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異世界のキツネさん  作者: QUB


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キツネさん、愚痴る

 タマとサキのおかげで掃除をせずともいいとは言え、キツネさんの私物も増えてきたので片付けは必要だ。安上りに鍋を楽しんだ翌日、俺の目が覚めたらすでに分身さん達は各地に散っていったらしい。キツネさんはタマの座椅子に座って一人ファミコンを遊び、サキにスキャン作業を任せる傍ら、同居人達の邪魔にならないように不必要なものを選別していく。

 断裁した書籍をスキャンしてデータ化して残った残骸の紙の束、使い古されて穴が空いたりくたびれた衣類、更新される前の保険の書類などなど。年末のゴミ回収に間に合わないものもあるが、それでも思い立ったが吉日と手と目を動かす。

 そんな中、少し処理に困る物の前に思考が止まる。


「どうしたもんかなあ」

「どうしたのじゃ?」


 俺の背にキツネさんの声がかかり、振り返りつつ処理に困った物の一つをキツネさんの眼前につまんで見せた。


「古いお守りなんですけどね」

「護符か。力のかけらも感じないがの」


 キツネさんは受け取ったお守りをさして興味もなさそうに見上げながら言った。

 元々は力があったものの無くなってしまったのか、元から無いのか気になるところだ。

 まあそれはいい。どちらにせよ、学業成就のお守りはもう必要ないだろう。


「そうだとしても燃えるゴミに出して終わりって、心情的に出来ないんですよ」

「捨ててしまってよいと思うがのう。捨てられないのならどうするのじゃ?」

「それなんですよねえ。必要なくなったお守りって、貰った神社やお寺に返納するのが基本だと思うんですけど」


 他のお守りを代わる代わるとって見る。キツネさんも立ち上がってそれを横から覗く。


「どこで手に入れたのか見当のつくものもあれば、誰かにもらったのだろう見当のつかないものもあって。見当がついても遠かったり」

「どれどれ……こちらには大宰府と書いてあるものもあるのう。九州か」


 いつ手にいれたのか本当に覚えていない。修学旅行で九州に行った記憶はあるものの、思い出に残っているのは福砂屋のカステラと、ハウステンボスで花に囲まれて一人佇む坊主頭の同級生というシュールな絵面を写真に収めてゲラゲラ笑ったシーンだ。東京駅にも福砂屋があると後で知ってなんともいえない気持ちになった記憶もある。

 

「わざわざ行って返納とかしなきゃいけないんだろうか、これ。郵送でなんとかできるもんなのかなあ」


 時間と距離から生じる面倒くささを考えて溜め息をつきながらひとりごちると、キツネさんが得意そうに言った。


「遠い場所ならば儂に任せるといい、代わりに届けよう。九州ならば分身の一人が巡っておるところじゃしの」

「ああ……それはありがたいです」


 そんなもの全て無視できる人でしたね。

 とは言え、そんなに急ぐものでもない小物の扱いの話だ。


「まあキツネさんにお願いする前に、近場の神社のお守りは自分で返納しに行きますよ」


 あくまで自力で行くのが面倒な場所を頼むだけにしておこう。

 そう告げながら、ふと思いついた。


「ついでだし、キツネさんがよかったら初詣にでも行きますか」

「初詣?」

異世界あちらでは無い風習なんですかね?こちらでは、年の初めに神社仏閣に参拝するんですよ」

「ふむ。暮れから明けにかけて籠る者はいるのう。儂はイザナギの宮であの二人と酒飲んでくだをまくだけじゃが」


 そう言えば、キツネさんは体裁としては主神付きの神官という立場で位階を持つ人だった。

 世界が違うとはいえ、最高位の神官に小間使い的にそこらの神社に行って来てって頼むのはよろしいのだろうか。神官職の内実が親戚の家に居候して世間話をしてばっかりみたいなものだとしても。


「わざわざ神社に行こうとも思わんかったが、タダシ殿と二人で出かけるのならば楽しそうじゃの。それでは護符を返しに行くのは、年明けに細かい所作を学んでからにしようかの」


 キツネさんは嬉しそうに笑ってファミコンのプレイに戻った。

 どうでもよさそうである。よくよく考えると、異世界に戻っても巫女服に着替えることもなくラフな格好で談笑していた。神官としての意識なんぞ本当に欠片も無いのかもしれない。


「面倒な儀礼はあるのかのう?」

「多少の決まり事はありますけど、そう面倒なものはないですね。場所によっては何十万人と参拝がありますし、守れてなくても気にする人はそういないと思います」

「それはよかった。儀礼が堅苦しすぎるとどうにも肩が凝るような気がしての。こちらの祀られておる者たちも気にしておらんといいのじゃが。葛の葉には小言を言われてばっかりで……イザナギも気にしておらんというのに」


 無いようだ。儀礼の話から娘への愚痴に移っている。

 その娘さんから、俺はしっかり手綱を握っていてくれと言われているんだが、どう反応したらいいものやら。

 よく考えると、キツネさん自身が神官というよりは神寄りな扱いをされていた気がする。実力的にもそうなんだろうし。神レベルの存在に神社に小間使いに行ってもらうというのは……いやそうなると我が家は神を祀っているのか?女神と言っていいほど美人ではあるが。

 キツネさんの様子をちらりと伺う。今日も上機嫌にビールを飲んでファミコンをしている。

 本人がどうでもよさそうだから、どうでもいいことにして気にしないことにしよう。

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