第17わん 百合子とリリー
夏休み初日に山で遭難→幼女精霊をお持ち帰りする→自宅で実姉暴走→家族のシベリアンハスキーが神様発覚→葉山家へ来た経緯回想中(今ココ)
間が空きまくってスライディング土下座。
森の中で遭遇した、異国の黒い瞳を持つ人間の女に捕獲されてから数分が経過していた。
モフられていたリリーには、もっと長い時間が経過しているかのように感じられていたのだが・・・それよりも驚いたのは、今まで他者に「触れられる」という経験をした事のなかったリリーはその人間の女に触れられて「気持ち良い。悪くない」という感情を持った自分自身に内心驚いていた。
暫くの間、優しく撫でなれるままに任せていると、不意に人間の女が言葉を発した。
「はぁ〜。美味しい食材があると聞いて入った森で、まさかこんなに可愛い至高のモフモフとの出会いがあるなんて・・・思わず我を忘れちゃったわ〜」
「(・・・わらわはかつてない恐怖を感じたのじゃが)」
女の零した言葉に頭の中に直接響く返答の言葉が届いた。しかし、女は一瞬キョトンとした顔をすると軽く小首を傾げてから、リリーをまじまじと見て、
「あらあら、貴方はお話が出来るのね〜。凄いわね〜。賢いのね〜」
動物が人語を理解し、会話が成立するという非常識な状況に対しての反応としてはありえない、ゆる〜い空気で返ってきた返答に内心驚きつつ言葉を返す。
「(それで納得するのかや・・・)」
呆れ半分、感心半分に呟きを返すとぽわぽわとした雰囲気のままに人間の女は全く意に介した様子もなく質問をする。
「そうそう、わたしったらまだお名前を聞いていなかったわね〜。わたしは葉山百合子っていうのだけど、あなたのお名前は何ていうのかしら〜?」
「(・・・・・・わらわに名前はない。次代を司る狼の種を見守る神として顕現してからまだ数年じゃが、名前がない事で特に困っておらんかったからして、特に考えてもいなかったのぅ)」
「あらそうなの〜。ん〜、名前は大切なのよ〜?そうねぇ・・・・・・じゃあ、あなたの名前はリリー。うん!リリーさんに決定〜」
小首を傾げて少し考えるそぶりを見せた後に、あっけらかんと笑顔で名前をつけた百合子。ただでさえ童顔に見えるその顔が無邪気さを纏い、さらに幼く見えて益々毒気を抜かれるリリー。
「(リリー・・・リリーとな・・・。うむ。良い響きじゃ、気に入った!今からわらわはリリーじゃ)」
その返答に百合子はうんうんと満足そうに頷くと、そのまま楽しそうにリリーを優しく撫で続けるのだった。
半時ほど百合子が自分の家族や日本について雑談混じりにリリーに語りかけながらぽわぽわとした時間を過ごした時、またまた唐突に百合子が手を叩いて声をあげた。
「あっ!そうだリリーちゃん。家にお嫁さんに来ない?アトラスちゃんっていうすご〜くいい子がいるんだけど、きっとリリーさんも気に入ると思うのよ〜」
「(またとんでもない提案をさらっとしてくるのう。わらわは一応この地を見守る『神』見習いなんじゃが・・・)」
「ん〜?もしかしてこの土地から動けなかったりするのかしら〜?違うならこの広い世界を見る経験にもなるし、旦那様も出来るし、色々楽しい時間になると思うのよ〜。わたしも家族が増えて嬉しいし〜」
「(うむむ、特に土地から離れられない制約などはないが仮にも『神』を家族に誘う神経を持つ人間がいるのが驚きなのじゃが・・・ふむ。しかし人間の世を見るのもいい経験ではあるか・・・百合子の言うアトラスにも興味が湧いたしのう)」
「それじゃあ決まりね〜、わたしと一緒に行きましょう〜。きっと楽しいわ〜」
「(ふむ。では今日から百合子とは家族であるな。よろしく頼むぞ母様)」
「うん。よろしくね〜。リリーさん」
こうして白銀の森の中、満面の笑顔を浮かべて、百合子は新しい家族を迎え入れたのだった。
プロットなしで行き当たりばったりはやはり馬と鹿ですねorzなるべく早く続きをあげたい(願望)です。
読んでいただきありがとうございます。