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第2わん お隣りさん宅の白浜姉妹


「おはよう、里桜姉(りおねえ)ちゃん。麗奈(れな)ちゃん」


 後からかけられた声に、僕は笑顔で振り返りつつ隣の幼なじみ×2へ挨拶を返した。


「もうっ!いっくん。私達の事は呼び捨てにしてって、いつもいってるのに」


 頬を軽く膨らませながら不満そうに訴えてきたのは、白浜家の長女、里桜りおだ。

 身長はこの年頃の女性では平均的な部類に入る160cm程。腰に届くくらいの長い黒髪を、後ろで一つに結わえている。顔立ちは色白でほっそりとした綺麗な造りで、一つ一つのパーツが整っている。

 くりっとした大きな瞳は彼女の母親似。身に纏う高嶺の花といった雰囲気とは違い物腰は非常に柔らかい。しかし、着飾ってお金持ちのパーティーにでもでたならば違和感なく何処かの令嬢で通るであろう。

 現在は糸と同じ私立高校の女子制服。空色スカイブルーのブレザーに群青色のリボンタイ、チェック柄の膝丈スカートに黒のニーソ姿。


「そーだよ、いー兄。今度呼び捨てにしなかったら罰ゲームを与えちゃうよ・・・その身体にぃ・・・じっくりと」


 カラカラと向日葵の様な笑顔を浮かべて、しかし後半の内容はえらく不穏な発言をしているのは、次女の麗奈れな

 身長は150cmと同年代の中でもかなり小柄な部類。しかし、スレンダーな姉に対して麗奈はその小柄な身長に反して、制服越しでも一目でわかる、でるとこはでている非常にメリハリのある体型をしている。

 髪は肩のあたりで切り揃えられた色素の薄い茶色がかった黒髪。彼女の父親似の目元はキリッとした切れ長の瞳だ。姉とは性格は元より、身に纏う雰囲気もまるで異なる珍しい姉妹である。

 まぁ、付き合いが長いと共通する点もなんだかんだと見えてくるので、やっぱり姉妹なんだなと感じる部分も多々あるのだけれど・・・。

 こちらは中等部の女子制服、同色のセーラー服版で白ニーソ姿だ。


「その罰ゲームは、何故か本気で身の危険を感じるから気をつけます」


 脳内に肉食獣に獲物として睨まれている草食動物の映像が唐突に再生され、背中に冷や汗を流しながら答える糸。

 次いで、ふと強烈な視線を感じて2階の実姉の部屋がある窓を見上げると、窓際に佇む目が全く笑ってない般若りんねえの笑顔を目撃して光速で目を逸らすはめに陥った。窓枠から妖気の類が漏れるでている錯覚まで見えた。


「さてと、二人とも遅刻しちゃうから早く学校へ行こうか」


 糸の挙動から同じく窓際に視線を移した姉妹は、どこか優越感を持った微笑をたたえつつ右手をひらひらと上品に振って凛姉へと無言の挨拶をしてから「いってきますね。リリーさん」と声を掛けて糸の左右に並んで登校に加わった。


「おのれ白浜姉妹・・・。あぁ、いっちゃんと同級生になりたい・・・」


 登校する三人の後ろ姿に凛の呪詛じみた呟きがこぼれた。



*  *  * 



 自宅から徒歩約20分程で到着したのは、大垣駅の裏手に存在する、私立日輪大(にちりんだい)付属高等学校。

 小・中・高・大学まで一貫の広大な敷地を有するマンモス学校だ。


「れ〜〜〜な〜〜〜!」


 高等部の正門前に着いたところで、麗奈の友達であり、とある理由から幅広い生徒に認知されている中等部の同級生、水星千恵(みなほしちえ)が胸の前で腕を組み、仁王立ちした姿でこちらに黒い笑みを浮かべつつ声をかけてきた。


「あら、おはようちーちゃん。どうしたの朝から陽気な雰囲気(オーラ)を醸し出して・・・」

「今のわたしのどのあたりが陽気に見えるのか小一時間程問い詰めたいところですけれど・・・会長(・・)。何かわたしに謝罪する事がおありじゃございません?」


「え〜?・・・あっ、こないだちーちゃんの部屋で発見したアレ(・・)を机の上に置いておいた件かしら・・・ごめんね、思春期の子供に対するお母さん的な行動しちゃって。まぁ・・・思春期なんだけど」


