どうしてわたしがレアなのよ!(三)~黒レイチェル編
レイチェルこと鈴木華の心に住む黒い子、黒レイチェルです。気弱な女の子である鈴木華ちゃんの代わりに毒舌吐きまくります。華ちゃんも何げに突っ込んでいますがね……。
相変わらず、この女(鈴木華)は鈍い。目を覚まして自分の境遇が理解できないようだ。
確かに目の前に広がるのは、非現実的な光景。巨大なカードを駆使して戦っている現場に出くわしたら、この女みたいな反応が普通だろうが……。
カードに記憶されたデータを通りに設置されたバーチャルリアリィティプロジェクターが瞬時に読み取り、空間に映像化するLBCGの戦闘場面に過ぎない。
畳一畳分はある大きなカード。
そこに描かれていた女子が6人描かれている。
6人はぐるりと一人の男を中心に円陣を組んでいる。前の3人はそれぞれが違う学校の制服を着ている。男にとっては、JKの制服はいろいろあった方がいいらしい。
(まったく男とはイヤラシイ生き物だ!)
一人はグレーのブレザーにネクタイ、チェックのスカート。手には弓を持っている。
(この格好で弓持ってたら変だぞ!どこの中二病患者だ?)
左前はオーソドックスな黒のセーラー服。白いリボンがとても目立っている。そして、短いスカートに黒のニーソックス。コイツは、手には竹刀を持っている。
(お前は時代遅れのヤンキー娘か?コラアアア~)
中央の奴はブルーのジャケットに白のシャツ、赤いリボンがチャームポイントらしい見るからに反吐が出そうな清楚な制服。手にはおよそ似合わない巨大な斧を引きずっている。
(コイツに至っては完全に理解不能だ。おまわりさ~ん!ここに危ない人がいますよ~)
後方の陣営を見ると、自分の横を見るとナース服を来ている女子。手には巨大な注射器を持っている。
(お前もか…危ないやつ二号)
右は赤いひらひらのついた傘を持っている小学生の女の子。
(おいおい、ロリは禁止だろう。倫理規定に抵触しないのかこのゲームは?)
こいつらは基本的に「N」つまり、ノーマルカードだ。金さえ出せば手に入りやすいカードなのだ。前の3人には+が2つ付いているので、かなり戦闘経験を積ませたのであろう。数値的にも能力が高い。
鈴木華の格好は、いつもの学校の制服だ。コイツは聖ジョゼフィン高等学校という隣町の進学校に通っている世間知らずの真面目が服を来て歩いているようなウスノロお嬢様だ。
白地に赤い襟に3本のラインが特徴で、コイツはまだ1年の小娘なので赤い。ロングスカートに白いショートブーツというのがコイツの表の顔には合っている。ただ、笑っちゃうのが胸に下げた銀色のクロスのアクセサリー。いくら学校が敬虔なミッション系の学校だからって、お前の家、由緒正しい仏教だろうが。
(去年なくなったじーさん、曹洞宗の葬式だったろうが!)
コイツ(華)が手に持っている円形の飾りの付いた杖は、アイテム名「ブリュンヒルドの杖」というものだ。本人もレアだが、この装備もレアなものだ。コイツ(華)は理解してないだろうが、経験のあるカードマスターならその使い方を理解しているだろう。
(イタタタ!)
急に華のやつ、ほっぺたをつねりやがった。
やめろや!おまえの痛みはわれ(レイチェル)の痛み。無駄に痛みを与えるな。
それでなくても、お前のどんくささで、どんなけ痛い目みたか!
