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キツネさん、スーパーに行く

 コンビニより多少遠い最寄りのスーパーに着く。この店は閉店時間がかなり遅めで、従業員はブラック勤務になっていないか、傍目から見てて心配になる。


「この店の扱うものは、ほとんどが食料品です。コンビニと違って一日中開いているわけじゃないですが、その分割安で種類が豊富です」


 なるほどと頷くキツネさんを連れて店内に入ると、野菜と果物の売り場が出迎える。入口付近にはカゴ置き場があるので一つ手に取る。

 キツネさんは商品を一つ一つ確認するようにゆっくり見て回る。ふと立ち止まり、並んでいる大根を白く細い指で撫でた。


「タダシ殿、どれも形が整っていて虫喰いもあまり見られないのう」

「店に並ぶ前にいびつなものは別にしているはずですし、きれいになるように作っているはずです。買う方もきれいな方が手に取りやすくて料理しやすいですし。売る方も大きさや形が揃っていた方が管理しやすいってのもあるんでしょうが」

「理由は分かるのじゃがの」

「何故そうやって作れるかは農家の方々の努力のおかげとしか言えません」


 知らないものは答えられない。キツネさんも明確な答えを期待していたわけではないようで、特に気にもせず再び歩き出す。

 次は肉類の売り場だ。鶏、豚、牛の肉が切り分けられて売られている。


「あちらの日本ではあまり食べることはなかったのう。特に牛などは好んで食べようとは思えぬものでな」

「ああ、これらの肉は食べるために育てられたものですから。動けなくなるまで荷運びやら畑を耕すためやらに働かされた牛は美味い肉じゃないらしいですからね」

「ふむ。大陸の西で食べた牛は確かに悪くなかった。それに、あちらの日本では狩った猪や鹿や兎などの肉なら珍しくはなかったし、魚の方がよく食べられるのもあった」

「ええ、こっちでも同じ歴史だと思います。ただ、今では同じ値段で食べられる量や料理の手間を考えると肉の方が手に取りやすいですね」


 漬物や納豆やらの売り場をスルーして魚介類売り場に向かう。

 店の規模もあってか、魚といっても大きい魚の切り身ばかりで、丸々一尾売りしているものは少なく、精々が冷凍サンマ程度だ。


「タダシ殿。サンマなら安いではないか」

「そうですね。でも、焼くと煙も匂いも肉より盛大に出ます。コンクリート、つまり石で出来た隙間風の吹かない家では匂いがこもる。面倒だから肉でいいや、ってなりやすいんです。食べるだけならいいんですけど」

「ふうむ。焼いただけのサンマも売っているのはそのためかの」


 魚介類売り場には調理済みのものも売っている。サンマなどは元値が安いからか、焼いただけで値段が八割増である。


「そういうことでしょうね。で、それを踏まえて次です。コンビニと同じように惣菜や弁当等も売ってます。俺がよく買うのはここら辺です。食べたいものがあったらカゴに入れて下さい」

「わかった。そうさのう」


 そう言って俺の説明を聞きながらカゴに入れたのは、根菜と椎茸の煮物、ほうれん草のおひたし、鶏の唐揚げ、カキフライ、そして何故か赤飯。


「赤飯好きなんですか?」

「そこそこじゃの。今日食べようと思うたのは、祝い事だからじゃ」

「競馬で勝ったからですか」

「ふふ、それも悪くないが。なに、こちらの世界へ無事渡って来られたこと。それと、タダシ殿と出会えたこと。祝うべきことじゃろう?」


 そう言って、キツネさんは口元を可愛らしく曲げて、柔らかく微笑む。

 異世界での第一次接触者が俺みたいな安全牌で良かったってことだろうけど、軽く告白されてんじゃないかとも思える一言に、こちらが気恥ずかしくなる。話をちょっと逸らそう。


「無事渡って来られたって、危険な可能性もあったんですか?」

「可能性というか、危険なことは既にあったのう。繋がった先が水場だったらしく、穴から水が荒れた川の如く出て来たりの。今回は無事で本当に良かった」


 それでもゲート式だからまだマシに済んでるんだろう。跳躍式だったら「石の中にいる」で命が終わってたかもしれない。なんでこの人、人生丸ごと博打打つようなことしてんだろう。


 さておき、最後は飲料売り場だ。キツネさん的には酒売り場である。


「酒が!ビールが!」

「落ち着いて下さい。酒は逃げやしませんし簡単に売り切れたりしませんから」


 う、ぬ、と何か喉に引っ掛かったような声を出して、早歩きでビールコーナーへ向かい、コーナーの前でキョロキョロと頭だけ動かすキツネさん。数秒置いて追い付いた俺が横に立つと、絶望の表情を俺に向けた。


「コンビニに置いてあった青いビールがない……」

「あー、生産量、作ってる量が少ないんで出回ってるところも少ないんですよ。今日は他のにしましょう。ここからそこまでがビールとビールみたいなものです」

「ビールみたいなもの?」

「酒にかかる税金のために、材料の違いとかで呼び方が違うんです。外国からしたら意味不明な分け方でしょうけど。色々買ってみましょうよ、キツネさんがもっと気に入るものが見つかるかもしれませんよ」


 そう言うと、キツネさんの目がくわっと開き、ビール棚と俺の顔を交互に二回見た。


「色々買うということは、幾つも買ってよいのじゃな!?」

「買うだけで、今日全部飲んでいいってことじゃないですからね?どんだけ飲むつもりなんですか」

「たくさん!」

「お菓子を欲しがる子どもですか貴女は。戻したり前後不覚になるまで飲む気だったんですか」

「心配はいらぬ!酔い潰れたことは龍王と飲み比べしたときくらいじゃからの。昨日飲んだビールくらいなら、今日寝るときまで飲み続けてもほろ酔い程度じゃ!」


 腰に両手をあてふんぞり返るキツネさんから、なんかまた新しいファンタジーな言葉が出て来た。龍王て。詳しく聞こうか迷っていると、キツネさんがしがみついてきて目で酒をおねだりしてきた。しょうがない。


「飲み比べですから、そうですね、小さい缶で俺が飲むのも含めて十本でどうです?」


 三五0ミリリットル缶を一つ手に取って提案してみる。


「ぬ。う。もう一声っ……」

「キツネさんは毎日そんなに飲むんですか」

「いや、その、あっちの日本ではそれほどでもないんじゃが、大陸だとエールや葡萄酒などは水代わりに飲んでいたのでな。大きい缶で一日三本くらいはの。せっかくだから、今日はもう少し飲みたいのじゃが、の」


 価格にして、ものによってはスーパー値段で六百円しない程度か。飲む量としては多い気もするが、色んな意味で人外っぽいし、大丈夫なのか。白人さんとかだと尋常じゃない量を飲む人もいるし。母ちゃんなんか週に一日休肝日作って、毎日もっと飲んでたのに死因は関係無かったしなあ。


「お祝いって言ってましたしね、全種類買って、ついでに焼酎も一本につまみも買っていきますか」

「タダシ殿愛してるっ!」


 やっすいなおい。

白人さんが日本の店でもっとデカイグラスでくれと言って、ピッチャーで出してようやく満足したっていう話とかあったり。

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