 心の底から申し訳なさそうな表情をつくりつつからかうという高等テクを発動する麗奈。

 多分内心で凄い、いい笑顔を浮かべているんだろうな〜と親友をいじるのが好きな麗奈を生温かい目で眺める。


「ちょっ・・・アレってなによ!アレって!誤解を生むような捏造発言はやめてよ」


 顔を羞恥で真っ赤に染めながら周りの生徒からの視線を気にして、キョロキョロしながら早口でまくし立てる千恵さん。


「えっ?言っちゃってよかったの?・・・ちーちゃん。同じ思春期の乙女としてそこまでオープンになるのは、さすがにどうかと思うの」


 一体何を置いたのか非常に気になるが、あと思春期を強調しすぎだが、そろそろ軽く涙ぐむ千恵さんが本気でかわいそうになってきたので助け船を出す。


「あー麗奈、千恵さんをからかうのが楽しいオーラが溢れでてるが、そろそろやめたげなさい」


 言葉を挟んだ僕に、千恵さんが部屋の隅っこで怯える子犬の様な雰囲気でこちらに視線を送ってくる。

 正直その仕種から、Sの気はないはずなのに軽く嗜虐心をそそられる錯覚を覚えたような気がするが、良心を引っ張りだして気のせいだとブロックする。


「え〜、いー兄ったらからかうだなんて人聞きの悪い。狩猟の基本は目標を弱らせてから一撃で仕留める事にあるんだよ?」


「なんで千恵さんが獲物になってんのっ?確かになにかの小動物的な雰囲気でてましたが友達だよね?しかも仕留める事前提かい!ってほら、千恵さんも麗奈の冗談を真に受けて裏切られたみたいな顔しない!どんだけ純心(ピュアハート)なんですか!」


 麗奈の獲物宣言に「絶望した〜」って感じで固まっていた千恵さんが僕の言葉で再起動して麗奈を可愛く睨む。

 本当に見てて不安を覚えるくらいに無垢だなこの子。


「もうっ!会長はいつもいつも私をからかって!いくら温厚な私でも堪忍袋の緒が切れちゃいますよ!私怒ると恐いんですからねっ!」


 背景にプンプンといった擬音が透けて見えそうな、残念ながら怒っても可愛らしさを半減出来ていない千恵さんが麗奈に抗弁するが、正直麗奈を改心させるのは無理である。

 そして僕は、堪忍袋って今時使わないなぁとズレた感想を抱いてたりする。


「はいはい、副会長(・・・)様は大変御立腹の様ですのでお話を伺いますわ・・・で、何の用だったかしら?」


「もう!今日が終業式だって知っててとぼけてるんでしょ。式中の生徒会枠の進行表の確認とか先生方との最終事前すり合わせとかその他諸々会長承認が必要な作業が山積みなんですよ!早く生徒会室へ行きますよ」


「え〜、麗奈は朝の貴重ないー兄との時間が最優先であって、会長としての職務は有能な副会長を含む黒の騎〇団に全振りしたいのが本音なのだけれど・・・というか、どうしてわたし、会長なんてやってたんだっけ?うん。思いだせない。そんな理由(わけ)で心底面倒くさいわ」


 麗奈のやる気ゼロレク〇エム発言に「はうぅ〜」といった感じで涙ぐむ千恵さん。というか麗奈よ、生徒会は黒の騎〇団ちゃいますから。

 やれやれと、視線を先程からのやり取りを微笑をたたえて傍観していた里桜姉にやりアイコンタクトをとる。里桜姉は僕に向かって一つ頷くと、妹に声を掛けた。


「麗奈」


「何?お姉ちゃ・・・ん?」


 名前を呼ばれて振り返った麗奈の声が、尻すぼみに小さくなりつつ震える。


「あまり千恵さんを困らせてはいけませんよ?これ以上聞き分けが悪いようだと、お姉ちゃんは公衆の面前で思い出話を始めちゃいそうです。・・・主にかわいい妹の幼少期のエピソードを・・・」


「ごめんなさいっ!さあちーちゃん。生徒会室にいこっか!なるべく早く迅速に!」


 里桜が家族強権という名のギ〇スを発動すると、一瞬で態度を翻した麗奈が千恵さんの肩を押しながら慌ててこの場からの逃走を選択する。うん・・・麗奈も対抗は自滅かよくて共倒れと即理解したようだ。

 幼稚園の頃に僕に「おっきくなったらお嫁さんになる」発言も封印したい類い恥ずかしいエピソードに含まれるんだろうなぁ〜・・・などとつらつら考えながら背中を見送る。


「それでは途中までは二人っきりですね。私達ものんびりと参りましょうか」


 やけにニコニコした里桜姉の言葉に意識を戻されて、僕は肯定の返事を返しつつ、何故か終始ご機嫌な里桜姉と並んで高等部の玄関へと向かった。

 校舎内の階段で里桜姉と別れて (1年生は1階、2年生は2階、3年生は3階に教室がある為) 自分の所属する教室へと向かう。

 教室のドアを開けると同時、教壇に立つ人物からの怒号が空気を震わせた。


「諸君!撃鉄を起こせ!」



一部加筆修正(6月20日)

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