キツネさん、改造させる
ソルさんがファミコンにいそしむのをキツネさんが酒を飲みながら茶々を入れ、キツネさんの分身の一人はベッドの上で寝っ転がってゲームボーイをし、もう一人は俺の膝を枕にスマホをいじり、と、みんなだらだらと過ごす秋の夜長。ソルさんがちらりとスマホを見てキツネさんに尋ねた。
「スマートフォンというのは高いものなんデスカ?費用によってはワタシも持ってみたいのデスガ」
「うん?それほどでもないがの。今度買いに行くか。ソルも戸籍をでっちあげてしまえばよかろうに」
「色々と面倒なんデスよ。金銭であればキツネサンの依頼の報酬分で十分デスし。契約分も報酬に含めてくだサイ」
「まあよいがの。安い通信用のものであれば儂の使っているものの半値ほどで運用できる。まあ回線の安定度で言えば儂と同じ会社のものの方がよかろう。契約者を同じとした方が得であるしの」
キツネさんはいつの間にか格安SIMについてまで理解していたようだ。ソルさんの要求にするすると応える。雇用者の被雇用者に対する福利厚生のようだ。
キツネさんは色々と自分の名で契約できるようになってから、キツネさんのスマホの契約の名義は俺からキツネさんへと切り替えられている。俺とまとめていた方が得なのだが、住居はともかく自分でできることは頼り切りでいたくないらしい。
契約と言えば、仕事の給料の支払いもキツネさん名義の銀行口座宛に振り込まれているようだ。ベッドの下貯金がそのままなのは持っていくのが面倒という。まあ安全面ということであればサキかタマが常に部屋にいるので問題ないのだろうが。
「しかし急にスマホが欲しいとは、どうしたのじゃ」
「魔物召喚プログラムを作ろうかと」
なんかとんでもないこと言い始めたぞ、おい。
「ちょ、ちょっと待ってくださいソルさん。できるんですか!?」
「どうデショウ。それを確かめるために欲しいのデス。できると思うのデスが」
「いや、できると思うって、作って何をするつもりなんですか」
「あはは、大丈夫デスよ。このゲームに触発されたところはありマスが、名前を借りるだけで仕様は違いマスので。ワタシが今も使っている魔術を機械で再現可能か試したいだけデス。魔物が地上を我が物顔で闊歩するようなことにはなりマセン」
今も使っているということは、以前図書館でなにか呼び出したときの魔術のことか。心臓に悪い冗談は勘弁して頂きたい。
……冷静に考えると次元の穴をぶちまけて既に魔物がいるって意味じゃ今更なのか?
「何を慌てておる、タダシ殿。たとえあちらの魔物がそこらから湧いて出て来るようなことがあっても、儂一人でどうとでもなるわい。力でどうとでもならんよう相手が出て来ても、それほどであれば話が通じるし、儂に対して敵対しようとはせんはずじゃから問題ない」
「あー、そうなんですか」
なんだか安心できない。と言ったところでどうにもならないだろう。基本的に俺がキツネさんやソルさんにできることはお願いすることだけで、本人が本気でしたいことを止められることもない。問題ないというのだから信用するしかない。別物を作るつもりなら物騒な名前をつけないでほしい。
と、変に焦らされて過ごした週末を過ごし、翌週の土曜。
「タダシサン、見てくだサイ!コレ!」
キツネさん本体のいない部屋で、キツネさんの分身がファミコンで遊ぶのとサキの高速画像編集を見守りながらダラダラしていた俺のところに、なんだか珍しくテンション高めのソルさんがやって来てスマホを突き出した。
「ああ、もう買ってたんですか。どうしたんです?まさか魔物召喚プログラムがもうできたとか……」
「そっちはどうでもいいんデス!」
俺が危惧していたことがどうでもいい扱いである。
ならばどうしたというのか。
「分解して電池部分に魔術回路を組み込んで充電無しで使えるんデスよコレ!」
「なにそれめっちゃ羨ましいんですけど」
「組み込んですでに数日様子を見ていマスが、今のところ問題ありマセン!」
「まじっすか。そんな夢のようなことができるんですか」
半ば素でつい反応してしまった。長時間移動のためにスマホ本体より重いバッテリーを持ち歩く心配もないのか。
呆然としながらソルさんが突き出すスマホを手に取る。あ、何気に俺が持っているスマホのメーカーの最新機だこれ。
「うわあ、いいなあ。俺が持っているのより新しくて電池持ちの心配がないとか。俺の持ってるやつ、もうかなり電池がへたってて買い換えようか考えてたんですよねえ」
「それは丁度いいデス、買い換えたら実証試験のために改造させてくだサイ」
「ええ、それはいいですよ。買い換えた方も頼むかもしれませんけど、お願いしてもいいですか?」
「構いマセン。その時はこのメールアドレスに連絡くだサイ」
人外二つ目のメアド入手である。
魔物召喚プログラムなんぞ作らなくてもメールで魔物がくる件について。
「ソルよ。スマホに組み込めるのであれば、他の電気製品にも組み込めるのじゃろうか」
「構造によるとしか言えマセンネー。分解するなりしてからでないとわかりマセン」
「よかろう、ならばファミコンから頼む」
「おお!これも分解していいのデスか!」
遊んでいたキツネさんの分身が横から追加の頼み事をソルさんにすると、頼まれた本人は嬉々としていた。メカ好きでなんでも分解したがる小学生のようだ。ゲームボーイの改造は中に相当余裕があって若干つまらそうでさえあった。
このままソルさんの自由にさせると我が家は電力会社と契約する必要がなくなりそうである。