昨日だって、あの階段で…
おっと、これは我が話すことではないな。
華(われ、レイチェル)の頭の上には「R」の文字がクルクル回っている。
燦然と輝く、レアカードの証だ。
LBCGにおいて、レアカードはその名の通り、かなり手に入れにくい存在だ。どこぞのSNSゲームで出てくるレアという名のノーマルみたいな扱いではない(笑)
ただ、レアカードは特殊な能力が与えられているものがほとんどで、通常の戦闘では使いにくいのは確かだ。だから、戦闘重視のプレーヤーは、レアカードを手に入れても自分のデッキには組み込まないことが普通だ。コレクターにとっては、かなり垂涎の的であったから、認可を受けたショップで取引されることもあるが、レアカードの相場はピンキリである。
(もちろん、われのカードは相当な高値なはずだ!?ブヒ男は知らないだろうが)
「グフフッフ…。花のJK、3人トリオの攻撃をかわせるかな?ボ、ボクの前衛はレベルが高いですよ、ブヒ…」
(おいおい、今のマスター、豚か?ブヒはないだろう。いくら、ビジュアル的にブヒが合っていても言わせたらあかんわ)
現在のマスターの容姿は一言で言うと
ブサメン
背が低くて小太り。
こういう男は着ている服もセンスがない。
変なキャラのピチTシャツによれよれのジーパン。
サイズが合ってないから、Tシャツのすそから白いぷよぷよのお腹のお肉がタプンタプンと揺れている。
おまけに長い髪はワックスなのかベタベタしている。
ワックス付ける前に、まず髪の毛、洗えや
一ヶ月も洗っていないから、油でべとついている。
自前ワックスで十分だわ!
そして笑えるのは
黒いサングラス…
華じゃなくても、キモ!っと思う。
周りの女子は、マスターであるこのブヒ男の忠実なる下僕だから、嫌な顔をしないけれど、リアルレアな華(われ、レイチェル)は感情を隠せない。
(ただ、語尾のブヒには笑える。よく聞くと可愛いじゃないか!)
目の前の敵はゲームアカウント名「ジスラン」
ランキング91位という大物ランカーだ。
カードの種類を見ると、ちょっと大人のワーキングレディをメインとしたデッキ構成だ。
前衛3枚はスーツ姿のOL、女性警察官、中央だけアスリート系のフェンシング選手。
後衛は、ヴァイオリンの先生に巫女さんときたもんだ。
だけど、われは嫌なものを見た!
白いワンピースを着た長い髪の女。
髪で顔が見えない!
アイツ、ゴーストカードの小夜じゃないか!
ちなみにフェンシングの格好をしているネーチャンの頭上には、「UN」の文字が回っている。アッパーノーマルというランクのカードだ。通常のノーマルよりは手に入れにくい。
後の奴らは「N+++」がクルクル。
「小夜」は当然、レアだから「R」の文字がクルクル…。
レアカードを使うとはさすがランキング91位だけのことはある。
ブヒ男の場合は、ただ単に目立って観戦者によく見てもらいたい程度で、われを入れたに過ぎないから、この勝負みえたな…。
華のやつ、やっぱり、真面目な顔をしていても根はビッチだから、相手のイケメンと現マスターのブヒ男を比べてやがる。これだから処女は困る。ちょっと、イケメンを見ると尻を振りやがって!
一応、今のマスターのブヒ男に尽くすのがわれらカードの努めだろうが。
ブヒブヒ言っても、マスターはマスターだ。
「ブヒ!先攻はこちらブヒ!素早さでは、JKトリオには勝てないでブヒ!行け、JKの3連撃!」
前衛の花の女子高生が一斉に襲いかかっていく。
カードの数値だけなら、いい勝負だ。このブヒ男もだてにここに来るまで、ゲームをやりこんじゃあいない。いけ好かないジスランを慌てさせることができるか?
(あぶない!イケメン様)
などと言って、華の奴、物語のヒロインみたいに両手を口に当てて、目を見開いているが、お前のご主人様の攻撃だろうが。形だけは応援しろよ、このビッチ!
