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キツネさん、ハマる

 あ、しまった。

 長い時間プレイすると速度を増して落ちてくるようになるブロック群。ミスをしてもリカバーする余裕もないまま、誤魔化し誤魔化し進めていくうちに致命的なミスをしてしまった。

 ゲームオーバーになって画面の中ではロケットが飛ぶ。無限モードでは一番大きい奴だ。


「あー。こんなもんですかねー」

「三十万。先ほどより随分上回ったの」

「昔取った杵柄ってやつですね」

「さてさて、追いつけるかの、これは。やはり手慣らしにゼロから始めてみるかの」


 俺が難易度選択画面に戻ったゲームボーイをキツネさんに受け渡すと、寝っ転がったまま早速ゲーム機を操作し始める。


「なんじゃ、タダシ殿のやたら早いプレイを見た後では、やたら遅く感じるの」

「事実、かなり遅いですからね。でも遅いからと言って余裕かましてると、案外早々に終わってしまうこともよくあることですよ」

「ふむ。まあ遊びじゃからの。気張り過ぎることもあるまい」


 キツネさんのプレイをぼけっと見ていたら、いつの間にか意識が落ちていた。高速プレイならまだしも、低速テトリスは見ていて眠くなっても仕方がないだろう。キツネさんかサキかタマかは分からないが、眠ってしまった俺に掛け布団をかけてくれていたらしい。

 外は微妙に明るくなってきている。もぞもぞと布団から手を出してスマホを手繰り、今何時か確認する。まだ五時か。かなり早めの時間に寝付いてしまったから、目が覚めるのも早かったんだろう。

 キツネさんまだ寝ている。布団から覗いている白い肩と、ずれたブラの紐が艶かしい。同じ下着姿であっても、起きているときと寝ているときでは威力が変わる。自室で下着姿で起きているときは酒をお供にアニメか漫画を見て、おっさんのような姿勢でくつろいでるから然もありなん。

 あれ。最近寝るときは合体しないときでもブラは外していたはず。寝付きにくいとか言って。いったいどうしたのだろう。


 のどの渇きを感じたので冷蔵庫から何か飲み物を取ろうと、キツネさんを起こさないようにそっとベッドから抜け出そうとしたら、ゲームボーイがスイッチが入ったままテーブルの上に置いてあるのに気がついた。

 電池が勿体無いと思いつつ画面を見てみると、レベル9のスコア欄にカンストスコアがあった。ナニコレ。こんな数値見たことないんだけど。

 あ、これを俺に見せたいがために電源つけたままにしておいたのだろうか。なるほど。確かにこれはすごい。スコアカンストするとどんなロケットが飛ぶのだろう。昔のゲームだと特に何にもない可能性は高いけど。


 アイスティーをコップ一杯飲んで眠りに戻り、八時頃に再び目が覚めてもキツネさんは寝たままだった。いつもなら土曜の朝は馬券を買うためにこれくらいに起きて、俺を起こして一緒に朝飯を食べに出るのだけど、起こさない方がいいのだろうか。

 どうしたものかと思いつつ、服を着て外に煙草を吸いに出る。閉まる玄関ドアは音が響かないようにゆっくりと手を添えながら。携帯灰皿を手に、部屋の前の廊下でライターで火を起こし、メンソールの冷たい煙をのむ。

 最近は煙草の本数も大分減った。一人でいると節操なしに吸っていたのが、キツネさんと一緒にいるとほぼ吸わなくなった。吸わなくなるまでいかないのは、サキがかなり匂いを落としをしてくれるのに加えて、その状態でもわずかに煙草の匂いが残っている俺にキツネさんが抱きつきながら「これはこれでタダシ殿の匂いという気がするの」なんて言ってくれたからだ。気を利かせてくれているのだろう。それに甘えて喫煙趣味は継続されている。本気で止められたら多分止めてしまうだろう。そう思える女性に出会えたことが何より幸せだと思う。


 一服し終えて部屋に戻ると、玄関の上からサキに強襲される。サキを連れないで外に出ると、煙草を吸ってなくても毎回される。連れて出ても服の内側から這いずり回られるだけだけど。

 部屋の中に埃をできるだけ入れないためには根元から絶った方がいい、とはサキの談。掃除を一手、いやタマも合わせて二手に任せている身としては抗うこともない。むしろありがたい。

 そして部屋の中へ進むと、タマがキツネさんを揺さぶっていた。


「んー。なんじゃあ。もう朝か」


 キツネさんは気怠げに声を発しながら、のそりと起き上がる。そのままベッドの側のカーテンを引き、悩ましげに伸びをし、漸く立っている俺に気付く。


「おはよう、タダシ殿。ふああ、少し夜更かししてしまったので、まだ少し眠いの」

「おはようございます。見ましたよ、すごい点数を出しましたね。俺はあんな点数出したことありません」


 口に手を当てて欠伸するキツネさんへ、夜更かしの原因であろうものを見ながら挨拶を返す。


「くふ。そうかそうか。なに、タダシ殿がやってきたゲームをやっていくならば精一杯追いつかないと思ってな。ゲームそのものが面白いのもあったがの」

「楽しめたならよかったです。今日も競馬に行くなら、その間に次のゲームをピックアップしておきます。できるだけ楽しめそうなものを」

「タダシ殿は儂を寝不足にするつもりかの」

「この前までキツネさんに寝不足にされていたから丁度いいんじゃないですか」

「確かに平日には儂は長く寝られていたからの。これからどうなることか、困りることになりそうじゃの」


 くすくすと笑うキツネさんは、困ると言いながらも、とても楽しそうに見えた。

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