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異世界のキツネさん  作者: QUB


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キツネさん、揺らぐ

 お守り以外の要らなくなったものの処理をほどほどに終えた翌日、大晦日。

 特にやることがない俺は、同じくバイトの予定も入っていないキツネさんとともに、中野ブロードウェイに赴く。目的は中古のスーパーファミコンソフトだ。

 道中、キツネさんが思案気に尋ねてきた。


「昨日は、ファミコン以外にも手を出そうか、と言ったが、まだまだやっていないソフトも多いのじゃがの。ファミコンソフトは千本以上も発売されておるのじゃろう?まだまだ数十本程度しかやっていないのじゃが、いいのじゃろうか」

「それだけやれば十分だと思いますよ」


 テレビゲームと共に育った人々の一人ひとりで見れば、触ったことのあるファミコンソフトが数十本もいけばいいほうだろう。さらにはキツネさんがプレイしてきたソフトは、俺が自身の経験とネットの情報も参照にした名作と言われるものばかりだ。わざわざどうしようもないクソゲーを買っても、数日でやりたくなくなること請け合いなのでもう十分だろう。

 音楽で言うなら、八十年代の中途半端な売り上げの歌謡曲をわざわざ今更聞くこともない。クラシックを聴きはじめるのに、モーツァルトを聞いた後でサリエリへ移行するよりも他に聴くべきものもあろう。

 俺としてはクソゲーの雰囲気を知っていてもらいたい気もするが、クソゲーを楽しむのって金がなくて手持ちの札でどうにかしないといけない義務教育時代だったからできたことでもある気がするし。キャラゲーなんかはもとの漫画やらアニメやらを知っていないと楽しめるものではないし、そもそものクオリティー的にも微妙なものが多い。TMネットワークのファミコンなんかもあるんだが、ファンクスじゃない人にあれをやらせてもな。


「新しいゲームは作られ続けていますからね。週に一本遊びつくしたとして、やれるのは年に五十二本。ある程度は絞らないと増えるペースに追いつけないと思いますよ」

「はー……大層なものじゃのう」

「それにゲームの遊び方って色々ありますからね」

「ほう。例えば?」


 俺が少年期にドラクエ3を無意味に魔法を使える武闘家を量産したように、本筋とは別の目標を立てて遊ぶことはよくあることだ。ネットに誰でも動画を投稿できるような環境になり、ゲームのプレイ動画などは様々な角度から昔遊んだソフトに光を当てている。


「縛りプレイというものがあります」

「ゲームでSMプレイ……?」


 キツネさんが怪訝そうな顔を向けてくる。

 どんなプレイだそれは。俺が聞きたいわ。


「違います。RPGなんかで、店で買い物をせずに宝箱やモンスターから得られるアイテムだけでクリアを目指したり、職業を制限したりする遊び方です。自分の遊び方を制限するという意味で、縛りという言葉が遣われてるんですね」

「ははぁ、置き碁のようなものか。あえて不利を飲むことで遊び方が変わると言うことじゃな。機械相手か人相手かの違いということじゃな」


 置き碁というのは、囲碁のハンデ戦のことだっけか。

 こちらと似通った文化背景を持つ異世界でも囲碁というものはあるようだ。物見遊山で世界を渡るほどの人だけに、キツネさんは遊びというものにはそこそこ手を出しているということだろう。

 納得の表情を浮かべ、キツネさんは言う。


「遊びなど、要はいかに楽しめるか。どう遊んでどう満足するかは人次第、工夫次第ということか」

「他にもクリアまでの早さを競ったりしてる人もいますね。ドラクエ3なんかは速い人達だと五時間くらいでクリアできるようですし」

「は!?」


 キツネさんが普段よりハイトーンな声を出して、胡散臭いものでも見るかのように俺を見る。

 気持ちはわからんでもない。大学時代の友人から三十分もしないでマリオ3をクリアできると言われた時の俺も、恐らく同じ顔をしていただろう。さらにリアル(タイム)(アタック)というゲームプレイ動画のジャンルを初めて知って、三十分なんかはるかに遅いというのを知ったときも同じ顔をしていただろう。


「あれを五時間とは、何を、いったい、どうやって……」

「まあ、五時間という時間を出すために何度もやりこんで研究してるんで、実際には何ヶ月単位で研究してるとは思いますけど」

「ちょっと何を言っているのか、よくわからないです」

「囲碁だって一回打つのは数時間とかでも、研究には長く時間をかけるものでしょう?」


 何故だか敬語になって困惑しているキツネさんに、囲碁で例えて話してみるものの、どこか腑に落ちないようだ。

 その後、キツネさんは新しいゲームを大量に買い込んでいる最中は一旦そのことを忘れていたのだが、一緒に外で食事をとって部屋へ帰りテレビの前で鎮座しているファミコンを見ると、モヤモヤした感情を思い出したらしい。ドラクエ3を手に取り「五時間……」などと呟く。


「ネットに動画を上げてる人もいるんで、暇な時にでも見たらどうですか」

「わざわざ証拠もあるんじゃのう……」


 溜め息をつきながら、キツネさんはスマホを取り出して操作し始めた。


「ドラクエの動画とやらは、何やらたくさんあるようじゃが」

「ゲーム動画っていろんな人がいろんな形にしてアップしてますからね」

「タダシ殿が見たことのある動画はどれじゃ?どうせ今も暇じゃし見てみたい」

「はぁ。まあいいですけど」


 パソコンで作業していたサキにどいてもらい、ゲームプレイ動画を検索して見始める。

 年の瀬の昼下がりに男女揃って何をしているんだろうかと思わないでもない。

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