キツネさん、リサイクルショップに行く
もんじゃをつまみにキツネさんが都合ビール六杯目を飲み終えたところで店を出る。食べ物代より酒代のほうが高い。近頃ではよくあることである。
「古い型のテレビが欲しいので、中古品を取り扱う店に行きます。リサイクルショップというやつですね」
「リサイクルショップか。家の近くに服を取り扱う店があったの」
「服や本ならそれだけで一つの店を出せる手軽な商品ですが、テレビなんかは単体だと商売するのに難しいものです。そういったものを広く集めて売る店に行きます」
新宿から中野の家へと続く道の途中にリサイクルショップはいくつかある。そのうちの歌舞伎町から近い店へとたどり着く。
店の前には家電製品や家具に自転車などが並んでいる。
「ここか。店の前に置いてあるのは洗濯機かの」
「うちではサキとタマがやってくれるんで置物と化していますけどね。うちのも今度売り払ってしまいますかね、値がつくうちに」
「家にあるのは新しいものに見えたが、値が下がるのがそんなに早いものなのかの?」
「家電製品の中古って、買う側からすると当たり外れが大きいものなんですよ。安めの品なら保証も兼ねて新品で買った方がお得だったりしますから。うちのも新品で買ったものですし。だもんで、値がつくかどうかも怪しいんですけどね」
並ぶ品々をあれこれ解説し、店の中へと立ち入る。商品棚が二列並んで三つの通路に区切られていて、大小様々なものがジャンル分けされて陳列されている。入口から右側の通路をキツネさんが指差す。
「テレビとはあれらのことじゃろう?」
「そうですね。しかし、これは……」
白い指の先にはテレビが並んでいた。通路を進み奥まで確認するが、ワイドの薄型テレビしかなかった。
「ここには無いですね」
「ふむ。タダシ殿が求めている型ではないのじゃな」
「ええ。まあ、他にも色々と置いてるようなんで見る分には面白いんじゃないかと」
「そうさの。こちらには漫画も置いてあるようじゃ」
入口から見て左側の通路の壁側には漫画の他に音楽CD、DVDにVHSのビデオテープなんかが置いてある。
「この辺のものは家の近くの古本屋にあったりしますが、より安く売ってたり、中古でもあまり出回ってないものがあったりするので、宝探しをしてみるのも楽しみの一つですね」
「ふむ。儂には何が宝かよく分からんが。古本屋の音楽CDなどはほとんど見ておらんしの」
上下左右に並ぶ品々の中から、ふとキツネさんが一つ商品を手に取った。
「これは。タダシ殿も持っているCDじゃの。一枚百円か」
「はは……十数年前のものですからね。俺は当時新品で三千円で買ったものなんですが」
「そんなに値が下がるものなのじゃな……」
「当時の音楽CDなんかは特に。それなんかは百万枚は売れたものですからね。その分、中古でもやたら出回って安くなると」
「……漫画もそうじゃが、やはり色々と桁が違うのう」
壁の逆の商品棚にはCDのコンポやポータブルプレイヤーが並んでいる。
「この辺はCDで音楽を聞くための機械です。最近ではパソコンでデータを抽出したり、データそのものを買って聞くのが主流になって、使われなくなってきたものですね」
「タダシ殿は持っていたのかの?」
「持ってましたよ。パソコン使うようになって捨てちゃいましたけどね。買った時はこの手の機械がこんなに早く廃れるとは思ってもいなかったんですが」
「栄枯盛衰は世の常じゃの。どんなものでもいずれは消えていく」
自称四桁歳が物憂げに言うと含蓄があるような、無いような。いろんなものの移ろいゆく様を見ている説得力と、本人はいつ消えるのかよく分からない矛盾感。
「しかし、人も、物も、その形を失ったとして、触れた思いは残る」
うん。MDの曲タイトル編集なんかをちまちまやってたっけなあ。CDを三枚連続演奏する機能なんかついてて。バンドスコアを睨みながら何度も同じ曲をリピートしたり。
「思い出を振り返って、笑うことができるならば、それでよいのではないかの」
「ええ。俺の楽しかった思い出に触れて貰いたくてここに来たわけですが、残念ながら目的の物は無かったですね」
「ならば他の店に行くかの」
そう言って、ゆっくりと出入り口へ向かう途中、またキツネさんが何かを手に取った。
肌色成分の多いパッケージ。どう見てもアダルトビデオです。
「……見たいんですか?」
「いや、こういうものもあるんじゃなあ。しかし、六時間とは凄いものじゃ」
DVDによく用いられるトールケースのパッケージをよく見ると「六時間ガッツリ魅せます!!」なんて文字が太い明朝体で踊っている。
六時間とは凄いってのは、どういう意味で言ったのだろうか。聞かないけど。
「この手の物は、家には漫画しかなかったような」
「いや、ありますけどね。普通そんなもの持っているなんて、彼女や嫁さんにわざわざ言ったりしませんって」
「ふむ。あるならば買わなくともよいか。タダシ殿が居らぬ時にでも家探ししてみるかの」
「好きにしてください」
商品を棚に戻して悪戯っぽく笑みを浮かべるキツネさんに、肩をすくめてみせた。
「しかし、こうして中古として出回っているということは、誰かが買ったものということじゃ。前の持ち主は六時間も見た果てに何を思ったのか」
知らんがな。
ふと目に入るとちょっと注目してしまうのが人のサガ