第4わん 救世主揖斐川清子
真正面からロー〇ングリンを照準されて、今正に発射というタイミングで空からフ〇ーダムの射撃がそれを阻止する場面が脳内再生される。
そんな正に間一髪の場面で教室に割って入ってきたのは、朝のHRの為に教室に入ってきた、女神の揖斐川先生だった。僕の内心では救いの女神に現在進行形で拍手喝采が贈られている。
「な・・・何故だっ?入口には封鎖役のマッスル軍曹 (野球部・本名=田中) がいたはずっ!」
「ん・・・?それはこの馬鹿者の事か?教室に入ろうとしたら妙にいい笑顔で朝の挨拶とお茶のお誘いを絡めつつ立ち塞がってきたから、軽く無視して廊下にまで響くこの集団の叫び声はなんなのかと尋ねてみたら。回答が『劇団〇季の練習です』などとほざくからとりあえずアイアンクローの刑に処したが?」
「くっ!マッスルがあっさりと突破されるとは誤算ナリ・・・・・・ってマッスル〜〜〜!!」
歯噛みしながら唸った後、クラスメイトの成れの果てを見て叫ぶ直也。
先生の右手には頭部をわしづかみ状態で引きずられているぐったりとしたマッスルがいた。あの細腕のどこにこんな力が・・・と思わせる恐るべき腕力である。
「で。先程の質問に戻るが、先生に納得のいく説明をしてもらおうか片桐?」
揖斐川清子先生は、癖のない長い黒髪を後ろで一つに結わえた、細い銀縁の眼鏡をかけた妙齢の女性だ。
服装は飾り気のない紺色のスーツ姿だが整った容姿と相まって、一見すると教師というよりは仕事のできる秘書といった印象を与える。
しかし、性格は気さくで生徒達からの人気も高いのだが、全校生徒一致で怒ると恐いという共通認識もある先生である。
現在、非常にいい笑顔 (ただし、目は全く笑ってない) で直也に回答を求めている姿の背後には仁王像が幻視出来そうですらある。
「こ・・・これはその〜・・・・・・・・・劇団〇季の練習です」
押し通すのかよっ!という内心の僕のツッコミをよそにサムズアップで言い切る直也。
ズルズルとマッスルを引きずりながら壇上に立つ直也の前まで移動する先生。
ちなみに、その移動途中で教壇へ上がる段差に背中をぶつけたマッスルの口から「ぬぐあっ」という小さな呻き声があがったが、華麗にスルーされた。
「いい度胸だ」
笑顔を維持したまま一言。
ガシッという音と共に左手で直也の顔面をわしづかみした先生は、そのままアイアンクローを執行した。
マッスルを苦もなく屠った宝刀は、恐るべき事に左手でも問題なく力を発揮した。
たちどころに崩れ落ちる直也。
先生は、そのまま教室内を見渡すと、両手に二人をぶら下げたまま言葉を放つ。
「うちのクラスは無駄に元気が有り余っている輩が多いようだな。そんな諸君らには、今日の放課後は職員室前のグラウンドの奉仕活動をしてもらおう。逃げられるなどと思うなよ?さて、とっとと朝のHRを始めるぞ。全員席につけ!」
僕が口を挟む間もなく、素早くクラスを平常に戻した揖斐川先生は、千葉さんと下山さんに直也とマッスルを席に運ばさせつつさっさと終業式前の簡潔なHRを終わらせた。
ちなみに、職員室前の奉仕活動とは、文字通りに先生方が常駐する職員室の窓から作業場所が丸見えなために、逃亡が限りなく困難な事で有名な素敵な奉仕活動である。
さらに余談だが、被り物を脱ぐタイミングを逸した火照る(ホテル)・非モテ派 構成員が誰にもツッコミをいれられる事なくHRを受けていた光景はとてもシュールだった。
夏休み前最後の登校日は、そんな朝の軽い騒動以外は概ね平和に昼前には終わり。部活と遊びに繰り出す生徒達に開放感をもたらすのであった。
お読みいただきありがとうございます。
2/24誤字修正。一部文章修正。(ストーリーに大幅な影響はなし)