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キツネさん、新宿地下街に潜る

 新宿地下街に入る。服飾店なども見受けられるがスルーして、様々な飲食店が居並ぶエリアへと向かう。チェーン展開されている安価なファーストフード店、落ち着いた喫茶店、ちょっと値の張りそうなレストラン。ジャンルも和洋中様々。

 そんな店の中の一つにうなぎ料理店がある。俺が初めてここで食事したのはいつだろう。義務教育身分の頃には年に数度訪れていた気がするが、最近はご無沙汰だった。

 店に入ると妙に狭く感じた。もっと広かったと思ったが、子供の頃の印象が強く残ってるんだろう。

 店員さんに案内された席に着く。上着を脱いで横の空き席にかけ、俺はお茶を飲んで一息ついて、キツネさんは腕を上げて伸びをする。


「ふあー、地下への出入り口がそこかしこにあるわ、人がわらわら居るわ、なにやらゴチャゴチャしているの。息が詰まりそうじゃ」

「ダンジョンなんて揶揄されたりしますからね。慣れてない人は簡単に迷います。行先表示板も分かりにくいこと、この上ないですし」

「ダンジョンか。大陸の西にある廃城の地下迷路がそんな呼ばれ方をしていたの。元々は城の地下室をそう呼んでいたらしいが」


 RPG的な意味あいでのダンジョンしか知らないんだが、そういうものなのだろうか。

 店員さんを呼んで、鰻重の一番小さいサイズ二つと瓶ビールにグラスを二つ、それと鰻巻きを注文する。キツネさんは俺に任せてくれるらしく、注文には特に口を挟んで来なかった。しかし俺が注文を終えると、一息置いてぽつりと呟いた。


「魔物も宝もないダンジョンか。美味いものがあるからこっちの方が儂には嬉しいかの」


 まるで魔物も宝もあるダンジョンを見てきたように言う。

 魔術、魔物、スライムやら龍やら、ついにお宝のあるダンジョンですか。ちょっとワクワクする。


「魔物や宝?」

「うむ。人が近づき難い場所に篭り、魔術の研究をする魔物もいてな。そのようなことをするのは人が魔物になった者だけのようじゃが。その魔物の中に、城の地下室を拡げは拡げて巨大な地下迷路を造った男がいたのじゃ。本人は魔物となっても理性を失わず、骨と皮だけという干からびた死体のようになりながらも魔術の研究をしておった。研究の副産物として宝や弱い獣の魔物を創ったと言っておったの」


 ビールと漬物が先にやって来た。先ずはキツネさんに注いでから手酌する。二人揃って胡瓜を齧って、ビールをあおる。キツネさんは一気にグラスを空け、くあー、と満足気な声を出して表情を蕩けさせた。瓶を再びキツネさんのグラスへ傾けながら尋ねる。


「ダンジョンを造った本人と話したんですか。いや、骨と皮って。よく話す気になりましたね」

「出会ってすぐに彼奴より儂の力量が上であることを感じ取ったようで、あちらから恐る恐る話しかけてきたからの。儂の目的を聞いた後は、魔術の話ばかりをして、後は少しだけ身の上話を聞いたくらいか。礼をするから少し手伝って欲しいと請われて、しばらく儂もダンジョンに篭っておった。あそこも空が見えずに息が詰まりそうじゃったの」

「目的……そう言えば、なんでダンジョンに入ったんです?」

「ダンジョンからたまに魔物が沸いて出ると聞いて、魔物狩りで路銀稼ぎと物見遊山に。宝があるとは知らんかったがの」


 ダンジョンの主を倒すとか、盗まれた宝を取り戻すとかそういうのは無いんですか。なんだかちょっと肩透かし喰らった気分。

 まあそれ以上か、ダンジョンの主と交流するってのは。死体のような見た目か。リッチってやつだろうか。


「ダンジョンに入る際に、近辺の人達に魔物をなんとかしてくれと頼まれたりはしなかったんですか?」

「ダンジョン近辺では儂は名も顔も売れてはおらんでな、頼まれなかった。そもそも儂がダンジョンに入るとは誰も思ってなかったじゃろうな。はたから見たら街中で噂話を集める娘でしかないしの。周囲の貴族やらはなんとかしたいと考えてはいたようじゃ」


 鰻巻きがやって来た。口に入れると柔らかく焼き上げられた玉子とうなぎがホロホロと崩れ、あっという間に喉の下に落ちる。口に残った油分をビールで洗う。

 いつの間にか手酌をしていたキツネさんが、ビール瓶をこちらへ向ける。美人のお酌は嬉しいものだ。


「魔物と言えば、創った魔物は邪魔者除けの意味もあったらしく、彼奴には狩りすぎないように頼まれたの」

「あれ?そう言えば、魔物の発生原因って分かってなかいんですよね。創れはするんですか」

「彼奴も確実に魔物を創れるというわけではなくてな。何をどうしたら意図的に魔物が出来やすい、というのは多少分かっても、自然発生する条件がよく分からんと言っておった。解明出来たら英雄じゃな。そんなことより魔術の研究だ、とも言っておったが」


 世の平和に貢献出来ることだろうに、聞く限りじゃあダンジョンの主もキツネさんもあまり興味無さそうだ。本人達からすれば脅威ではないからどうでもいい、ということなのだろうか。


「懐かしい。彼奴はまだ研究を続けておるのかの。面白い奴じゃったから、朽ちてなければよいが」

「なんだかキツネさんの知り合いはぶっ飛んだのばかりですね」

「話に上るのはの。何の変哲もない知り合いの話なぞ聞いてもつまらんじゃろう」

「そりゃまあそうでしょうけどね」


 それにしたって龍王だかリッチだかスライムだか陰陽師だか女に迫る女だか、癖のあるのが多すぎると思うが。

 苦笑いしていると、キツネさんが意地悪そうにニヤリと口角を上げて言う。


「タダシ殿が一番変わり種かもしれんの。異世界の者じゃからな」

「こっちじゃただの人ですよ。こっちで知り合いが増えれば大したことはないでしょう」

「サキを従えて何を言う」

「たまたまでしょう、たまたま」


 横にかけた上着の裾から、サキが俺にしか見えないようになんかひょこひょこ意思表示している。大人しくしてなさい。

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