どうしてわたしがレアなのよ!(一) ~鈴木華編
この物語のヒロイン鈴木華ちゃん(レイチェル)の登場です。彼女、カードなんです。今はブヒ男君の所有カードですが。彼女の活躍を……って、この娘、ドジっ娘スペックが匂います。
ふと目を覚ましたとき、私は目に映る空間がどこなく嘘くさい世界で夢の続きでも見ているのかと思い、もう一度、目を閉じました。
目を開ければ、いつもどおりの風景のはず・・・。
だけど・・・
目の前に広がる世界は、嘘臭かったです。
畳一畳分はある大きなカード。
そこに描かれていたらしい女の子が6人立っています。
6人はぐるりと一人の男を中心に円陣を組んでいます。前の3人はそれぞれが違う学校の制服を着ていました。一人はグレーのブレザーにネクタイ、チェックのスカート。手には弓を持っています。左前はオーソドックスな黒のセーラー服。白いリボンがとても目立っています。そして、短いスカートに黒のニーソックス。この娘は、手には竹刀を持っています。中央の娘はブルーのジャケットに白のシャツ、赤いリボンがチャームポイントの清楚な制服。手にはおよそ似合わない巨大な斧を引きずっているのです。
(何でしょうか?これは?)
私の左を見るとナース服を来ている女の子。手には巨大な注射器を持っています。右は赤いひらひらのついた傘を持っている小学生の女の子。ツインテールで可愛いです。
よく見ると、頭の上に「N」の文字が……。前の女子高生3人には「N++」の文字が見えます。
え?わたし?
わたしの格好は、学校の制服です。(変な格好ではありません)聖ジョゼフィン高等学校の伝統ある制服。白地に赤い襟に3本のラインが特徴です。わたしは1年なので赤いのですが、2年生は銀色、3年生は金色になります。ロングスカートに白いショートブーツというのがまた変わっていて、近隣では結構評判なんです。そして、何よりも銀色のクロスのアクセサリーがセットになっているのは、学校が敬虔なミッション系の学校だから。
でも、手に持った円形の飾りの付いた杖は、学校のものではありません。
(しかし、何なんですか?この状況?夢?夢ですよね?これは!)
わたしは自分のほっぺたをギュとつねりました。
「イタタタ!」
夢じゃありません。
ちなみに私の頭上には「R」の文字がクルクル回っています。
(これ何ですか?疑問がどんどん増えます)
「グフフッフ…。花のJK3人トリオの攻撃をかわせるかな?ボ、ボクの前衛はレベルが高いですよ、ブヒ…」
(今、この人、語尾にブヒって言いましたよね?)
中央の男の人は背が低いです。ついでに小太り。それなのに体に合わない変なキャラのピチTシャツによれよれのジーパン。Tシャツのすそから白いぷよぷよのお腹のお肉がタプンタプンと揺れています。長い髪はワックスなのかベタベタしています。それで黒いサングラス…
(この格好で黒サングラス?ダサいです。そしてキモいです!)
でも、周りの女の子たちは、全然、動じていません。
(少なくとも普通だったら、語尾の「ブヒ」に突っ込まないでしょうか?)
状況を察するに、どうやら、私たちは目の前の男の人に戦いを挑んでいるようです。
相手は…と見ると、相手の男の人も周りをぐるりと女性に囲まれています。前衛はナイスバディのスーツを着たお姉さん。両手には500円玉が束ねられた筒状のものを持っています。
(お金が武器ですか?)
正面はフェンシングの格好をしてレイピアを持っているお姉さん。スラリとしたスレンダー美人です。その隣は女性警察官風の人。ハンドガンを構えていますよ……。
いや、撃たないで下さい!
後ろの3人はよく見えないですが、バイオリンを手にしているセレブそうなお姉さんに巫女さん風?の女の子。
そして、一人は明らかに足がないよね!
白いワンピースを着た長い髪の女性。
髪で顔が見えない!
うそ!
完全に○○○子さんじゃない!
ちなみにフェンシングの格好をしているお姉さんの頭上には、「UN」の文字が回っています。
○○○子さんは、私と同じ「R」。後の人は「N+++」がクルクル、クルクル。
気になります~
たぶん、今から戦う敵側の親分?中央に立っている男性は一目でカッコイイと分かります。さらっとした髪が風でふわふわと揺れている。黒いロングコートで黒ずくめです。背が高く、足も長いからまるで、ビジュアル系バンドのボーカルの人って感じです?
