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異世界のキツネさん  作者: QUB


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キツネさん、怒られる

 悩んでも仕方ないので、さっさとジーパンと靴下を履いて障子を開く。


「お待たせしました」

「では、ご案内いたしまする」


 前に葛の葉さん、後ろに御付きの人と挟まれて案内される。移動の間に見えた庭の木々の合間はこれまた木々が埋め尽くされていて、夜同様に昼となっても向こうが見渡せない。車の音や冷蔵庫の動作音などに囲まれた鉄筋コンクリート住宅の生活から一転し、自然に囲まれた木造家屋であることを再認識する。

 そんなこんな思いながら歩いていると土間に辿り着く。どうやら出入り口のようで、先行している葛の葉さんがわらじっぽいものを履いて外への戸をひらいた。

 そこで思い至る。靴はどうすればいい。と思ったらサキが目の前に転がり出て、にゅうっと差し出してきた触手の先には俺の靴があった。膨大に運び込まれたキツネさんのお土産の中に紛れて持ち込んでいたのか。というか、一緒に来ていたのを半分忘れていた。ごめん。


「助かるよ」


 サキから靴を受け取って履く。戸の外にいる葛の葉さんに靴をじっと見られた気がする。もしかしたら俺にもわらじっぽいものを用意してくれていたのかもしれない。何も言われないので問題はないだろう。

 音もなく転がるサキと共に外に出て、先ほどまで居た建物の外観を眺めてみる。田舎に行ったときなどに見た家屋を古めかしく大きく立派にしたものという感じだろうか。これが異世界ぎょうかいスタンダードなのかハイグレードなのか聞いてみたいが、キツネさんと外見年齢は変わらないのに威圧感二重丸な葛の葉さんの後ろ姿から黙ってさっさと付いて来いという雰囲気を感じるので黙して語らない。俺の平々凡々な感性で勝手にそう感じているだけなのかもしれないが。

 義理の娘候補のオーラパワーを感じながら恐る恐る付いて行くと、数分と経たずに別の建物に辿り着く。どうやらイザナギイザナミを祀る建物はキツネさんの住居と同じ敷地内と言っていいようだ。二柱の神官の寮という意味もあるということであれば当然か。


「こちらに二柱がおられまする」


 建物の見た目は神を祀るためか、そのまんま神社だ。ここ最近初詣なんぞに行ってないので記憶が曖昧だし、修学旅行で行った太宰府天満宮などはすでに思い出せもしないが、俺の知る神社は明治神宮に湯島天満宮くらいである。それらに比べると華美さは無い平屋建てと言ったところ。これは時代のせいか、異世界だからか。しかし、経た歳月を感じられる木の荘厳さがある。さすがは国産みの神を祀る場所と言えるおもむきがある。

 そんな雰囲気を全てふっとばすようにファミコン音源が中から聞こえてくるので台無しもいいところだ。キツネさんの笑い声も聞こえる。


「こちらへ」


 葛の葉さんに招かれるまま建物に上がり、戸の前に立つ。


「ご歓談中、失礼いたしまする。葛の葉でございまする。母、キツネとともにお越しになられた近衛忠殿をお連れいたしました」

『ご苦労様。入って頂いて』


 葛の葉さんが戸の横に控えるようにして中に問いかけると、女性のような声がどこからか響いてきた。どこから響いてきたのか少し驚いて目線でだけきょろきょろ周囲を伺っていると、葛の葉さんがすっと戸を開いた。

 中には短パンから太腿をさらしキャミソール姿であぐらをかいて、黄金色にも見える尻尾を振る見慣れたポニーテールの後ろ姿。その横には何やら幻のようなホログラフィックめいた人影が二つ。うち一つが入り口側、つまり俺の方を見ていた。


『いらっしゃい。私はイザナミと呼ばれている者です。よく来てくれましたね』


 なんだか洗練されていない神主の衣装のようなものをまとう長髪の女性型ホログラフィックからにこやかに話しかけられ、さらにはその名乗りを受けて混乱する。

 イザナミ?え?


「えっと」

『すいませんね、私にも伝わるようにお話ししてくれるとありがたいのだけど』

「おう、起きたかタダシ殿。魔力を通して話してくれんか。こんな二人の見た目ではあるが話はできるものの、さすがにタダシ殿の場合、言葉そのままでは二人には意味が伝わらんのじゃ。八割方引退してこちらでも世間知らずで最近の言葉は怪しいのに、その上に異世界の言語などでは意思疎通できん」


 キツネさんが上半身を捻って俺に向いて言った。


「母上!言葉を正しなされ!肌もさように晒して!」

「いいじゃろう別に……」

「よくなどありませぬ!」


 そして葛の葉さんがキツネさんに怒りだした。軽くほっとかれてどうすればいいのかよくわからんが、とりあえず挨拶された相手に挨拶し返すべきだろう。

 まずは正座をして、一つ咳払いをして声に魔力を乗せる。


「んんっ。近衛忠と申します。この度はお招きに預かり、拝謁の」

『そんなにかたくならなくてもいいですよ』

「……えーと。ありがとうございます。そうさせてもらえると助かります、偉い方々に会うような身分ではないので」

『はい。こちらこそありがとう。最近はキツネさんとタダシさんのおかげで楽しいわ』


 神様のはずなんだが、なんか態度も言葉も近所のおばちゃんである。でも偉いってことは否定しないのね。表面上冷静に取り繕うのに必死で、手汗がひどい。ていうか俺は何もしてないですって本当に。


『ほら、イザナギも挨拶なさい』

『ちょっと待って、ちょっとでいいから』

『早くしないとコンセント抜きますよ?』

『いや本当にちょっとでいいから!』


 イザナミ様がもう一つのホログラフィックに話しかけるが、そっちはファミコンのコントローラーをなかなか離さない。


 透けてる二人に狐耳二人、それぞれがなんかやいのやいのやりあっている。

 一般人の俺はただ待つのみである。そういえば朝飯食べてないなあ。腹減った。

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