レイチェルちゃん、ピンチです!
レイチェルちゃんを奪われてしまった海斗。開放組の師団本部に出向き、ある情報を得るようですが・・・。読者様がひとり増えてちょっとうれしくなったです。ハイ!
我の持ち主が変わった。
今度のご主人様は水嶋ケイ。ランキング8位のメンバーだ。最初から我を狙っていたらしく、海斗をまんまとはめての勝利だ。だが、我はコイツのことを信用していない。華の奴、ケイの奴がイケメンで優しそうだからといって嬉しがっているが、何か裏がありそうだ。
ケイの奴のカードケース内は、特別な仕様だ。通常レギュラー6人に個室。後は大部屋なのであるが、奴は増築パックというのを購入していて、準レギュラーはそこに入れることができるのだ。大部屋からは召喚できないが、この準レギュラー部屋からは緊急召喚できるのだ。これにより、レギュラーカードが破壊されてもすぐ補充できるというメリットがあった。増築パックはとてもレアなアイテムで、たまに運営から出るくじ引きで当たってゲットするか、エネミーがごく稀に落とすのを狙うしかなかった。ショップに出ることもあるが、値段は1000万円は超える。
「わあ!素敵なお部屋。まるでお菓子の部屋みたい」
「華、のんきなこと言ってると痛い目にあうぞ」
「だって、レイチェル、ベッドはクッキーでできているし、壁はチョコレートよ。机には美味しそうなお菓子が山と積んであるし……」
「それ全部食うと取り返しがつかないことになるぞ」
「何?体重のこと。海斗様に散々こき使われたので、やせたと思うから少々いいわ」
正直、華の認識は甘かった。部屋に山と積まれたお菓子についての認識も甘かったが、ケイへの認識も甘かった。体重が3kgほど増えたところで召喚された時にその認識を改めることになる。
海斗はサンシャインデュエリスト師団の本部であるフォレストヒルズにいる。ハツネに誘われて訪ねたのであるが、あくまでも「小泉ルナ」に関する情報を得るためである。それと今は、奪われたカード「女司祭レイチェル」を取り返すことで頭がいっぱいであった。
デュエリスト師団の師団長はランキング1位のサーバインという男である。頭のよいことに加えて男気もあり、たちまち集団をまとめてこの集団を作った。
ガタイの大きな男である。身長は2m近くあり、体重も100kgはあるという筋肉質の男だ。筋肉もモリモリである。自分で戦う必要ないのにこのスペックは実に無駄なのだが、この姿がメンバーを安心させる理由の一つにはなっていた。
師団本部はホテルの一角にある。幹部が居並ぶところへ、海斗とアルト、ミラは通される。
「海斗くん、よく来てくれた」
「サーバインさん……ご無沙汰してます」
サーバインは大きな手を差し出した。海斗はやむを得ず手を差し出す。
「ふむ。君をここに呼んだのは別に再度、君を入団させようというわけではない」
「承知してます」
「小泉ルナという女のことで興味深いことが分かった」
「興味深いこと?」
「ミトラ技術士官、説明したまえ」
「はい」
そう言ってサーバインの後ろに控えていたメガネをかけた痩せた男がレポートを取り出して報告をする。
「この女の発信するメール元が判明しました」
「……」
「いくつかのサーバーを経由してかなりカモフラージュしていましたが、発信元はT市の情報室。そして彼女はGHC広報担当官」
「な、なんだと!」
「つまり、彼女は運営側の人間ということです」
「それともう一つ。君が昨日対戦して敗北させられた水嶋ケイ。奴は運営と通じているようです。役割はサルベージ」
「サルベージ?」
「メンバーから強力なカードを回収して破棄する役割だ」
「破棄だと!」
海斗が短く叫んだ。強力なカードを破棄というところが引っかかる。強力なカードなら、メルセデスやゲオルグの方が強力である。なぜ、レイチェルを指名したのか気になる。
(それよりもレイチェルが破棄されたら……)
「その件に関して、ここからが本題だ」
そうサーバインは話を切り替えた。最近のGHCでの動向にである。
「最近、不当にエネミーが強力になり我々の仲間が多く退場させられている。我々はこのゲームは破綻していると判断していたのだ」
「……」
「本日より市庁舎に攻撃をかけ、あそこのラストボスを倒す。参加メンバーの総力戦だ」
「勝てば、我々メンバーは解放されるのよ。海斗も参加するよね」
「作戦はいつだ?」
「明日の午前九時開始」
「分かった……」
海斗は踵を返した。
「どこへ行くのだ?」
サーバインがそう尋ねた。海斗の目に決意の光を感じたからだ。
「市庁舎に行く。あの野郎からレイチェルを取り返す」
「や、止めてください!」
私は焦りました。なぜって?ケイ様が私を召喚し、カードごとデータシュレッダーに入れようとしているのです。データシュレッダーとは、市庁舎にある機械でカードデータを永久に破棄するものなのです。
「ごめんなさい、ごめんなさい。太ってしまったなら謝りますから……」
「ごめんね~君のせいじゃないけど、君を破棄しないといけないって、運営から言われているからね」
「そ、そんなあ~」
「なんだか、運営側のミスで流通している四枚のカードのうちの一つらしいいよ。君って。そんなに強い能力はなさそうなのに不思議だね~」
「そ、それならケイ様が私をお使いになっては?」
「ふふふ……それも考えたんだけどね~それって運営側を裏切るってことだし、君を鍛えるのも面倒だし……」
「そ、そこをなんとか!?」
「う~ん。どうしようかな?」
(ケイ様が迷っている。光が……光が見えてきた!)
ケイ様は私を呼び出す。例のごとく、15センチサイズのフィギュア状態の私。その私の足首(片方)を掴んだのです。
「あれ~っ」
「うん。君は賭けに負けたね。パンツが僕の好みなら助けたのに……」
「パ、パンツですって!」
「白の綿パンじゃね~」
(じゃあ、シルクのセクシーパンツじゃないから私は破棄されるの?)
「せめて、キャラクターが付いてないと」
(ガーン!そっち系か!)
うさぎのパンツかクマさんパンツじゃなかったから、破棄されてしまうのはあまりに悲しくはないでしょうか?
ケイ様は私の片足を持ったまま、データシュレッダーの投入口へと私を運びます。
「あ~っ。助けて、助けて~海斗さま~」
なんで海斗様の名前が出てきたのか分かりません。叫んだところで、海斗様が来てくれる可能性があるわけないのに……。
「待て!そいつは俺のカードだ」
聞きなれた声。ケイ様の背後に立つ三人のシルエット。
「か、海斗さま~」
もう鼻水と涙でグチョグチョです。(ごめんなさい。汚くて)
「ほほう。取り返しに来たか?でも、ちょうどよかった。実は君のカード、メルセデスとゲオルグは僕も欲しかったんだよね。運営がなんでレイチェルちゃんを奪えという指令を出したかわからないけれど」
「勝負を受けろ!水嶋」
「ああ。ランキング40番台が8位に勝てると思うなら受けてやるよ。但し、お前一人だな。ハンディをつける気にはならない」
「それはこちらも同じだ。お前が負けて言い訳にしてもらっても困るからな」
「ふん。どうあがいてもボクの光源氏デッキは破れないよ」
「ほざけ。そんなイレギュラーな作戦、いつまでも通じない」
「いいだろう。レイチェルちゃんは使わないが、アンティの対象にしようじゃないか」
二人の男のバトルが始まった。
レイチェルちゃんのピンチ!ここに現れるのが主人公です!お約束です。
急展開で進む「レアカードでごめんなさい」よろしくお願いします。




