キツネさん、謀る
本体含め三人のキツネさん達と食事し、とりあえず呼び名を二狐と書いてニコ、三狐と書いてミコと安直に一旦決めて数時間。キツネさんがファミコンの電源を切り、ベッドに寝転がってプレイを見ていた俺の横に座る。
「今日も今日とて、魔力の扱いを鍛えるとしようかの?」
「えっと」
キツネさんのセリフは夜の営みをいたそうという時刻の訪れを示す。
いつもならそのまま桃色な雰囲気になって、そのまま服を脱がしたり脱がされたりしはじめるわけだが、本日はニコさんとミコさんがベッド横で正座してこちらをじっと見ている。
「俺とキツネさんが励んでいる間、お二方はどうするんでしょう」
「気にせんでよいじゃろう」
「そんな殺生な!」
「こんなシャツを着せといてほったらかしはよくないと思います!」
キツネさんの言葉に、ニコさんがベッドを叩いて悲愴な面持ちで訴え、ミコさんがシャツに書かれた妾の字を強調して困り顔で訴える。
「儂らにもお情けを!」
「最低限文化的な夫婦生活の保障を要求する!」
「今日の最初の相手をさせろ、占領させろとは言わんから!」
「創造主による性差別反対!えっちなのを独占するのはいけないと思います!」
まあキツネさんの記憶をほぼコピーしているらしいから、俺への感情もさもあらん。ニコさんは切々と訴えていてキツネさんらしい反応を見せているが、ミコさんはなんだかキツネさんから切り離された話し方をしはじめている。なんだか面白い。性差別の意味が一般とは違う。
「タダシ殿。こやつ等の訴えはどうする。儂は制限する気はないが」
「え?どうするって、どういうことです」
「儂と普段通り交わった後、こやつ等の相手もしてやるのかということじゃの」
面白いとか言ってる場合じゃねえ。キツネさんは自分の時間を減らすことを考慮してくれてねえ。さらさらその気もないんだろう。
「こやつ等に個性を、と言ったのはタダシ殿じゃからのう。どうする?まあ、面倒なら夜は術を解いてもよいのじゃがの」
「面倒……」
「術を解く……」
ニコさんとミコさんがしょんぼりする。
ニコさんとミコさんの自立性は俺のせいと言われると、二人の望みを叶える義務があるように思える。まあ最近は抑え気味で無理をしていなかった。回数が少し増えてもちょっとしんどい程度で以前よりマシだし。どちらも、まあ、キツネさんではあるし。
「まあ、いいですけど」
「いやっほう!」
「儂ら大勝利!ここでは狭いからホテルに行こう!」
「そうするかの」
俺が頷くとニコさんミコさんに両脇を抑えられて、キツネさんが開いた穴からホテルに連行された。三人ともいい笑顔である。なんでだかやたら行動が早いような。
「タダシ殿。そろそろ出る時間じゃ」
頑張った。久しぶりに頑張った。くたくたになって寝たら、キツネさんに起こされる。もう朝か。
俺の体を揺らす手の上を見ると、セーラー服の前に髪が二つに分かれて結ばれて揺られている。キツネさんではなくニコさんか?まあ広義ではどっちもキツネさんなんだが。そしてなんでセーラー服?
目が合うとニコさんが告げる。
「キツネ本体より伝言を預かっておる。稼ぎに行ってきます、とのことじゃ」
「ああ、そうですか。ありがとうございます、ニコさん」
「儂はニコではない、ヤコじゃ」
「は?」
何言ってるのかよくわからない。
間抜けな声を出してヤコと名乗る分身さんを見つめると、わけのわからない俺に説明をしてくれた。
「本体が作り出した分身は計八人。本体は分身五人を連れて稼ぎに出た。儂は七人目の分身、八人目のキツネ。八の狐でヤコじゃ」
「はあ。六人で稼ぎに行くとは言っていたような気はしますが」
「稼いでいる間も時間がもったいないということでな。タダシ殿の手伝いをする儂と、家に帰ってゲームをする二人が追加で創られた」
分身が八人。
二狐のニコ、三狐のミコにくわえて、四狐でヨウコ、五狐でイツコ、六狐でムッコ、七狐でナナコ、八狐でヤコ、九狐でクウコ。増えたキツネさんの分身の名前だそうな。
人の名前を覚えるのが苦手な俺としては五番目あたりで怪しくなってきそうだ。いや、すでに怪しい。
「そんなに増えると覚えることもそうですけど、とっさに呼び分けられる自信もないんですが」
「なに、常設でニコ、ミコ。土日の臨時はその他でよいじゃろう。儂とナナコとクウコはわかりやすいほうじゃろうし」
「わかりやすい……?」
「ほれほれ、起きてみい起きてみい」
ヤコさんとやらに腕を引っ張られてベッドから降りて立ち上がる。
なんだがヤコさんの身長が低い。当社キツネさん比90%というところか。胸も小さい。言われてみれば確かにニコさんとは違う。
ついなでやすい位置に頭があるので撫でてしまう。顔も心なしか若いような。
「小さいですね」
「おう!中学生バージョンじゃ!」
「ああ、セーラー服はそういう……ちょっと待ってください」
ラブホテル。
セーラー服中学生。
俺全裸。
「大丈夫なんですかこれ!?」
「別に本当に中学生というわけでもないしのう。ここから出る時は別の服で出ればいいわけじゃしの」
少し慌てたが、キツネさんになだめられて落ち着きを取り戻す。ホテルから離れる際に他人に注目されなければ済む話だし、キツネさんならなんとでもなるか。
それはそれとして、何故こんな姿かたちの分身体になったのか。
「なんで中学生なんです?」
「いろいろな味を食べ比べてみたいものじゃろう?」
中学生が意地悪そうな顔をしてプリーツスカートを持ち上げる。
性的な挑発のつもりなんだろう。
まあいろいろと食べ比べてみたいとは若いころには思ったものだが、それでも。
「俺はロリコンじゃないんで、いつものキツネさんの方がいいです」
「ぬう、予想通りの展開じゃのう。まあいい、家に帰るとするかの?」
「ええ」
やれっちゃやれないこともないとは思うが、わざわざ手を出そうとは思えん。
ワープする魔術は分身でも問題ないらしく、ホテルの支払いを終えると部屋から直接帰ることにした。
口先だけ悔しそうにして笑顔な中学生なヤコさんに連れて帰られると、小学生なキツネさんが二人。
「おかえりー!」
「あはは、タダシ殿がでっかいなー」
「た、ただいま……」
小学生の姿でビールを飲まないで頂きたいのだが。