第8わん 二柱の精霊
一日遅れて申し訳ありません。予約をミスりましたorz
獣耳幼女登場です。
僕の聴覚に正面から発っせられたと思われる二人分の美しい声が届いた。
疲れてるのかな・・・いや、疲れてはいるはずだろう。なにせ、つい先までガチで山の中をさ迷ってた訳だし・・・朝から動きっぱなしな訳だし、そりゃあ幻聴の一つや二つ聴いたって不思議な事は・・・・・・あるわな、そりゃ。
軽く頭の中で一人突っ込みをいれつつも、現実を認識するためにそっと両手を下げつつ目を開ける。
僕の視界に飛び込んできたのは、先程まで間違いなく誰もいなかったはずの二体の狛犬の像の前で、二人の女の子が床に座ってこちらに深々と頭を下げているという状況だった。一体いつのまに?どうやって?せいれいでん?主様って?
様々な疑問符が一瞬で頭の中を駆け巡ったが、僕の中でそれらの疑問が全て端っこに丸めて放り投げられる程の最大の驚きの要因は・・・・・・その女の子の頭頂部とお尻の部分に存在した。
ピコピコという擬音が聞こえてきそうな感じで、現在進行形で明らかに動いている、どうみても獣の耳にしか見えないモノが黒髪と白髪の女の子の頭から生えている。さらに、お尻の部分には思わず触りたくなるような、見た目からしてふわっふわっな質感を想像させる頭と同色の黒と白の尻尾がそれぞれに生えていた。
「・・・・・・・・・」
作り物などでは断じてない、圧倒的な現実感を放つ生物のそれを凝視して随分長い間絶句していたらしい、僕から何の返事も帰ってこないことを訝しく思わせるのに十分な時間がたっていたか、二人の女の子がゆっくりとその面を上げた。
僕から見て左手側の女の子は、肩のあたりで切り揃えられた癖のないさらさらの黒髪。前髪は眉の上でこちらも綺麗に切り揃えられている日本人形でみられるような髪型をしており、右側にある一房の小さな鈴で結った白髪が印象に残る。服装はいわゆる巫女服だが、一般的に想像する巫女服の赤い裾の部分が橙色になっている。顔の造形はこれまた一つ一つのパーツが息を呑むほど整っており、少し細目の瞳の色は薄く緑がかった黒だった。
そして右手側の女の子は、左手側の女の子と同様の髪型で色は白。前髪の右側には、こちらも鈴で結った一房の黒髪。服も同様に巫女服だが、裾の色は青。顔の造形は左側の子に負けず劣らず整っているが、目元が対照的にぱっちりとしており、大きな瞳は青みがかった黒。どちらも髪と同色の獣耳と尻尾が生えている姿と併せて、その人外な美しさは正しく妖艶と言えた。
「どうなさいましたか主様?」
「どこかお体がすぐれませぬか?主様?」
心なしか耳をふにゅっと前に倒しながら、心配そうにこちらを上目遣いで見上げて問い掛けてくる二人の獣耳幼女。なに、この全力で頭撫でて構いたくなるカワイイ生き物!
内心のそんな衝動を押し殺しつつ、声を掛けられて改めて考えてみると、僕の今の見てくれは、顔に小さな切り傷をつけた服もあちこちボロボロのお世辞にも大丈夫だとは言えない状態だという事実に気付く。ちなみに、今さらながらに僕の服装の説明をすると、下は藪漕ぎしても問題ない薄い青色のジーパンに、上は半袖Tシャツの上に迷彩柄の薄手のジャケット姿。夏なのに長袖を羽織っているのは、道無き場所に自力で道を作る事が頻繁にある釣りにおいて、半袖で藪漕ぎをすると草葉や枝で肌を傷付けたり、虫等に刺されるといった被害に遭う、それを防ぐ為である。今回、斜面を転がった際に半袖だった場合、もっと深刻なダメージを喰らっていただろう事も長袖のわかりやすい恩恵だろう。
「ごめん。ちょっといろいろと考え事してただけで、喉が渇いている以外は一応問題ないよ。切り傷も浅いのばかりだし服はちょっとボロボロだけど概ね元気です」
僕が返事をすると、二人共しばらくじっと僕を見つめた後、大丈夫と認めたのか再び獣耳がピンと立った後に改めて話しだす。
「左様でございましたか。では直ちに水をご用意致しましょう」
白髪の女の子が柔らかく微笑みつつ、「チリン」という髪に結った鈴の音を鳴らして立ち上がる。こちらに近づいて左手の袂へと右手をいれると、そこから小さな乳白色のお猪口を取り出した。
「水気よ」
お猪口の上へと左手の掌を翳して一言呟いた後、左手を添える形に直して、こちらへと笑顔で差し出してきた。
「あ、ありがとう」
反射的にお礼をいって受け取ったお猪口には、当然の如く水がなみなみと注がれていた。とりあえずツッコミは後回しにして、一口で飲み干す。
渇いた身体に染み渡る、本当に冷たい水だった。「お代わりは如何ですか」とすかさず聞かれたので、もう二杯いただいた。やはり見間違いではなく、掌を翳して一言唱えるだけで同様に水が用意されるのをしっかりと目の当たりにした。
人心地ついた事で幾分冷静になった僕は、様々な聞きたい事柄が頭に浮かんだがまずは自己紹介だなと頭を下げた。
「改めてありがとう。生き返ったよ。自己紹介が遅れたけど、僕の名前は葉山糸。16歳の高校一年生です」
「主様のお名前は糸様とおっしゃるのですね。・・・こうこういちねんせいというのはよくわかりませぬが、わたくしはこの精霊殿の二柱が内の一柱、宥月と申します」
「僕は嗄月。・・・当代の資格持つ巫女は不思議な感じがするの」
白い髪の子が宥月で、黒い髪の子が嗄月というのか・・・しかし僕の聞き間違いかな、嗄月が僕の事を巫女っていったような・・・
「えっと、資格が何かはわからないんだけど、巫女さんて普通女性がなるものだよね?僕は男なんだけど」
「・・・・・・糸様は巫女ではないのですか?」
「男の・・・子?男の子っぽい女の子とかではなく?」
宥月と嗄月が、それぞれ可愛らしく小首を傾げながら問うてくる。
「ええ、生物学上は男性に分類されると思いますが・・・
「「男の子・・・」」
二人ともユニゾンで呟いて、何やら考え込みだした。あれ?男だとなんかまずかった?と思いつつも聞いてみる。
「ここは一体なんの場所なのかな?」
その質問に返ってきた内容は、今の状況から想像すると容易に辿り着く、「非日常」だった・・・。
読んでいただきありがとうございます。週末か来週頭にはあげる予定です。