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キツネさん、ハンバーガーを食う

 難しいことは置いといて昼飯だ。


「とりあえず昼飯にしましょう。何か食べたいものはありますか?」

「ふむ。確かに小腹が空いた。そうじゃのう……タダシ殿が普段食べているものがよいの」

「うーん、仕事がある日の昼はコンビニで適当に買って済ますんですが、休みの日は……うん、決めました。行きましょうか」


 大ガードをくぐって右へ曲がり、向かう先はハンバーガーショップ。注文してから作るチェーン店で、他よりちょっと割高な分美味しい。


 店内に入り、キツネさんにはテリヤキバーガー、俺は辛口のチリドッグとフライドチキン、それぞれポテトと烏龍茶をセットで注文し、待ち札とドリンクを先にもらって席で待つ。

 ストローをさして飲む俺を真似て、キツネさんも飲む。


「冷たい茶か。これはなんとも新鮮じゃ」

「ああ、熱いのが当たり前でしたか。魔法で冷やして飲むとかはしないんですか」

「水を冷やして飲むのは、夏場で魔法が使えるものはしたりするのう。茶は沸かした後に冷まして飲むくらいならあるが、氷を入れて飲むのは初めてじゃの。茶の味もさっぱりとして暑い日にはよさそうじゃ」


 冷たい飲み物そのものが珍しいらしい。そういえば昨日もビールの冷たさを物珍しそうにしていた。現代の食生活に慣れた者には厳しい世界だ。


「魔法を使える人だけですか。術具っていうのは誰でも魔法を使える道具とかではないんですか?」

「ある。しかし、術具を作る者は魔物退治用の物を作ったり、魔物除けの物を作ったり、火を出す物だったりが主での。他の生活に便利な物というのはあまりない」


 魔物。また来ましたねファンタジー。

 術具とやらは魔物への対抗力として使うために、生産リソースほぼ全振りってことか。


「魔物ですか。どんなものなんです?」

「元は普通の生き物が、力を持ち、凶暴になったものを言う。体が大きくなるものも、一部が変化するものもあるな。人でさえ魔物となる。何故魔物となるかはよくわかっておらん。じゃが、人の栄えた場所に現れやすいと考えられておる。人が増えては魔物に殺され、田畑を荒らされる。魔物を倒しては田畑を広げ、人が増える。その繰り返しじゃ」

「人が魔物に……」

「滅多におらんがの」


 滅多にいないといっても恐ろしい話だ。こちらにはない病気的な扱いになるのだろうか。


「魔物が現れないような例外はないんですか?」

「例外というか、日本では帝の治める京、狸がおる江戸じゃと、なんでか分からんが魔物が現れにくく、現れてもそれほど強くない。魔物除けの効果もあるとは思うのじゃが、強大な魔物は魔物除けさえ破壊するのじゃがの」

「具体的な魔物の発生原因なんかも分からないんでしょうか」

「分かれば苦労はせんのう」


 キツネさんは苦笑いを浮かべる。

 そりゃそうだ。分かっていればそっちにリソース振るわな。魔物への対症療法的対応に追われていると。

 ん?ならばキツネさんみたいな世界間を渡るような魔法使いは忙しいんじゃなかろうか。

 いや、対抗策を求めてやって来たのかもしれない。まあ、本人が物見遊山と言っているんだから気にしない方がいいか。


 注文の品がやって来た。

 キツネさんにテリヤキバーガーを差し出す。俺がチリドッグの包み紙を剥くようにして中身を出してかぶりつくと、キツネさんも同じようにかぶりつく。

 静かに咀嚼し、飲み込む表情は満足気だ。ポテトと烏龍茶を合間にはさみ、会話もないまま食べきる。


「タダシ殿、美味しかったが量がちと少ないような」

「やっぱり少ないですか。財布も渡したことですし、中にいくらか入れてあるんで、ご自身で追加の注文をしてみたらどうでしょう。手軽なものを売ってる他の店を覗いてみるのでもいいですけど」


 キツネさんに応えながらチキンの包みをとってかじる。


「何やら美味しそうじゃの」

「フライドチキンです。鳥肉を油で揚げたものですね。好きなんですよ、ここのチキン」


 サクッと心地よい衣の下にジューシーな鳥肉。俺がまだ小さい頃、初めて食べた時はフライドチキン専門店じゃなくてもこんなに美味いものがあるのかと驚いたものだ。

 キツネさんがじっと俺の手もとを、チキンを見つめている。


「美味しそうじゃの」

「美味いですよ」


 烏龍茶で口の中の油を流して、また一口。


「ぬう。儂も同じ物を頼んでくる。フライドチキンじゃったな」

「ええ。ちなみにチキンを食べない時にはトマトチーズバーガーを食べます。あれも美味い」

「ぬ……行ってくる」

「荷物は見てますね」


 キツネさんが席を外す。ちょっと恨めしそうに見られた気がする。一口くらいあげてもよかったんだけど、どうせ足りないんだし。

 全て食べきって烏龍茶の残りの氷をガリガリ食べているところにキツネさんが戻ってくる。手に持つトレーには番号が振られた札と飲み物の入ったカップがある。


「飲み物も頼んだんですか?」

「前の者がシェイクとやらを頼んでおって、つい」


 席に座り、シェイクを啜るキツネさん。


「冷たくて、甘い何かの乳じゃな。何か細かいものが噛めるが、すぐ溶ける」

「小さい氷になってるんですよ」


 シェイクの食感を楽しんでいるところに待つこと数分、追加注文がやってくる。

 店員さんはチキンとトマトチーズバーガーを持ってきたと告げる。


「気になって、つい」

「いや別にいいですけど」


 満足そうにチキンとバーガーを頬張る姿からは、深刻な問題を解決するために異世界へ渡って来たような空気はさらさら感じられない。まあ楽しそうで何よりだが。

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