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キツネさん、勘違いする

 平日の昼は仕事、夜はキツネさんと訓練。さらに金曜の夜は体力が続く限り訓練。土曜は昼前まで寝て、新宿の場外馬券場までキツネさんを迎えに行き、そのままあちこちふらふらして夕飯を食べ、体力が続く限り訓練。日曜日はのんびりサキと過ごす。

 キツネさんと出会ってから俺のスケジュールはそんなサイクルとなって、一月以上が過ぎた。合間に桜の花見をしながら焼酎の空き瓶を十本以上拵えたりもしたが、そんなのは大したことではない。

 訓練の結果、俺は魔術を操れるようになった。意識的にできることは、精々がライター代わりの小さな火を出したり、歌に思いをのせるのが自在になったり、房中術で魔力を相手に送り込む程度だが。とうとう俺も魔術師となってファンタジーの仲間入りである。

 とは言え、キツネさん曰く、そこそこの魔術士の出力にもまだまだ到達していない。継続して訓練が必要とのことだ。訓練のおかげか腹回りが少しスッキリしてきた。揉み応えが無くなってきてキツネさんは少々不満顔だ。人の嗜好とは様々なことである。そもそも俺の腹に触れる時は訓練という名の交わりの時がメインである。触れて楽しむ時には、触り心地が悪くなる行為をするということだ。人生ままならないものだ。

 魔力が安定したようなので、キツネさんとの訓練は時間を減らせるようになった。そのため、二人でいる時はのんびりとアニメを見たりすることも増えた。文化理解のために俺の解説を交えながら。


 さて本日、四月後半の金曜。キツネさんと夕飯を家の近所の中華料理店でとっている。キツネさんはビールジョッキを侍らせて。


「タダシ殿、テレビゲームとやらをしてみたい」

「えーと、何から手を出せばいいか分からないから適当に見繕って欲しいってことですか?」

「うむ。ゲームとやらが広く楽しまれていることはよく分かったのじゃが、ゲーム有りきで話が進むものがあると理解し難いものもあるのでな」


 キツネさんにとって新しい文化接触のレクチャーを頼まれた。

 ゲームか。どういう方向性で紹介するべきか。


「キツネさん。新しいゲームをやってからだと、古いゲームはやってられないかもしれません。どれくらいゲームをやってみたいかによってお薦めするゲームが変わりますが」

「ふむ。儂は時間だけはあるからの。ならば、古いものから順繰りにやってみるとするかの」

「わかりました。古いゲームなら家にありますから、後で引っ張り出します。まあ、古いって言ってもキツネさんが生きてきた時間に比べれば大したことはないんですが」

「歳のことは言っちゃいやん」


 いやん、と言いながらテーブル越しに向かい合う俺に流し目を送ってくるキツネさん。近ごろ、言葉遣いが時々妙になる。最初は自分で婆と言っていたのに。こちらの言葉遣いを吸収しているんだろうが、遣い方がぎこちなかったりする。まあそれはそれで、言葉に不慣れな外人みたいな微笑ましさがあってかわいい。外人は生中お代わりなんて言わないと思うけど。


「その見た目で千年を超えて過ごしているなんて知られたら、世の女性達に若さの秘訣を教えてくれと懇願されまくるでしょうね」

「魔術が使えんと無理じゃな。儂は指導するつもりもないし、他の魔術が使える者に教わって魔術を習得するしかないじゃろうな」

「他に魔術が使える人なんてどこにいるんですか」

「タダシ殿か、儂があちらより連れてくるか、または儂の知らぬところにいるやもな。いないじゃろうが」


 俺が使える魔術は少なく、今のところ他者の魔力に影響を与えられるものは房中術しかない。それって俺が浮気しない限りありえないということではなかろうか。


「俺が魔術を教えるって、訓練以外に教える方法知らないですよ。他の女性に手を出すつもりはないですし、あんなにキツいのはしばらく結構です」

「む?何がキツかったのじゃ?」

「毎日平均三回はキツイですよ」

「え」

「え?」


 キツネさんが一時停止するかたわら、中国語なまりの日本語とともに生ビールが卓に置かれる。置かれてすぐに手をつけないのは珍しい。キツネさんは動揺しながらなんとか口を開いた。


「漫画では二、三回連続でしているのが当たり前じゃったが」

「俺は無理です。キツネさんの術があるからできてるだけで。普通の人は連続は無理ですよ」

「いや、その、ああいう漫画を読んでいるということは、タダシ殿はそうしたいのかと……」

「てっきり訓練のためかと思ってましたが」


 絶倫で連続複数回できるってのには憧れるが、強制起動させられて複数回はキツイ。


「いや、訓練は繋がっているだけでよいのじゃが……えええ……」


 キツネさんが頭を抱えて俯く。何やら思惑の行き違いがあったようだ。

 思い悩むキツネさんはそっとしておき、食をすすめる。春巻美味しい。

 ザクザクとした食感を楽しんでいると、顔を上げたキツネさんが急に生ビールを一気飲みし、再び追加を注文した。


「うう、夫へ不要に負担をかけていたとは……魔術師の指導者としても情けない……」

「いえ、俺もキツネさんに負担かけていたようですし、お互い様でしょう」

「いや、儂は、その、そうでもなかったというか。金土の夜は楽しみにしていたり」


 キツネさんは俺から目をそらして、少し恥ずかしそうに言う。

 訓練の時間が減ったとは言え、週末はイチャコラしている時間が長いせいで自然と回数が多くなっている。強制起動無しなので俺も辛くはないし。

 まあ、キツネさんが楽しそうで何よりだ。

タダシ君が順調に現代人離れしてますが、ジャンルタグ、ファンタジーでいいのかちょっと悩んでます。

小説家になろうの中だと、ファンタジーを土台として戦記や恋愛タグを付けてる人もいますし。

その他になるのかなあ、これ。

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