こちらのブヒブヒ言っているブヒ男さんとは、正反対です。
「ブヒ!先攻はこちらブヒ!素早さでは、JKトリオには勝てないでブヒ!行け、JKの3連撃!」
花の女子高生が一斉に襲いかかっていきます!
(あぶない!イケメン様)
素早く走って、相手の前衛の女の子に手に持った武器で殴りにかかりました。黄色い閃光が3度光ります。
(せめて、弓を持っている子は、矢を放った方が良くないですか?)
わたしの心の中のツッコミも無視のようです。
でも、花のJK3人トリオの攻撃は通用しなかったようです。いや、通用したのかもしれませんが、倒すことはできなかったようです。全面で攻撃を受けた相手の女の子たちの下に表示された数値を示すカウンターが回って減っているのが分かります。
「ふん、こんなもんでブヒ。次はジスラン殿の攻撃でブヒ!」
ブヒ男君は、笑みを浮かべてブヒブヒ笑っています。勝てるという手応えなのでしょうか?
いや、冷静にそんなことを考えている私はどうなのでしょう?
なんでここにいるのか?という視点が欠けていません?
状況から察すると、どうやら私はカードに描かれたキャラクターのようです。
目が覚めたらカードゲームのキャラになっていました?
しかも
見習い司祭レイチェルって何ですか!
私の名前は、鈴木華聖ジョゼフィン高等学校1年生です!
レイチェルって何ですか?
私は純粋な日本人です!
そんな私の戸惑いを無視して、ブヒ男くんが命令します!
「レイチェルちゃん、クリスタルガード発動だ!」
「は?なに?」
私のカード……私自身が鋒子隊形の先頭にくるりと移動させられました!(きゃっ!)
(私の意思とは無関係!ブヒ男君が動かした?)
私は自分の意思に反して、両手を広げます。両手に青く光る球が現れました。
(わ、私、魔法使いにでもなったのですか!?)
だけど、前方を見るとあの白いワンピースの○○○子さんが、ゆっくりと右腕を上げていきました。
ズバリと指差した方向は、私。
(え?私?)
その瞬間に心臓が(ドクン…)と鳴りました。
(ドクン…ドクン…ピー)
私はその場で倒れてしまいました。意識は失っていないけれど、体はくしゃんと倒れます。カードに倒れている私の絵が描かれています。下の数値は赤い字で1になっていました。
(ちょ、ちょっと待って。倒れ方が……。スカートがめくれて太ももが顕になっています。は、はしたないです!きゃあああ、見ないで!)
「わわわ……、レイチェルちゃん!」
ブヒ男くんの悲痛の叫びと同時に(うぎゃーブヒブヒ…)という断末魔の声が聞こえました。OLさんの500円玉の射撃とフェンシングのお姉さんの5連撃、警察官のお姉さんの射撃が炸裂しました。
ブヒ男君は負けてしまったようです。
「ううう…さすがはランキングアンダー100ですねブヒ。でも、ジスラン殿と戦えて光栄だったでブヒ」
そう言ってブヒ男君は右手を差し出しました。ですが、黒ずくめの青年はそれを無視しています。
(何だか嫌な感じの人です)
「賭け札だ」
ボソッと黒ずくめの青年が言いました。低い暗い声です。
(何だかとても嫌な気がしてきました……)
「そ、そうでブヒ……この街での対戦じゃ、勝った方は負けた方のカードを一枚だけ要求できるんでしたブヒ。どうしますか?ジスラン殿?」
「そいつだ」
ジスランと呼ばれた青年は、迷わず指を差したカード……。
(え?私?)
相変わらず、赤い字で1の数字が出て、倒れたイラストのままの私。
「レイチェルちゃんでいいのですか?ブヒ。確かにレアだけど……。いずれにしても助かるでブヒ。主力の3人娘のうち誰か抜かれたら、この先、戦えないでブヒ」
そう言ってブヒ男君が、私のカードを指で囲んで範囲指定すると、さっと黒ずくめの青年の方に弾きました。
躊躇なく私を引き渡すブヒ男君。
(何だか悲しい気持ちになるのはなぜでしょうか?)
大金で手に入れたはずなのにあっさりと引き渡されるヒロイン。初回からいらないと言われるヒロインって……。冷たい男ジスランの手に渡ったヒロイン、一体どうなる?