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キツネさん、外に出る

 同居人が増えたよ!やったね!

 なんて浮かれている暇もなく。


「さて、洗濯も終わったし朝飯を食べに外に出ますか」

「外は楽しみなんじゃが、食糧は全くないのかの」

「なくはないですが、休みの日の朝によく行くところがあるのですよ。さて、服を用意しますか」


 冬も終わりの頃合い。キツネさんの当座の服をどうしたものかと悩みながら、プラスチックの衣装ケースをあさって一つ一つ取り出してはサキに念のため洗ってもらう。

 黒無地のロンティーに、黒のジーパンに、黒の靴下に、深緑のカシミアセーター、赤いウィンドブレーカ。こんなものだろうか。完璧に休日のおっさんスタイルである。仕方ないね。実際俺三十路だし。

 一息ついてサキの洗うさまを見ていると、キツネさんが何かに気付くように口を開いた。


「タダシ殿、着替えの前に用を足したいのじゃが、廁はどこかの」

「あ、大切なことですよね。わかりました」


 言われるまで気付かなかったが、トイレの使い方を教えるというのは大変重要である。外出中に初めて気付いた事態を想像する。男女で分かれていないトイレを探し、二人で入って説明しなければならない。はたから見たら猥褻物陳列や軽犯罪法などに問われかねない。

 トイレをざっくり教えると、キツネさんはまた興味深そうに頷いてドアを閉めた。


 衣擦れの音がする。


 これは聞いてちゃいけないものだ。離れよう。

 しかし、つい想像してしまう。

 あの巫女服の下はいったいどんな下着姿が……下着姿?

 さすがに現代には和服を着るとき専用の女性下着とかもあるらしいが、昔の日本女性は下着をつけてなかったと聞く。キツネさんのところはどうなんだろうか。

 いや、それをどうやって尋ねたらいいのか。巫女服の中はどうなってるんですかってか。いや、いくらなんでもそれは。

 

 水が流れる音がし、ユニットバスのドアが開いた。


「タダシ殿、待たせたの。いやはや、廁一つでも目新しい。紙の柔らかさが素晴らしいしな」


 トイレの方向に振り向くと、巫女服を手に抱えた裸のキツネさんがいた。どう聞こうかと悩んでいたら、相手からの情報開示である。

 しかしいい感じに大事なところが見えない。


「何故に裸」

「着替えのついでじゃ。そちらに吊るさせてもらうの」


 キツネさんは裸を気にせず、ハンガーで引っ掛けっぱなしの服が並んでいるスチールラックに近付く。

 俺に対してキツネさんが側面を向ける状況。胸元には白い膨らみが、腰には紐が。

 そして尻尾が揺れている。


「吊るす棒も、止めるはさみも手軽で便利じゃの。さてタダシ殿、着付けを教えてくれるかの」

 

 キツネさんがとうとうそのまま俺の正面に相対する。大きすぎず小さくない膨らみを隠そうともしない。ブラジャー的なものはないのだろうか。

 そして、下半身には褌である。

 越中褌というやつだろうか。指差して聞いてみる。


「その前にキツネさん、その下着はあちらではよくあるものなんでしょうか」

「女がつけるのは月のものの時くらいかの。旅先ではなにかと役に立つのでつけてきた。褌がどうかしたかの?」

「いえ、服の下に下着をつける風習があるのを確認しただけです。まずは下着を買いに行こうと考えていたので。いや、尻尾があるんですね。ちょっと後ろ向いてくれますか」

「尻尾がどうかしたかの?」


 その場で反転したキツネさんの腰には紐が巻かれ、紐にはYの字型に布がついて三角形の穴を作り、そこから髪と同じ明るい茶色の毛を纏う尻尾が出されている。

 尻尾の付け根は尾骶骨辺りか。もう少し上か。


「尻尾を通す穴があるんですね。うーん、これに代わる下着は見つからないかもですねぇ」


 尻尾を邪魔しない形状だと相当ローライズか、昔話題になったオーバック型の下着くらいだろうか。

 どちらにせよセクシー系である。会って間もない女性にお薦めするものではない。


「こっちじゃ女性は胸にも下着をつけるので、その時まとめて見るだけ見ますかね。さて、着てみて下さい」


 服それぞれのどこが背側か、靴下はどこが足裏向きかを説明する。褌一丁の姿を見せつけられてしまったので、色々気にしないことにして着るのを手伝う。


 上はただ単にぶかぶかなだけなので個人的には可愛いくて有りなのだが、下は足の長さはぴったりだった。背は俺より低いのに。尻尾は腰に巻き付けて履くようだ。巫女服でもこれは変わらないらしい。靴下はサイズ違いでどうにも履き心地が悪そうに思えるが、靴を素足履きするよりマシだろう。


 キツネさんは肩を回したり肘を回したり膝を曲げたりして感触を確認しているようだ。

 俺もジャケットを羽織り、先に靴を履いて玄関ドアを開け、足で止める。外気が少しひやりとなでてきた。


「ふむ、ふむ。さて、いよいよ外じゃな!」

「ええ。靴が合わなくてどうにも歩きにくいでしょうが、我慢して下さい」


 予備の古い靴を出し、満面の笑みを浮かべるキツネさんを座らせて片方履かせて見せる。靴紐のないカジュアルな革靴である。


「このような靴はあちらでも見たことがあるが、確かに儂には大きいの。かかとが収まらぬ、合わないようじゃ。なら……タマ、儂の腰から下を覆って靴まで入り、足先をうまいこと落ち着けてくれるかの」


 タマがキツネさんの脇腹から服の内側に入っていく。そしてキツネさんが立ち上がって両足首を交互に浮かして動かし確認動作。どうやら問題なさそうだ。

 タマを連れて行くってことになるのか。サキも連れて行ってあげるべきだよな。


「サキ、一緒に行きたいか?服の中に引っ付いていられるならおいで」


 サキが壁と玄関ドアを伝って俺のジャケットに入りこみ、腹回りに張り付く。特に違和感ないな。ちょっと重くなったか。


「大丈夫かな。じゃあ行きますか」

「うむ!」


 玄関を出て周囲をきょろきょろと観察するキツネさんを横目に鍵を取り出す。


「なにをしておる?」

「戸締まりですよ。ほら、今は取手を回して引くと開くでしょう?鍵をかけるとほら」

「開かぬ。おお、開かぬ!」


 ほー、と感嘆するキツネさん。

 外に出て一歩でこれだと、今日はどうなることだろうか。

キツネさんのお出かけはこれからだ!

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