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超能力者は誰が為にあるか

投稿が遅くなったわりにほぼ話が進んでいません。

申し訳ないです。


 時は少し戻り、もうすぐ深夜になろうという時刻。

 煌びやかな装飾に彩られた広い客室に、少年と少女の姿があった。

 服を選ぶのが面倒だったのか見るからに高校の制服だとわかる格好で柔らかそうなソファーに座り、文庫本に目を落とす少年に対し、少女は髪を高い位置で結い上げ上質なドレスを身に纏い、何故か窓際に置かれた丸テーブルに浅く腰掛けて知恵の輪を手元で弄っている。

 まだ年若い彼らの姿は本来ならこの豪華客船には不釣り合いなものだが、しかし二人の持つ独特な雰囲気は妙に自然にこの空間に溶け合っていた。

「玲くんはさ、超能力とかって信じる?」

 知恵の輪を弄びながら唐突に尋ねた少女に、少年が手元の本から視線を上げる。

「まさか。そんなものは物語の中の話だよ。現実にあるわけがない」

 少年のその答えに、少女は満足げに微笑んだ。

「うん。私もそう思う」

 とんっという軽やかな音と共にテーブルから下り、少女は部屋を歩き始める。

「でもそれはきっと、私や玲くんが強いからなんだよね」

 くるくる。くるくる。

 少女の手の中で、知恵の輪が回る。

「弱い人間はさ、そういうあり得ないものに縋るしかない。そういう非日常を信じることで、どうしようもない日常から逃げた気分になるの」

 そして少女は少年の前で不意に足を止めた。

 ただ回されていただけの知恵の輪は、いつの間にか少女の手に解けた状態で収まっていて。

「そう。つまり、超能力者にはニーズがあるのよ」

 艶やかな笑みを浮かべて高らかに告げた少女に、少年ははぁ、と深い溜息を吐いた。

 これは彼女の“遊び”。優雅で華やかで美しくて、けれどどうしようもなく狭く息苦しい世界に飽きた少女は、親の目を盗んで頻繁にこうした“遊び”を繰り返していた。

 彼女の“遊び”を知っているのは、少年だけ。誰かに迷惑をかけるようなら止める気はあるのだけれど、奔放なわりに意外と常識をしっかり持っているな少女が他人に迷惑をかけるような“遊び”をすることはまずなくて、結局のところこの“遊び”を容認してしまっているのが現状だ。

「素性はばれないようにしてね? 澪緒ちゃんが怒られるときは、僕も連帯責任で怒られるんだから」

 この聡い少女が正体を掴ませるようなミスを決してしないことはわかっているけれど、念のためにそう何時もの台詞を繰り返して、少年はソファーから立ち上がった。

「じゃあ、用事が終わったら連絡して。適当にふらふらしてるから」

 胸ポケットを指で示しドアへと向かう少年の背に、少女は柔らかな声音で告げた。

「うん。いつもありがとう」



 客室を出た少年は、逡巡の後デッキへと足を向けた。

 船内の店は昼のうちにだいぶ少女と回ってしまった。どうせデッキに出ても何も見えないのはわかっているけれど、夜風に当たるのも気持ちが良いかもしれない、という考えの結果だ。

 夜も遅いせいか殆ど人のいない船内を一人でのんびりと歩く。

 エレベーターでデッキに続くフロアに向かい、昼間は人で賑わう無人のホールを少年は僅かに疑問を抱えながら通り抜けた。

 ここに着くまで、従業員の誰とも擦れ違っていない。深夜とはいえ普通、誰かしらはいるはずなのだが。

 そんなことを思いながらデッキに続くドアに手をかけたとき、勢い良くドアが向こうから開いた。

「!」

 驚いて手を引っ込めた少年の脇を、背広を着た中年男性が苛立ったように通り過ぎる。手に持ったトランクはひどく重そうで、少年はまた内心首を傾げた。そんなに重いトランクなら客室に置いてくればいいのに、何故持ち歩いているのだろう。そんなに大切なものなのだろうか。

 中年男性が出て行った勢いで少し開いているドアから吹き抜けてくる夜風。

 思った通り気持ちが良いその風に誘われるようにデッキに出れば、背広の男とよれよれのジャケットの男が見えた。

 どうやら向こうは少年の存在に気が付いていないようだ。

 人を探すように周囲を見回した背広の男に、ジャケットの男が近づいて行く。

 絡むようなジャケットの男の素振りと逃げたいという感情があからさまに見て取れる背広の男の様子に、おそらくあのジャケットの男は酔っているのだろうと少年は推測をつけた。

 マナーがなっていない客だと思わず眉間に皺を寄せーーー、




 ひやりと背筋に悪寒が走った。

 殺気にも似た、冷たい視線。

 考えるよりも先に体が動いて、少年は咄嗟にすぐ側の柱へと身を寄せる。

 次の瞬間。


 漆黒が、目の前に広がった。



奏雨

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