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異世界のキツネさん  作者: QUB


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キツネさん、待たせる

 信長さんは感謝の言葉を述べて、キツネさんが持ち込んだ品々をざっと検分していく。


「お願いしていたサツマイモの他に玉ネギ、ジャガイモ」

「野菜の種などもいくつか用意して、そちらの箱にまとめてある。手あたり次第に見繕ったものじゃがの」

「それはありがたいです。こちらの箱は菓子ですか……ああ、なつかしいなあ、これ。何十年ぶり、いや、百年以上?」


 信長さんが手にしているのは、小分けにされたブロック状のチョコレートが入れられている袋。いわゆるパーティー用というか、多人数でわいわい言いながらつまむタイプのもの。

 キツネさんがなつかしそうに眺める信長さんの手から袋をひょいと奪い取り、バリッと封を開けてひとつ食べ、袋の口を信長さんに向ける。


「味見をしておくといい。お主の知っている味と違うかもしれんしの」

「そうですね、ではお言葉に甘えてひとつ……こんなに甘かったっけ」

「ははは、そうじゃのう。味が濃いものが多くて、最初は儂も似たように感じたものじゃ。ほれ、猿も食べてみい」

「なんぞ黒々としておるのう、どれ……舌が痺れるほど甘いな!」


 溜め息をひとつつきながら味わう信長さんと、秀吉さんが驚愕する様を見て、キツネさんが何回か頷きながら笑みを返す。

 砂糖の甘さっていうものは中々に強烈らしい。キツネさんもリュウさんも平気そうに食べていたのだが。


「最近は肉体労働ばかりで塩気のあるものばっかりだったので新鮮な感覚です。こっちの箱は……え?」


 キツネさんが菓子や酒以外にもなんで持ち込んだのかよくわからんもののひとつ。

 ラジカセである。

 信長さんは不審そうに箱の中から発泡スチロールの緩衝材を外しつつバスケットボールより一回り大きい機械を取り出す。


「これはいったい……大納言様」

「うん?チョコや儂の服に見覚えがある世代ならばわかるじゃろう」

「いえ、わかりますが、こちらに持って来ても電源がありません」

「問題ない。電源も音源も用意してある」


 キツネさんは困惑する信長さんに音楽CDが何十枚と入っている他の箱を開いて見せた。

 電源は、ようやく一息ついて落ち着いたソルさんに魔術による半永久電池を作ってもらう。「単二乾電池六本とは大食いですネー」なんて言いながら作業するひからびたソルさんを、なんとも言えずに見つめる信長さんの心境はいかがなものだろうか。

 三分と待たずに作業は終わった。


「どれ、試しにひとつ何か聞いてみるかの。娘よ、ジャンルは何がよい。和洋の年代別ヒットアルバムからクラシックの管弦楽に雅楽まで、そこそこの種類を集めてきたが」

「えーと……」

「音楽は好まぬかの?」

「いえ、そうではありませんが」


 キツネさんの気の回し方の方向性が意外だったのだろう。信長さんはただ困惑し続けている。俺もちょっと困惑している。

 まあ音楽というのも古くからある娯楽であるけれども、俺の生きる時代に比べると異世界こちらのこの時代では、そう手軽に楽しめるものでもないはずだ。くわえて、信長さん自身がおそらく俺と近しい時代を生きていたと言っている。気軽に楽しめるものが増えれば生活に潤いが出るだろうし、食べ物以外にも何か懐かしめるものを持ってきた、程度の気遣いなのだろう。

 そんな考えに信長さんも至ったのか、ダンボールの前にしゃがみ込んで多数あるCDのうちいくつかを手に取って収録曲目を確認し始める。


「歌や音楽というものにそれほど傾倒してはいなかったのです。しかし、聞き覚えのある曲がいくつかありますね」


 信長さんが手にしているのは八十年代、九十年代の歌謡曲のオムニバス。やはり世代としては俺とそう遠く離れているわけではなさそうだ。

 キツネさんが信長さんの隣にしゃがみ込んで、その手に取っているCDを覗き込む。


「ふむ。まだ儂の知らん曲も多いのう。ではひとつ聞いてみるか」

「いえ、大納言様にご挨拶を終え次第、お連れして戻るつもりでしたので。皆様方、大納言様のお言葉を始めとしてお集まり頂いた方々です。元は私の事情からですけれど、申し訳ありませんがご挨拶頂きたく」

「ふむ。確かに顔を出すべきじゃろうのう。では荷をいくらか見繕い次第、参上するかの」


 キツネさんは立ち上がるとタマの上に音楽CDが入ったダンボールを載せ、ラジカセが入っていたダンボールに菓子と酒をいくらか小分けにして詰めていく。

 話の流れからして、どうもキツネさんが集めようとしていた人々が他の場所に集まっているらしい。

 ソルさんが集まるの大変な人達と言っていたし、こんな暢気に音楽談義して時間をつぶしてしまってよかったのだろうか。みんなが、まあキツネさんだからしょうがない、とでも思っているのか……思っていてもおかしくないか。


 ところで、俺はどうすればいいのだろう。出来うるなら、あんまり偉い人の前に立ちたくないのだけども。

 軽く荷物を整理し終えたキツネさんが、ラジカセを担いで俺の方を向いた。


「タダシ殿、すまんがその菓子類を一緒に持って行ってくれんかの」

「あ、はい」

「他の者はどうでもよいのじゃがの。兄上もおるようじゃから顔を見せてあげてほしいのじゃ」

「わかりました」


 どうでもいいって言っちゃっていいんですかね。

 秀吉さんもソルさんもなんか苦笑いしてるんですけど。

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