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キツネさん、裸ワイシャツになる

「儂がナナコで」

「儂がクウコじゃ。すまんが服は借りておる」

「はぁ」


 ファミコンをしているツインテールで身長130センチほどの分身がナナコさん、ベッドにうつぶせになり顔だけ上げてゲームボーイをしているポニーテールで同サイズの分身がクウコさん、だそうだ。

 なんで小学生サイズなんだろう。サイズのあう服が無いためか、俺のシャツを着ている。シャツだけを着て袖をまくり、ワンピース風味にしている。丈が危うい、下着はちゃんとつけているのだろうか。手にしたビールも相まって、他人に見つかったらこれまた色々アウトである。そもそもヤコさんのセーラー服はどこから持ってきたのか、それを考えると俺の服を着る必要はあるのだろうか。

 戸惑っていると呼び鈴が鳴った。とりあえずお子様達はおいといて玄関を開けるとイケメン版のソルさんがいた。


「あれ、どうしましたソルさん」

「異変を感じマシテ、確認しに来マシタ」


 異変。まあ知らない小学生が突如部屋でくつろいでいたら異変であろうなあ。

 とりあえずソルさんを中へ案内する。骨皮さんになった。別に俺はホモじゃないが、なんでイケメンのままでいてくれないのか。一緒にいるのがミイラと生身のイケメンの二択だったら後者のほうがいい。


「タダシサン、これは何がどうなってこうなったのデスカ?」

「何ででしょうねぇ……俺にも何がなんだか」

「おー。ソルか。タダシ殿がいる時に来るとは珍しいの」


 小さいキツネさん三人を目にして困惑しているようだ。俺も困惑しているので聞かれても困る。

 俺はベッドに腰を下ろし、ソルさんは部屋の隅っこであぐらをかく。

 ソルさんの質問に、俺の横に座って足をプラプラさせている中学生なキツネさんのヤコさんが応える。


「ソルが呼び出すバエルなどと同じ理屈じゃよ。仮の生物を作り出す術で分身をつくったのじゃ」

「いやいや、ワタシの術はこんな大規模な魔力の力技じゃないデスヨ」

「ふむ。確かに慣れていない術ということもあって、分身一人当たりの魔力量は少々大掛かりになっておるの。それを計八人ともなれば大規模と言われてもおかしくはないが」

「……イエ、一人分でも十分に大規模デスヨ」


 ヤコさんの主張に対し、ソルさんは呆れたように話しつつ頭を横に振る。八人と聞いてドン引きしているようだ。

 俺からしたらどっちもとんでもないので違いがわからん。


「そもそも、何で八人も分身をつくっているのデス?」

「時間を無駄にすることなくゲームするためじゃ!」

「オウ……分身なんて必要ないデショウに……」


 ナナコさんが元気よく手をあげて応える。ソルさんがまたドン引きしてる。

 これまた俺からしたら本を読むためにバエルだのなんだの呼び出すのと大差ない。人外の感覚はわからん。

 ソルさんの感想なんぞ知ったことかと、平然とヤコさんは話を続ける。


「儂の時間はともかく、タダシ殿と一緒に過ごす時間は有限じゃろうからの。仕方ないのじゃ」

「ならば、世界間を往復したときの時間差も利用すればいいデショウに。ワタシが作った電力供給用の魔道具も、キツネさんなら複製できるデショウ」

「え、ソルさんは安定した電力供給を魔術でできるようになったんですか!?」

「ええ。ちょっと時間がかかりマシタネー」


 ソルさんとヤコさんの話につい口を挟んでしまった。俺の知らない間に異世界では魔術による電力利用が始まっていたらしい。さすが人外が連れて来た頭のいい人外である。


「あの魔道具を複製するのは考えつかなかったのう。というか、面倒そうじゃ。それにすでに献上してしまった。あの夫婦が仲良く遊んでいるところに、一時的とはいえ取り上げるのははばかられるのう」

「言ってくれたら作りマスヨ……」


 あの夫婦とはイザナギイザナミ夫婦のことだろう。以前、献上したゲーム機の電池がどうのこうのと言っていた気がする。しかし、文明の利器が国の発展に全く使われず、御上の暇つぶしに占有されてしまっているんだが、いいのか異世界。なんという封建社会。


