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異世界のキツネさん  作者: QUB


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キツネさん、神を降ろす

 固まった信長さんをほったらかしにして、キツネさんと秀吉さんが段取りを始める。


「各々、儂らと違って空いている身ではなかろう。とりあえずは行って事情を話してくるかの」

「おう。確かにお釈迦様はお忙しいはず。そちらの折衝は儂が行くとしよう」

「それと亀の兄も頼んだ。儂はソルとイザナギのところへ行ってくるかの」


 キツネさんは言うや否や、俺にちょっと行ってくると笑顔で手を振り、いつものワープ穴を開いてとっとと飛び込んで行った。


「姉御はせっかちじゃのう。右民部少輔、聞いていた通り、儂も知恵を借りるために少々ここから離れる。長くとも一日ほどで帰る。ではな」


 やれやれと首を横に振って、秀吉さんは足元に霧のような何かを発生させて空を飛んで行った。飛んで行く様子を見ていて気付いた、あれ筋斗雲っぽい。秀吉さんも秀吉さんで、信長さんが反応しきれずにいるのにさっさと飛んで行ってしまうところは義理の姉弟だからだろうか。

 さて、広い部屋に信長さんと二人で残された俺はどうしたらいいものか。高度に意思疎通ができるサキも居るのでどこまで二人という呼称を遣っていいものやら悩ましいなあとか、手元のゲルボールを転がしながらちょっと現実から逃避してみる。

 知らない人と待ってろと言われてもどう話したらいいものやらわからん。ただでさえ最近は営業職と違って外部の人と話す機会が少ない身の上に、さらには転生前は日本人であるとは言え異世界人と二人にされても何を話せばいいというのか。

 黙ってサキを見つめてどうしようかと困惑していたら、信長さんがか細く俺に尋ねてきた。


「タダシ殿。イザナギとかお釈迦様とか、とんでもない名が聞こえてきた気がするのですが……」

「俺は一般人なんで殿とかつけなくて結構ですよ。少なくともイザナギ様は本人のことでしょう、俺もここに来る前にイザナギイザナミの二柱と会って来ましたし」

「大納言に連れられてくる一般人なんてありえないんですが……」


 ありえないと言われても、俺からすれば転生しまくった信長というほうがありえないんだが。

 どうとも言えずに黙っていると、信長さんは一つ大きく息を吐いて姿勢から力を抜いた。


「まあいいや、じゃ、亀とソルというのは」

「玄武とソロモン王のことらしいです」


 俺に顔が見えない方向に信長さんはごろ寝し、なんだよそれ意味わかんねえ、と誰ともなく呟いた。

 人外のようだが、どうやらここに居た方々の中では一番俺に感性が近しそうだ。

 ふて寝しているような格好から、だらけた声が聞こえる。


「あー。でも、あの人らがなんとかなりそうにしてるってことは、なんとかなんのかなあ。有り難いっちゃ有り難いんだけど、出てきた名前にビビるわー……」

「魔法がないと思われてた世界のマンションの一室にいきなりあんな感じでファンタジーがワープしてこられるのと、どっちがマシですかね」

「……それだけ見たら今の方がマシかなあ。総合的に見たら俺の方がひどそうだけど」

「まあ俺は転生した記憶もない単なるサラリーマンですからねえ。キツネさんも結局は平和的に話せましたし」


 かなり信長さんの話し言葉が崩れてきた。大分お疲れのようだ、と思いきや、ガバッと唐突に俺へと体ごと反転した。


「そうそう、数百年男の噂がなかったあの大納言と一緒にってどういうことよ」

「まあ、夫婦と言っていいのか、同棲中の恋仲というか……」


 自分で口にすると、どうにもこっぱずかしい。

 興味津々な信長さんの背後に黒い穴が広がった。


「マジかあ。それはそれでこの国としては大事件だなあ」

「何が大事件なんじゃ?」


 帰ってきたキツネさんが信長さんに声をかけると、信長さんがまた固まった。

 キツネさんの後ろにはイケメンバージョンのソルさんと、半透明なイザナギ様がいらっしゃる。ソルさんはもう今更なんだが、神様フットワーク軽すぎやしませんかね。どんな神降ろしだ。

 固まった信長さんの代わりに俺が答える。


「キツネさんと俺が一つ屋根の下で暮らしていることが大事件らしいですよ」

「まあ宮廷雀は騒ぐかもしれんのう。それ以外には関係ないじゃろう」


 キツネさんが俺の横に立ち、そのさらに横にイザナギ様、ソルさんと続く。

 信長さんの視線が泳ぐ。イザナギ様を目にした途端、平伏した。まあどんな人かってのは見たらわかるくらいに有名なんだろう。こんな人が何人も居るはずもないだろうし……居ないよな?


『キツネさんが結婚するって大事件ですよ?』

『うん、僕らのこの国というか、この国付近では大事件じゃないかな』

「そうか?まあよいわ。さて、二人とも。この者が先ほど軽く話した、生まれ変わる前の記憶を持つ者、信長というそうじゃ」


 ソルさんとイザナギ様がキツネさんに突っ込みを入れるも、キツネさんは軽く二人の反応を流して「ほれ、面を上げい」と信長さんを促した。

 起き上がった信長さんの顔からは表情が抜けていた。一日で色々あって感覚がすっとんだのだろうか。


「この場所とこの者の顔を覚えていてもらいたい。後日、猿が他にも知恵者を連れて来るはずじゃから、詳しくはその時に。信長よ、こちらが言うでもなかろうがイザナギで、こちらがソルじゃ。よく覚えておくがよい。ではな」


 言うだけ言って、キツネさんは二人を連れて再びとっととワープして行った。

 そしてまた俺と信長さん二人になる。

 俺に顔が見えない方向に信長さんはごろ寝し、なんだよもう意味わかんねえ、と誰ともなく呟いた。


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