キツネさん、ゲームを買う
二階に上がり、ひやひやしながら腐女子向けの店を横目に中古ゲーム店につく。幸い、キツネさんはるんるん気分で行く先のゲームの店を見つめ、薄い本は目に入ってなかったようだ。
店内に入ってすぐのところにあるショーケースの上段を指差す。
「これがファミコンです。しばらくはゲームボーイかこれを体験していってもらおうと思います」
「ほう、これがファミコン……高いのか安いのか分からんの」
「んー、まあ、売り出した当時よりは安いんじゃないですかね」
ぶっちゃけて言えばネットに仮想ゲーム機エミュレーターなんぞゴロゴロ転がっているし、吸い出したソフトもゴロゴロ転がっている。秋葉原でファミコンのソフト全部込みのエミュレーターが千円とかで売られているのを見たことがある。安く済ませるには違法の手段をとればどうとでもなることではある。
しかし、実機を触ってもらうことに意味があると思うし、法にふれる手段はとりたくない。以前は若気のいたりでやんちゃなこともしていたが、今は真っ当に生活したいのだ。
キツネさんが不法滞在の可能性があるのは……まあ、なんというか、うん。現在の日本の法が魔法なんてものを認めていないので今んとこセーフってことで。
「本体は最後に店員さんに出してもらうとして、ソフトを選びますかね」
アクション、シューティング、パズル、RPGと。考慮していたものや名作と言われるもので店頭にあるものを適当に手にとっていく。アドベンチャー系は、どうだろうなあ。犯人はヤスの元ネタとかもやってもらいたい気もするが、名作と言われるアドベンチャーでも選択肢とかが理不尽な感じがするときがあって、ゲームに慣れていない人にはお勧めする気になれない。
十数本も選ぶと抱える量も結構なものになった。ゲームボーイのソフトは、今は家にあるのだけでいいか。
「随分と買うのだのう」
呆気にとられているのか呆れているのか口を半開きにしたキツネさんを連れてレジカウンターに行き、抱えたソフトを置いてショーケース内のファミコンも買う旨を店員さんに伝えて出してもらう。……なかなか素敵な額になった。
代金をカードで支払い、両手に紙袋を持って店を出ると、無言のキツネさんに後ろから抱きかかえられて家の玄関へワープする。
「そんなに急がなくても」
「時間は有限じゃからの。テレビをどこに置くかも考えねばならんし」
キツネさんに解放され、サキとタマの洗礼を受けながら靴を脱ぐ。背中に当たっていたキツネさんの双丘の感触が名残惜しい。散々触ってるくせに男とはどうしようもないものである。
部屋に入るとベッドの上にテレビが鎮座していた。パソコンモニタと比べるとかさばるな、やっぱ。画面は小さいのに。
「時間は……まだ大丈夫じゃな。ちと、もう一稼ぎしてくるかの」
キツネさんが玄関から上がってくる気配がないと思っていたら、靴を履いたままスマホを取り出して時間を確認していたようだ。
「どうしたんです?準備ができたらすぐやるものかと思ってたんですが」
「部屋のどこにテレビを置くかなどはタダシ殿に任せて、今日つかった金額分稼いでこようかとな。申し訳ないが、その方がよいかと思っての。では行ってくる」
別にいいのに、という俺の言葉を聞かずに、キツネさんはさっさと再びワープしていった。時間を確認すると、確かに今日の最終レースの時間まで一時間くらいはある。律儀な人だ。
しかし、これはチャンスである。
さっさとテレビを設置して例の本を隠さねば。できうるなら、どうにかして処分を。できないなら処分の目処を立てないと。
ゲームセンターでとった箱に入れられたままのフィギュアがスチールラックに雑然と積まれているのを退かせ、テレビを空いた場所に置き、電源をコンセントから延びた延長コードにさす。フィギュアは大きい袋にまとめる。後で売っ払おう。ファミコンを箱から取り出し、これまた電源を同じ延長コードにさし、出力ケーブルをテレビと繋ぐ。時間にして十数分。
そして危惧していた本は、本棚に袋に入れられたまま横積みにされていた。
中身を取り出して軽く中を確認し、どうしたものやら思案するが、燃えるゴミに突っ込むのは躊躇われる。紙パックの飲み物容器などは、飲み終わったら切り開いて干してリサイクルに出している俺である。本を燃やすなど以ての外。
思い悩む俺にサキが近づいてくる。
『主さま。その本がなにか?』
「うん?ああ、うん、どう処分したものかと思って」
『いつもどおり、まとめてすててしまえばよいのでは?』
うん。そうなんだけどね。そうなんだけどさ。そうじゃないんだな。詳しく言えないのがなんとも。
「ただいまー」
玄関を背にしてサキと話していた俺の耳に、聞きなれた声が届く。
俺の体は動かない。動けない。慌てて隠すと余計に目立つ。最適解が見つからない。入っていた袋で表紙を隠すのが精々だ。
ゆっくりと振り返ると、靴を脱ぐのが面倒なのか、キツネさんがふよふよ浮きながら冷蔵庫を開けていた。
「ちと飲み物をとりに……タダシ殿、どうかしたかの?」
「いや、テレビを買いましたし、いらない本も処分してしまおうかと」
嘘ではない。本当でもないが。
「そうか。できれば儂の読んでいない本は後にしてもらってもよいかの?漫画なんぞは既に全て読んだのじゃがの」
「ええ、わかりました」
といっても、この本は捨てる。絶対。読まれるわけにはいかない。
単なるエロ本じゃあないのだ。特殊なハウツーセックスの本なんて、その手の性癖がありますと言っているようなものなのだから。
「まあ、その本は既に読んでいるから構わんがの」
お気に入りの缶ビールの口をカシュッと開けて、尻尾を振ってキツネさんは再びワープしていった。
……さて。どうしたものか。