「サキサン、空き缶いくらか使いマスネ」


 ソルさんが俺のクッションになっているサキの様子を伺い、ゴミ袋にまとめられている極限まで圧縮したビールの空き缶をいくつか手に取った。すると、ソルさんの手の上で空き缶がパキパキと形を変えていく。みるみるうちに角が丸く色が白い手のひら半分ほどの大きさの直方体が出来上がった。次いで再び空き缶を取り、計三つ作った。


「ハイ、できマシタ。どうぞ、キツネサン。タダシサンも」

「ふむ、ありがたく頂いておく。あとで本体に渡しておこう」

「あ、え、あ、ありがとうございます……?」


 直方体はヤコさんに二個、俺に一個手渡された。

 観察してみるとコンセント穴らしき窪みが二対ある、電源延長コードの先っぽのような形状である。アルミ缶をいじくり回して、どうして白いものになるのかよくわからん。硬くてプラスチックのような感触ではない。

 作成者に質問してみる。


「これにコンセントさすと、本当にそのまま使えるんですか?」

「ハイ」

「使用中に触ったら感電とかしません?」

「表面を酸化アルミニウムで覆っていマスから、絶縁体としての性能は問題ないデスネー。ファインセラミックス仕様で、いわゆる陶器の発展形みたいなものデス。そもそも、術式の構成からして、絶縁体でなくとも感電しないデス。供給電力の仕様は関東、関西どちらの仕様でも大丈夫なように作ってありマス」


 この白いものはアルミを酸化させるとできるらしい。高校の時に化学で酸化還元とか化学反応式とか学んだ記憶はあるが、受験用化学だったので現物なんぞ知らなかった。陶器ってアルミなのか。なるほど、陶器なら電気は通さなそうというのはわかる。ソルさんの知識吸収量が半端無いな。魔力で電力をどうにかするって話が、何故か材料工学にすっ飛んでる。

 試しに扇風機のコンセントを差し込んでスイッチを入れてみる。電力を必要とするものでは家の中で一番安いものだ。なんの問題もなく羽根が回っている。壁のコンセントから延長コードを伝わず、ほぼ独立して動いている。

 俺は今、恐ろしいものを見ているのではないか。キツネさんが見せる魔術も大概だが、俺の中の常識が今目の前で引っくり返されている。などと少し思ったが、視線を少しずらしてみれば、見た目は小学生な女子が缶ビールを呷りながら不可思議粘体生物(サキ)をクッションにしてドラクエやっているのである。よくよく考えればこっちの方が異常である。

 俺は今更何を恐れ怖がる必要があるのか。全部である。麻痺していただけだな。


「こんな細かくて面倒な術、読み解くだけで肩が凝りそうじゃ。作れなくはないじゃろうがのう」


 ヤコさんは目の高さに直方体を持ち上げて眺め、しかめっ面で呟く。俺から見たら表面は滑らかで、コンセント穴以外に目立つものはない。ヤコさんには何が見えているのか。そう大したものでもなさそうにテーブルの上に置くところからして、ヤコさんとしては面倒でも気をつけるほどのものではない、ということだろうか。

 ともあれ、キツネさんがソルさんに頼んでいた電気関係や法律関係はおおよそ始末がついたということか。ふと疑問が浮かんだ。


「ヤコさん。ソルさんに頼んでいた依頼は大方片付いたってことですよね。ソルさんを異世界あちらに帰さなくてもいいんですか?」

「本人が望んでこちらにおるからのう。」


 ヤコさんに尋ねると、実に簡潔な答えが返ってきた。

 当の本人に視線を向けてみる。


「まだまだ知りたいことがいっぱいありマス!楽しくて帰りたくないデス!この電源一つ作るのだって、電気設備士の資格取れるくらいには本を読み施設を観察したのデスヨ!」


 骨と皮だけなんでいまいち表情がわからないが、きっと歓喜の表情を浮かべているのだろう。というか、資格て。恐れさえ感じていたのに、なんともこう身近というか、生活臭溢れるフレーズが出てきたなあ。


「それに、暮らしもこっちのほうが気楽に過ごせるんデス」

「本人がこう言うからのう。手伝ってもらったわけじゃし、迷惑がかかるわけでもないしの。気楽に過ごせるという気持ちもわかるしの」


 これまた生活臭が。


「そうですか。まあ、いいならいいんですけど」

「食費などもそうはかからんしの」


 そんなハムスター飼うみたいに魔王を扱わんでください。

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