ゲーム代じゃ」

「明らかに多いですよねそれ」

「細かいことは気にするでない。さて、ゲームじゃゲームじゃ」


 明らかに十枚以上ある諭吉さん達をとりあえず財布に入れる。キツネさんのために金を遣うと利回りついて帰ってくる。どうにも金銭感覚がおかしくなりそうな今日この頃。

 さて、もやもやしていた俺とは違い、キツネさんはファミコンの前に女の子座りして、目で早く早くと俺を急かす。尻尾がぱたぱたしている。まあいいか。


「初めはこれがいいかと」


 取り出したるはスターソルジャー。名作シューティングゲームだ。多分。どうにもシューティングは苦手なので、出来が良いか悪いか判断をしにくいのである。嫌いじゃないんだけども。一世を風靡したゲームなので世間的には名作と言っていいのだろう。

 ファミコン本体にカセットを差す。ああ、なんか懐かしい手ごたえがする。

 一回試しにちょろっとプレイをやって見せ、分割した青い顔の敵が合体するところに挟まれて自機がやられたところでリセットボタンを押し、キツネさんにコントローラーを譲る。あの敵こんなに倒し難いもんだったっけか。


「ふむ。おおよそのやり方はわかった。戦闘機を操作して敵を撃破していくのじゃな」


 キツネさんは上機嫌にコントローラーを握って早速プレイし始め、軽快な音楽にのせてステージを進めて行く。

 ぬ、む、くぁっ!と唸ったり小さく叫びながら、だんだんと前傾姿勢というか猫背になってテレビを凝視するキツネさん。


「タダシ殿の仇!く、やたら堅い!倒せるのかこれ!?倒れた!」


 ボタン連打して堅い敵を撃破する姿は一昔前の小学生のそれである。なんとも微笑ましい。対戦ゲームでなくとも、友人達と交代でプレイしてあーだこーだと騒いでいたものだ。

 しばらくはキツネさんのプレイを眺めていたのだが、キツネさんにもうばれているならいいかと思い捨てようと思っていた本を手に取る。読み進めてみたところ、ハウツー本というよりも体験談ぽく書かれていて、官能小説にも指南書にもなりきれていない中途半端な内容に思う。これを読んだキツネさんは何を思ったのかと当人に目を向けてみると、ちょうど何度目かのゲームオーバーとなり、色っぽい声を上げて背伸びをするところだった。


「んー……ん、く、ふぃー。面白いんじゃが、忙しいのう」

「この手のゲームはそういうものですからねぇ」

「酒を飲みながら、のんびりできるものはないかの?」


 ゲームって酒飲みながらできるもんなんだろうか。まあ、キツネさんからしたらジュース飲みながらやるのと変わらんだろうが。


「のんびりやるものと言えば、これですね」


 次のおすすめは初代ドラゴンクエスト。日本にRPGロールプレイングゲームというものを広めるのに大きな影響を与えたソフトである。

 何故今更初代ドラクエなのか。俺が好きなシリーズだというのもあるが、それは以前ネットで読んだ堀井雄二氏がゲームデザインをする上で何を考えていたかという話を読んだことがあるからだ。それには、RPGやテレビゲームそのものにも慣れていない当時の子供達に受け入れてもらうための工夫が書かれていた。そこで、キツネさんへのRPGというジャンルの入門として分かりやすいのではないかと考えた。

 本体のスイッチをオフにし、カセットを取り替え、再びスイッチを入れる。

 ゲームのロゴが出てくるのと同時に、馴染みのあるオープニングテーマが流れる。町中でふと聞こえると、ついそっちの方を向いてしまうのは俺の世代では珍しくないのではなかろうか。


「さきほどまでとはまるで違うゲームです。のんびりやるというか、時間のかかるゲームで、試しにやってみせるのは面白くないと思うので手当たり次第色々やってみてください」

「む?ふむ、そうか」


 とりあえず初めから始める方を選択してキツネさんにコントローラーを渡す。


「まずは適当に名前を入れてください。遊ぶ人の分身みたいなものです」

「名前?ふむ。ふむ。ああ、こうして文字を選択して……なるほど」


 名前に『きつね』と入力し、予想通り最初はキツネさんは何をするゲームなのかよく分からずにコマンドウインドウを開いたり、あらぬところで無に話しかけたりしていた。しかし要領がいいのか頭がいいのか、コマンドの意味と会話によって情報を収集していくべき方針をいち早く理解し、最初の画面の宝箱から鍵を取り出し扉を開けるのに使用する。


「扉を開けるのに鍵を使ったら無くなってしまったんじゃが……これは一体……」

「まあ、このゲームではそういうものと考えてください」


 納得いかなそうなキツネさんをなだめ、ゲームを進めさせる。初めのラダトームの城の中をあちこちフラフラした後、外に出る。


「そこの町によって武器を買ってください。じゃないとまともに戦えないので」

「儂の分身なのに武器がないと戦えないとはの。貧弱な分身じゃの。まあよいか。武器を買う、武器を買う……最初の金だけではまともに買えないではないか」

「何を買うかはキツネさんが自由にやってください。『そうび』を忘れずに」

「こんぼうを買うしかなかろう」


 こんぼうを買って『そうび』し、町中をうろつき道具屋にたどり着く。


「ぬののふく……此奴はいま素っ裸なのか」

「ええと、まともに戦うための服ではないってことなのかと」

「どんな姿で王に謁見していたのかの。まあ、どんな権力者相手にも着の身着のままで接するというのは儂らしくはあるか」


 その後もキツネさんはちょこちょこ俺の話を聞きつつ、ゲームをプレイしながら内容を理解していく。


「のんびりというか、忙しくはないの」

「ええ。なので、俺はこういうゲームの方が好きなんです。敵の攻撃を見切ったりとかは苦手なので」

「そうか。しかし、スライムと言ったか。タマやサキとは似ても似つかぬものじゃったが」

「他のゲームだともっと近いものが出てきたりします。このゲームはデザインが特徴的ですからね」


 呼ばれたと思ったのか、サキとタマがキツネさんの両脇にやってきてプレイを見守る。狐の獣人さんが不定形生物スライムを供にファンタジーなゲームをしている。

 なんとも筆舌にし難い光景だなあ。

おっさんホイホイ

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