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異世界のキツネさん  作者: QUB


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キツネさん、コネが生きる

「まずは初めの生涯(・・・・・)から申し上げましょうか。物心ついたとき、私は尾張の地で織田家の嫡男、織田三郎信長として育てられておりました」


 生涯の初めじゃなくて初めの生涯。信長さんが信長だった。ちょっと何言ってるのかよくわからないですね。そもそも女性が信長を語っているところに違和感がある。何故男性のような名を名乗っているのか。

 キツネさんも同じように思ったのか、信長さんに突っ込んでくれる。


「女に生まれ変わっても信長という名をつけられたのか。それはなんとも奇妙な」

「今の名は官位を賜る際に変えたのです。もとはそこらにいる女子のようなよくある名でございます。織田家に再び生まれながらも、信長ではないというのがどうも座りが悪く感じられたもので」

「座りが悪い。そういうものかのう」

「はい。日の本の人と人が殺しあう戦国の世に信長として生まれ、その後何度も信長として生まれなおしましたから」


 信長さんは落ち着いて平然と語っている。先ほどまでの荒ぶり様はなんだったのだろうか。

 しかし俺にとっては色々と衝撃的な発言である。戦国時代をリピート再生とか廃人待った無しの修羅道である。想像して、つい口から言葉がこぼれる。


「何度も……」

「はい。とは言え、人殺しが当たり前の世にばかり転生したわけではございません。信長として戦場・・で初めての生を終え、次の人生は平和な日本国民の一般女性として生を受けました。タダシ殿、明治、大正、昭和という年号に覚えはございますか?」

「俺の住む国で使われていた年号ですね……」

「なるほど。やはり近衛殿は私が生きたことのある世界と同じ、もしくは近しい世界の方のようでございますね」


 織田信長が死んで現代に性転換転生。それはさぞ混乱したのではないだろうか。別に信長じゃなかろうが転生なんぞしたら普通は混乱するか。

 眉間に皺が寄ってしまった俺の表情から考えていたことを読み取られたのか、信長さんが苦笑いして浅く頷く。


「男が女になり、住まう世界ががらりと変わり、生まれたときから意識があったのもあり、大変混乱いたしました。どうしようもないので、ただ受け入れて生きるだけでした。受け入れてしまえば楽しい人生でしたが」


 壁に穴をぶちまけられて美人が出て来た程度でも俺は大変困惑したので、多少はわかる気がする。どうにも理解できない変化は受け入れるしかない。俺の場合は信長さんより色々と楽ではあったが。


「ただ、どうにも受け入れられないものがありました。転生後に学んだ歴史では、織田信長がほぼ日の本を掌握しつつある中で死んだということです。若くして今川家に戦で敗れて散ったはずだったのに」


 信長さんの顔から笑みが消える。


「歴史が違う。別世界。平行世界。第二の人生で色々と書を読み漁り、そういうものではないかと自分の中では納めて生きていこうとしたとき、再び若くして生を終えました。死ぬ間際には再び転生するのかと、ぼんやり考えておりました。その通りでした。再び戦国の世へと舞い戻ることになったのです」


 喉がかわく。からからになった喉を潤そうにも、食後に出された茶碗はすでに空になっている。信長さんの話を聞きながら、虚ろな器をじっと見つめた。


「二度目に信長としてなすすべもなくまた戦で死んで、平和な世で同じ親から再び生まれたとき、この転生はいつまでも続くのではないかとふさぎこみました。如何したらそれを回避し、輪廻から逃れるのか。そればかりを考えて、逃げるようにまた書を読み漁りました。そこでふと、私の知らない織田信長の成功を辿るのが道筋ではないかと思ったのです。そこからは平和な世で私の知らない織田信長の歴史を学んでは若くして死に、戦の世でそれを成すべく奔走してはいくつかでは成功して寿命を伸ばし、いくつかは失敗して死ぬ。繰り返しの果てに歴史通りの信長として修羅道を終え、平和な世で還暦を超えて人間道を終えられたのではないかと、そう思っていたのですが……」


 聞こえていた言葉が溜め息混じりに止まる。器から顔を上げると、信長さんが疲れ切ったように肩を落としていた。


「男女男女と繰り返して最後に男女女か。バランスが悪いのう」


 黙って聞いていたキツネさんが新しい缶ビールの口を開けて言った。信長さんの大分端折ってくれているであろう壮絶な人生語りを聞き終えてこの言い様、どこまでも平常運転だなこの人。

 半分呆れつつ、キツネさんの言葉に「それはないでしょうよ」と言おうとしたところ、信長さんがキツネさんの元までバタバタと膝歩きに詰め寄った。


「最後、最後とは、どういうことでしょうか!?」

「お主、魔人じゃろう。欲望や力が暴走する類のものではない、寿命がなくずっと若いだけという珍しい類のものじゃろ」


 信長さんが音程の高い変な息の飲み方をして驚く。

 ついでに俺も驚く。なんだよ信長さんまで結局人外かよ。なんで俺だけ普通人なんだ。

 秀吉さんは知っていたようで平然としているが、キツネさんからビールを渡されて、この妙な空気の中で酒を飲んでいいのか微妙に戸惑っている気がする。


「知らんと思うてか。そもそも猿がここに来たきっかけは、お主が生まれたときに妙な魔力を感じ取ったイザナギの手配じゃ。普通の魔物と違って生命力極振りのようじゃから、お主は病気にもそうそうかからず、そこらの生き物よりはずっと丈夫で滅多に死なん。それさえも超えて死にそうになって転生を望まんのじゃったら、儂が転生せんようイザナギに相談しておいてやるわい」


 平常運転で、今までの信長さんが語っていた過酷な人生なんてどうにかしてやると軽く言ってのける。

 信長さんは魂が抜けたように秀吉さんを見て、数秒後にキツネさんへ向き直って尋ねた。


「そのようなことが、できると」

「なんとかなるんじゃないかの。死後も記憶を持つ術の第一人者じゃ」

「ああ……ここではそうでしたね……」


 信長さんが今度は泣き笑っている。感情が忙しい人だ。忙しくさせてるのはキツネさんだが。

 そんな中で黙って聞いていた秀吉さんがキツネさんに口を挟む。


「おうおう、珍しい話じゃから他にも知恵者を募ろうぞ、姉御。とりあえず転生のことならば亀の兄貴かのう」

「転生した者として比較するなら亀の兄もいた方がいいかもしれんのう。記憶を持ったまま転生するというのも、生まれる前から持った魔術的な要素が高そうじゃ。それがこの世で生まれたときに魔人化に作用したのじゃろうかの。そういう細かい魔術の考察はソルが詳しいから、彼奴も引っ張って来るか」

「知恵者ならばそれとお釈迦様じゃ」

「六道輪廻ってこっちの釈迦も教えを説うておったっけかの。まあ魔術の腕のよい知恵者ならよいか」

「母御も魔術の腕はよかろう」

「来てイザナギと話をさせても酒のんでファミコンするだけじゃぞアレは」


 なんか二人で盛り上がり始めてるが、当の信長さんはまた土下座直前スタイルで固まっている。

 その心情はもう複雑すぎて推して知ることもできないが、織田信長としてお釈迦様に会うことになりそうな状況ってのは如何なものなんだろうか。

 とりあえず俺が関係ないとこでやって頂きたい。

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