火竜王ゲオルグ(一)
温泉で滑って転んでアバラ骨二本折れました(笑)
痛みをこらえて書いてます。
エタらないよう踏ん張ります……一応、プロ作家予定なんで……
(ひきつり笑)
「ふう……ふう……。キリがないですよ~」
わたしは前衛でブリュンヒルデの杖を振りかざし、海斗様の命令通りにエネミーに止めを刺したところで手を膝について呼吸を整えました。隣ではエネミー3体(怒り狂う火蜥蜴)を撃破した死神姫メルセデスさん(海堂雨音)がこれまた死神の鎌にかろうじて寄りかかって立っているし、剣道娘アスカさんも座って、竹刀を地面に突き刺さしてかろうじて倒れるのを我慢しているみたい。
これまでわたし(見習い司祭レイチェル=鈴木華)は後衛でしたが、前衛がこんなにハードなんて知りませんでした。これはキツイ。もちろん、後衛も楽ではないけれど、こちらの場合は魔法の使い過ぎで精神的ダメージが大きいです。前衛は体力的ダメージが大きいのが違いかな?
それにしても海斗様はいつもと違います。いつもはこんなに無理な行動をしません。それなのに今回は引き受けたクエストに並々ならぬ思いがあるようです。
「小泉ルナという名前の女に海斗の奴、因縁があるらしいぞよ……」
そう小夜さんが教えてくれました。
「我も詳しくは知らないが、海斗がこのゲームに参加したのはその女のせいらしい。しかも、騙されてだそうだ。あの冷酷な男を騙すとはどんな腹黒い女ぞよ」
(海斗様をだました女?)
わたしはあの女性に優しくない海斗様を騙して、このデス・ゲームに参加させたという人に興味がわきました。一体どういう手を使ったのでしょうか?それが分かれば、わたしも真似してこのカードキャラというまるで奴隷のような身分から脱出出来るかもしれません。
(わ、わたしったら、なんと腹黒いことを考えているのでしょう?)
腹黒いと言えば、メルセデスさん(海堂雨音)だって、戦闘中、幾度も寝返ろうという気配を見せていましたが、海斗様の制御と服従の首輪のせいで果たせず、エネミー狩りの主力となって戦わされていました。
「これじゃあ、命がいくつあっても足りませんわ!」あの男、レディを何だと思っているのかしら……」
死神装束に身を包んでいらっしゃるメルセデスさんがそう言いましたが、レディと言われてもあなたのその姿じゃ説得力ありません。(超怖い~)
でも、メルセデスさんのおっしゃっていることは正しいです。エネミーに破壊されれば、わたしたちカードは命を失うのです。普通のカードキャラならデータですから、「死」という概念はありません。でも、わたしたちリアルレア(レイチェル、メルセデス、小夜?)は生きている人間の魂が封印されたものらしいのです。カードが破壊されたらそのまま昇天してしまうのかもしれません。
(小夜さんは元浮遊霊ということですから、また幽霊に戻るのかしら?)
