表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/163

キツネさん、通販サイトを知る

 紙とボールペンを取り出してローマ字入力表を書き出す。書き終わる頃には狐動画の再生も終わっていた。

 その間、キツネさんは俺に寄り添うようにして書き出す様を見ていた。近い。左の二の腕にキツネさんの胸が当たっている。誘ってんのか気にしてないのか何なのか。


「はい、書き上がりましたよ」

「ありがとう、タダシ殿」


 受け取ったキツネさんはとても無邪気な笑顔である。なのに格好は黒のスケスケ。このギャップを何と言い表したらよいものか。


「これを見て、慣れながら打てるようになればよいのじゃな」

「そうですね。アルファベットの位置を覚えれば、日本語も英語も入力出来るようになりますし」

「ということは、かな入力も覚えたほうが早いのではないかの」

「そうなんですけど、かな入力をするにはどう操作したらいいかうろ覚えなんで、その辺りを上手く説明出来ません。パソコン持ってても、機能を全て使いこなせるわけではないので」


 俺のパソコンでは、かな入力は使わないでほしいという意思表示だ。

 気付かないうちにかな入力にするキーを押していて、イライラしながらローマ字入力に戻す経験をしたのは日本にどれだけいることだろう。


「ふむ、とりあえずはローマ字入力を覚えればよいか。しかし、タダシ殿が居らぬ時に触るのは、ちと怖いの」


 確かにパソコンに不慣れな人に、知らない間に自分のパソコンに触られるのは色々と怖い。

 でも、こちらの世界に慣らすためには、何かしら一人でインターネットを使える環境が必要だろうし。


「儂の金で買ってしまえば壊れてもよかろう。儂が使うためのものを買えるほど、明日儲かればいいのじゃが。タダシ殿、このパソコンやらスマートフォンやらはいくらくらいかの?」

「俺が持っている機種は、両方とも少し前の型なんでもう売っていません。ちょっと調べてみますか。ネット閲覧するだけならパソコンじゃなくてもいいでしょうし、スマートフォンとタブレット端末を見てみましょう」


 ネット通販サイトで目的物を検索し、ざっと眺める。


「安いものなら一万円台から、高いものでも十万はしません。ネットをするなら他に月々通信料がかかりますが、千円から五千円てとこですね」

「通信料とは……いや、なんとなく分かった」

「分かったんですか。一応説明すると、ネットって手紙のやりとりをしてるようなものでして、手紙の配達代金と考えて下さい。配達人を選ぶ必要とかもあります。やっぱり詳しい理屈は置いときますけど」

「うむ。ちょっと触っていいかの」


 マウスを指差し尋ねるキツネさんに、マウスから手を放しテーブルから横にずれて、どうぞと手振りする。スライム座布団に乗ったキツネさんがモニタ正面へ移る。音も無く動いたので少しびっくりした。

 キツネさんが感触を確かめるようにマウスを右手で弄る。俺の操作を見ていて覚えたのか、軽やかに操ってページをスクロールし、商品の個別ページに飛び、眺め、戻って別の商品を見る。というのを五回ほど繰り返した。


「ふむ、何故こうも値段が違うのかさっぱりわからんの!」


 横に居る俺に素晴らしい笑顔を向けながら力強く言って、カラカラと笑った。


「何やら色々と能力が違うようじゃ。まあ、何を買うか決めるのは明日競馬が終わってからでよいかの。買わんでも、しばらくは散歩しているだけでも飽きないじゃろうし」

「キツネさんがそれでいいなら俺は構わないです。騒動を起こすつもりもなく、多少のことならなんとかしてしまえるのでしょうし」


 うむ、と頷いた直後、キツネさんは商品ページ右上の購入ボタンにカーソルを合わせて、思案のためか数秒固まった。


「タダシ殿、このボタンは」

「この商品を買いますってことですね」

「じゃろうな。うーむ……買うと伝えて、品物と金のやりとりは何かしら別口、手形のようなもので済ますのじゃろうか」

「手形。まあ、そんな感じですね」


 クレジットカード支払い、運送業者の代引、コンビニでの受取支払い、どれも決済代行だ。おそらくキツネさんの言う手形は現金決済の代替手段だろう。近いっちゃ近いのかな。


「戸籍だのの話から考えて、恐らく儂は使えないのじゃろうな」

「うーん……キツネさん名義では面倒かもしれませんね。必要なら俺名義で買ったほうがいいかもしれません。それに、通信料についても契約は俺名義でするしかないでしょうし」

「何やら色々と面倒じゃの。結局はタダシ殿頼りにならざるをえぬ」


 キツネさんは腕を組んで、ふぅ、と一つ溜息をつく。胸が持ち上げられ、スケスケ下着も合間って、白い双球が魅惑的に揺れる。が、どこかおっさんぽい。歳のせいだろうか。人間、歳をくうと性差がなくなっていくと聞くけども、キツネさんは精神的な意味で。


「仕方ないですよ、戸籍がないってのはそれだけ厳しいですから」

「不便さも旅の醍醐味と考えるしかないかの。さて、ちと話を変えて、タダシ殿は普段ネットでどんなものを見るのじゃ?」


 不平を言うより、知識を蓄える方向へ戻るようだ。

 俺が普段ネットで見るものか。まとめサイトに公式無料アニメやゲーム実況動画の割合が高いんだが、どうやって説明したらいいものか。

 そうですねえ、と言って、今度は俺が溜息を一つついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