プロローグ
精霊王は何者にもへつらわぬ、唯一絶対の王である。
数人の供のみを連れ、山の奥深くにひっそりと暮らしているかの王の力は絶大であった。
ただ名を呼ぶだけで世界の全ての要素は彼に従い、そのため多くの者がその力を求めた。
しかし、その力が強大であったがゆえ、例え人の世界の王であっても、彼を擁することは適わなかった。
彼は人の争いには無関心であり、彼自身と眷属の精霊たちの為にのみ力を振るった。
けれども世の中の多くがそうであるように、彼にも例外はあった。その唯一の例外が『蒼き山脈と碧の湖畔に慈しまれし白き聖花の皇国』第十四代の皇帝バートランドである。
人の世には無関心であったはずの精霊王は、長きに渡って続いていた皇国と隣国との国境争いの平定に力を貸し、その後の安寧をも保証した。
その為、山地の小国であったはずの『蒼き山脈と碧の湖畔に慈しまれし白き聖花の皇国』こと、通称リンガホーン皇国は国土こそちいさいままであったものの、大陸内では有数の発言力を持つ国家として成長したのであった。
精霊王は戦の勝利と皇国の繁栄に貢献した代償として、皇帝と二つの約束をすることとなる。
ひとつは国名にも歌われている『蒼き山脈』の中に城を構えること。
――そしてもうひとつが、皇室に生まれた十人目の姫を妻に迎えることであった。