前衛JKの3連撃に結構なダメージを受けたようだが、さすがはランキング91位。今日、初めて街に入場した一般ビジターには簡単には負けるはずがない。確かにブヒ男は、強いけれど、所詮はネット上で行うゲームだけで鍛えたに過ぎない。同じ鍛えるのでも、このゲームヘブンシティ内で実戦を繰り返してきたプレーヤーにはかなわないのだよ。
だから、ゲーマーはこの街を目指すのだ。目指すといっても、入場料五万円払って、抽選で当たらないといけないのだが。おっと、これはわれの話すことではないな。
次のターンはジスランの奴の攻撃だ。だが、この男は冷静にブヒ男の戦力を分析していた。
このLBCGは一見、カードが強ければ力押しで勝てると思ってしまう。だが、それは大きな間違いだ。カードがここに持つ能力を他のカードとうまく組み合わせ、そして有効な陣形が勝敗を分ける。ブヒ男はかなりゲームをやりこんだプレーヤーだったが、金にものを言わせたパワープレイ。ジスランの戦力と自分を比べて、持久戦に持ち込めば勝てると思ってブヒブヒ笑っているが、そんなんで勝てると思っているから、ビジターなんだ。
華のやつ、自分がカード名「レイチェル」と聞いて戸惑っていやがる。その気持ち、分かる分かる。お前みたいな真面目な振りをした実はビッチでした…というキャラには、レイチェルなんて高貴な名前はもったいない。
レイチェルはわれのような高貴な者に与えられる名前なのだ。
ブヒ男の奴が華に向かって、命令をする。
「レイチェルちゃん、クリスタルガード発動だ!」
「は?なに?」
(やはり、戸惑ってやがる。まあ、本人が戸惑ってもマスターの命令で自動的にプログラムが起動して発動するからいいけれど…)
クリスタルガードというのは、華が使える特殊能力の一つで、味方パーティの防御力を大幅に上げるものだ。これが発動すれば、ブヒ男が狙う長期戦に持ち込める。
一時的に先頭に立った華は両手を広げた。両手に青く光る球が現れる。
(わ、私、魔法使いにでもなったのですか!?)
(はいはい。お前は見習い司祭だ。このゲームじゃ、魔法使いみたいなもんだが)
だが、さすがはランキング91位。ゲームの結末を見越した作戦に出る。
白いワンピースを着た小夜が、ゆっくりと右腕を上げていく。
ズバリと指差す。
ドーン!
(ウゲエ…単独指名かよ!)
その瞬間に華の心臓が(ドクン…)と鳴った。
(ドクン…ドクン…ピー)
華の奴、その場で倒れてしまった。当然、華と一心同体のわれ(レイチェル)も倒れる。意識は失ってはいないが、カードには倒れているイラストに変わる。下の数値は赤い字で1となる。
小夜の奴の必殺技「凍てつく指名(指名されるのはお前だ)」だ。
任意のカードの耐久力を99%奪い、動けなくする極悪技だ。
(おいおい、スカートきわどいめくれ方で倒れよって。これで男を誘うのか?まさに羊の皮をかぶったビッチだな)
「わわわ…レイチェルちゃん!」
頼みの綱のレアカードが一撃で倒されて動揺したブヒ男の奴、結局、ジスランの奴にフルボコられて、悲痛の叫び(うぎゃーブヒブヒ…)
やはり、ビジターはランキングアンダー100には荷が重かったようだ。ランキング500以上なら、ブヒ男の奴でも勝てたかもしれないが。
対戦者同士の戦いは、勝者に運営側から1万ポイントの電子マネーがもらえる。これは、観戦者を楽しませたボーナスみたいなもの。高ランカー同士の激戦だと、このポイントは一挙に跳ね上がる。また、負けた方は勝った方に一枚だけ、任意のカードを取られる。いわゆる賭け札であるが、このために対戦を申し込むプレーヤーも多い。他人が育てた有力カードをいただけるのだ。美味しい話である。
で、ジスランの奴、ブヒ男から奪取したのが、もちろん、我である。
一見、ブヒ男が丹精込めて育てた主力カード、JKトリオのどれかをいただくのが普通だが、
ジスランの奴は見る目がある。一見、使いにくく戦闘では役たたずに思える我であるが、じっくり育てればすごいことになる。
(いや、これ以上は話せないが…)
無論、我はレアカードだから、町のカードショップへ持ち込めば、少なくとも1万ポイントにはなる。レアカードは名が知られて価値が出るので、現在、まだ無名なわれは最低価格だろうが、そのうち、一億円積まれても譲れない貴重なカードになることは間違いないのだ。
ブヒ男の奴、華のJKトリオを取られなくてホッとしてやがる。
馬鹿な男だ。だから、ブヒ男なのだ。
まあ、この男が我を手に入れた経緯からすれば、手放すのも痛くはないだろうが。
(おい、華!悲しい気持ちになるってマジか?ブヒ男の方がいいのか?このビッチめ!)
次話は明日の23時に投稿予定です。
明日から仕事だわ~。(悲)