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キツネさん、先達から学ぶ

「しかし、世界間を往復したときの時間差の利用か。なるほど。儂のような分身を作って情報収集するよりも、本体への負荷は門を開くときの一時ですむ。楽ではあるかの」


 ヤコさんが結ばれた髪の片方をくるくると指で回しながら、ソルさんの意見について考えを口にする。


「ただ、それをする場合、念のためにソルにはいつものように異世界あちらへ共に帰ってもらわんといかん。時の楔を弄ることのできる者が双方に居ると、行き来が不安定になるやもしれん」

「ええ、問題ないデス。こちらではやりづらい実験もありマスからネー。ワタシもたまには帰らないと」

「あちらでも儂は遊び惚けている間にソルは知識の整理を行う、と行ったことになるのじゃが、よいのか?」

「ワタシの方も趣味のようなものデスし」


 ヤコさんとソルさんの間では話が通じているようだが、傍で聞いている俺には何がなんだかよくわからない。聞いてみた所、交互に二人が説明してくれた。

 曰く。

 何回も異世界とこちらを結び、その影響を観察してきた結果、時間も飛び越えられるのではないかという推測が立った。ただし、これはどちらの世界に渡るときでも、過去に戻ることはできない。例えるなら、縦に二本並ぶ平行線をつかってあみだくじを書くように、間に横線を引いて繋げることが世界間移動とするならば、横線が交差することさえなければ、どれだけ傾いていても横線を足していくことが可能である。

 そして時間移動の法則は、個人個人に適応されるものではなく、世界間が結ばれた時に適応される。キツネさんがこちらの世界から異世界に行って一年間過ごし、こちらの世界ではキツネさんがいなくなった一時間後に現れるというようなことをしたとき、ソルさんがこちらで残っていると、ソルさんは問答無用でその一年間に干渉できなくなる。また、キツネさんがいないその一時間の間に世界間をソルさんが結ぼうとし、二年後の異世界を目標に結ぼうとした場合、因果律にどのような影響が出るかわからない。なので、世界間を繋げられる者は時間軸を乱さないように同じ世界で決まりを作って行動したほうがよい。

 本来ならば気にしなくてよかったのだが、ソルさんはキツネさんの世界間移動する際には常に一緒に移動していたので、魔術のやり方を覚えてしまったという。お互いの身の安全のため、この世界とキツネさん達の世界を繋ぐ時にはキツネさん主導で行った方がよい、ということで結論づいた、と。

 なにやらややこしいが、一つ気づいたことがあるので尋ねてみる。


「以前、キツネさんは魔術で時を操れるようなことを言っていた気がするんですが、それとはまた違うんですか?」

「こちらに来て翌日の話か。あのとき言った時を操るというのは……そうじゃのう」


 ヤコさんは説明の途中で、おもむろに潰された空き缶を取り出し、「こういうことじゃ」と言うと、空き缶は音も無く潰される前の形を取り戻す。


「時そのものを操るというより、モノのカタチを遡って再現できる、と言ったほうが正確じゃの」

「時を操る術というのは考察されてはいるんデスけどネー」

「実行できたところで、世界がどうなるか知れたものではないからのう」

「できないと言わない時点でオカシイんデス。過去に戻るのを夢見て、普通の魔術使いがどれだけ挫折したかわからないんデスけどネー。こちらで学んだことを活かせば、もう少しハードルが下がりそうなんデスが」


 余計にややこしい話をし始めた。

 ソルさんが量子論がどうのと誰に言うでもなく呟いて、ヤコさんはそっぽを向く。ナナコさんとキュウコさんはさきほどから我関せずとゲームに集中している。

 ほっといていいようだ。


「ところでヤコさん。世界を渡るようなすごい術をつかうキツネさんなら、時を遡る術なんかもできるかどうか試すと思ったんですが、なんでしないんですか?」


 俺からしたら、どちらも同じように危ういように思えるのだが。

 ヤコさんは苦笑いを浮かべて頭を横に振って応える。


「別に儂はそれほど向こう見ずではないんじゃがの。できる見込みがあったからこそやってみたのじゃ」

「そんな見込みが立つ時点ですごいと思いますけど」

「大したことではない。世界を渡ったと言う者の話を聞いただけのことよ」


 ブツブツ何かを呟いて意識を遠くに飛ばしていたソルさんがヤコさんの話を聞いて戻ってきて、驚きの声をあげる。


「ええ!?ワタシ、そんな人がいるなんて聞いたことないデスよ!」

「人ではないからのう。亀じゃ」

「亀、というと、リュウサンのところの玄武サンですか」

「おう。さすがに名くらいはソルも知っているか」


 亀。世界を渡る亀。頭に浮かんだのは、ヨーロッパかなんかの古い地図で、陸地を支える亀の絵。しかしそれじゃあ渡ってはいないな。というか玄武なら中国なわけで。

 妙な想像をしている俺を置いて、ヤコさんとソルさんの会話が続く。


「お会いしたことはないデスけどネー。地続きであれば、話くらいは流れてきますから。魔物であるのに、性格は温厚で争いを望まないと聞きマス」

「おう、儂にとっても優しい兄じゃ。兄が母に、昔そんなことを言っていたと聞いての。儂からも兄に直接尋ねてみたときに、世界は複数あると聞かされたのじゃ。その他にも、世界の成り立ちだの、四則演算だの、色々と教わったのう」

「世界の成り立ちとは、それはまた、壮大なお話デスネ」

「兄が居たという世界の話じゃがのう。兄は学問の徒であったらしいのじゃが、事故か何かか、気付いたら何故か見知らぬ土地に放り出されていて、途方に暮れていたそうじゃ。その話を聞いたとき、兄は少し寂しそうに語っていたので、多くを聞くことはできなかったがの」


 義理の兄の話をするヤコさんの顔はとても優し気だった。

 そういえば、リュウさんがキツネさんを拾ったときは、まだキツネさんは人の姿ではなかったと言っていた。亀と狐が仲良くする状況を想像する。なんだか何か昔話のような。いや、実際昔の話なんだろうが。

 想像してちょっと口元が緩んでしまう。

むかーしむかし、とある山奥に、のんびり屋なカメと、食いしん坊なキツネがおったそうな。

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