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異世界のキツネさん  作者: QUB


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キツネさん、はにかむ

 キツネさんに連れられて背面飛び姿勢のスタイリッシュ帰宅し、ベッドに投げ込まれたかと思ったらキツネさんにマウントをとられる。


「我慢ならん!」

「何をしとるんじゃ、本体」


 俺より前にベッドで寝っ転がってゲームボーイにいそしんでいたキツネさんの分身のミコさんが、いぶかしげにキツネさんを見る。

 キツネさんがキッとミコさんを見ると、ミコさんが眉間に皺を寄せてゲームボーイを放り頭を抱える。


「おおう……」

「わかったじゃろう!」


 どうやら俺にはわからない手段で意思疎通がなされたらしい。

 キツネさんはそのまま俺の上で服を脱ぎ捨て始める。


「恥ずかしいやら!う、嬉しいやら!もう、ともかく、タダシ殿も脱がすぞ!」


 なんか脱がされて、いつも以上にキツネさんがハッスルした。

 時々キツネさんの分身が増えたり減ったり、疲れて寝るまで。



 翌朝、重い頭を振って起きる。

 世界を行ったり来たりで体感時間がおかしいが、とりあえず今は日の向きからして午前ではあるようだ。

 周囲を確認するとキツネさんは横に寝ており、分身さんのうちの誰かがヘッドホンをしてファミコンをしている。無言で目を合わせてお互い手を上げる。

 キツネさんも横の俺が動いたことにつられてか、不機嫌そうに唸りながら起きた。

 こちらも朝の挨拶を交わすと、キツネさんは裸のままフラフラと立ち上がり冷蔵庫からビールを二本取り出し、分身さんとともに朝から宣伝動画のようにいい笑顔でおっさんくさい声を上げた。

 まあ体を重ねたあとの朝はよくあることなのでそれはいいとして、聞きたいことがある。


「昨日はどうしたんですか、急に」


 キツネさんの眉間に皺が寄る。


「いやあ、なんというか、そのう……」

「タダシ殿の歌を聞いて、体に火が付いただけじゃ」


 キツネさん本人が言いよどんでいると、ヘッドホンを頭とテレビから外した分身さんが他人事のようにすっぱりと答えた。

 そのまま返答してくれた分身さんに問う。


「俺の歌にそんな効果が?」

「いや、儂らにしか効かんがの」


 分身さんが笑いながら言う。


「夫から愛を歌われて、効くのは妻だけじゃろう」


 分身さんは変わらず自分のことではないように言うが、言いながら少し照れている。

 キツネさん本人に目を向けると、いつの間にか服を着て冷蔵庫付近で体育座りしていた。俺と目が合うと、ふいっと視線を横に外し、そして数秒おいてまた目を合わせる。缶ビールを口許にプラプラさせて鼻から下が見えず、眉間に皺が寄ったまま切れ長な目がより鋭くなっている。

 しかし頬が持ち上がっている。怒りながら笑っているのだろうかと思っていたら、キツネさんは缶ビールを口許から離して表情全体を緩ませ、膝に顔を伏せて腕を膝下で重ねた。

 そのまま控えめでくぐもった声を出す。


「……普段タダシ殿はあまりそういうことを口にせんじゃろう。慣れておらんでな」

「もっと言った方がいいんですかね」

「いや……言わんでもいい、が」


 キツネさんが体育座りのまま、足首から先だけをパタパタと動かす。


「ただ、たまに、二人で歌を聞きたい、かの……」


 カラオケにはそこそこ行っている気がするが、そういうことではなく、思い切り気持ちを込めた恋愛の歌を聞きたいということだろう。

 正直、普段から愛を囁くのと同じくらいのハードルである。

 しかし、まあ。


「昨日の面子の前で本気で歌を披露しろって言われるよりは簡単なことですね。あれにリュウさんとか混じられたら」

「しないでください。ごめんなさい」


 キツネさんが顔を上げて、ちょっと遠い目をしてプライベートでは初めての敬語を遣って情けない声をして謝ってきた。ちょっと驚いたが、笑ってしまった。リュウさんとはカラオケはすでに行っているが、恋愛の歌を歌わないでくれということだろう。

 分身さんも笑う。


「くふ。身内の目前で愛を囁かれることが、あんなに恥ずかしいとはのう」

「うー……」

「というか、宴会途中でぶった切って帰って来てよかったんですか。サキもタマも俺の荷物とかも置きっぱなしなんですが」

「あー……」


 唸りながらキツネさんが床に倒れた。ビールがこぼれないようにキープしたままだから意識はしっかりしているはずだ。

 何かが心の中でせめぎ合っているのか、しばらく尻尾が落ち着かない動きをしたあと、ペタンと床に動かなくなる。すると、満員電車に乗ったときのような声を出した。


「タダシ殿、少し時間を置かせておくれ。今日中には持って帰って来るから」

「俺は一緒に行かなくていいんですか?」

「いや、一人で行くよりもなんというか、いたたまれない気持ちになりそうな気がするからいい……」


 そのままずりずりとゾンビのように玄関に向かうと、頭を冷やしてくると一言残して、キツネさんは肩を落として出て行った。背中がすすけていた。

 外の冷たい空気が流れこみ、俺と分身さんの肌を撫でる。体を一回震わせた分身さんに問う。


「そんなに恥ずかしいんですかね。俺も恥ずかしかったんですけども」

「あんまり言わんでおくれ。今は大丈夫じゃが、儂から本体に伝わることもあるのでな」

「そう言えばそうでしたね」


 寒さから逃げたくて布団にもぐりなおす。色々と疲れているようで、また眠りに落ちそうだ。

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