そうこうするうちに、海斗様とあの兄妹のパーティは地下10階の避難エリア前までたどり着きました。ここまでは、いつもよりハードなエネミーが数多くいたかな?という程度でしたが、この避難エリア前に陣取るエネミーを見て、なぜ、このクエストが高額でしかも、メンバーが脱出できなくなるという事態になったかが分かりました。
それは赤きウロコに覆われた巨大な生物です。
ドラゴン……正確には「業火の火竜王ゲオルグ」
大ボス級のエネミーです。
このレベルを倒すには通常、師団と呼ばれるメンバーで構成される軍であたります。数人のパーティでどうこうできるエネミーではありません。コイツが避難エリアに居座っているためにメンバーのパーティが脱出できないのです。
さすがの海斗様もこの巨龍に向かっていくことはないようです。発見されないようにそっと様子を伺っています。
(頼みますよ……海斗様。あんな恐ろしい奴と戦わせないでください)
わたしは両手を合わせて、海斗様を拝みました。
「海斗さん、火竜王ゲオルグって半年前に師団連合軍で討伐しましたよね」
「ああ。第7エリアのボスだった。三個師団、総勢60名の選りすぐりのメンバーで倒したはずだ」
「海斗さん、その戦いに参加していたのですか?」
「ああ、その頃は師団に属していたからな」
アルトは海斗がかつて師団に属し、開放組であったことを知って驚いた。メンバーの中にはエネミーを倒し、金を稼いで脱出を図る「脱出組」とゲームをクリアすることで参加者全員で脱出する「開放組」の二種類がいる。開放組の思想には共感できるものの、クリアには膨大な時間がかかるということで、単独でき時間がかからない脱出組を選択するメンバーも多い。
「だが、その時倒した時よりもあの火竜王は弱い。三分の一程度だ」
海斗は遠くから観察してそう言った。しかし、三分の一程度とはいっても3人でどうこうできるエネミーではない。
「どうしますか?これは開放組の領分だと思いますが?」
アルトは海斗が無謀な戦闘に挑むのではないかと少々、心配気味に言った。妹のミラも心配そうに見ている。クエスト未達成でもここへ来るまでに十分レベル上げができたし、カードやアイテム、装備も手にいれることができたので収穫としては十分だ。それにこの火竜王ゲオルグがいるという情報を持ち帰れば十分な成果だ。
「アルト、ミラ。火竜王の右隅にトライゾンエリアにかかっていないルートがある」
海斗がそう指摘した。確かに避難エリアに居座る火竜王の右隅にトライゾンエリアにかからないところがある。しかし、そこには別のエネミーがいる。
「忘却のさまよえる骸骨の騎士」である。強いエネミーだが1体でいるのはチャンスでもあった。
「あれを瞬殺して、避難エリアに飛び込めば行ける……」
「マジっすか!?」
アルトはその提案に驚いた。確かに瞬殺して火竜王に気づかれなければ可能である。だが、気づかれて移動されトライゾンエリアに取り込まれたら、それこそ「死」は確実であろう。
そんな賭けはしたくないが、海斗の目は決意の火が宿てった。
「分かりました。後衛は攻撃増強魔法をかけ、三人の前衛の連続攻撃で仕留めましょう」
3人の陣容はこうである。
ミラ 前衛 カエル娘 猫娘珠子 レイピア使いエヴァ
後衛 レプラコーンガール エルフの魔法使い ピクシー
アルト 前衛 サムライガール「沖田総司」カンフー娘「リーライライ」くノ一「雫」
後衛 マジシャン キャプテンナース 占いガール
海斗 前衛 剣道娘「アスカ」死神姫「メルセデス」女司祭「レイチェル」
後衛 ヴァイオリニスト「進藤英美里」幽霊「小夜」巫女「西宮霧江」
「行くぞ!」
海斗が叫ぶと三人は一斉に駆け出し、右隅の唯一の脱出ルートを突破するために動き出した。すぐ「忘却のさまよえる骸骨の騎士」のトライゾンエリアが形成される。
「レプラコーンガールは前衛のスピードを上げる魔法発動、エルフの魔法使いは攻撃力30%アップの(エンチャットウエポン)、ピクシーは命中力を高める(ターゲット)を発動」
「マジシャンはダメージ倍加の(ダブルダメージ)」
「英美里はアストラルバディ、小夜は敵の防御力を下げる(フィア)を発動」
後衛のサポート魔法が炸裂する中、前衛によるトリプルアタックが命中する。これでイッキに骸骨の騎士の体力を三分の二奪い取る。さらにトリプルアタックに参加していなかったメルセデスの死神の鎌が一閃する。体力ゲージは限りなく0になる。だが、わずか数ポイント残った。
「くそ!レイチェル、お前だ、トドメをさせ!」
海斗は弱いので攻撃に参加させなかった司祭レイチェルに命じる。運良くというのか、運悪くというのか、コイツを攻撃に参加せなかったことで首の皮一枚つながった。先制攻撃で倒さなければ、火竜王に気づかれて次のターンに援軍でトライゾンエリアに取り込まれる可能性がある。
レイチェルがブリュンヒルデの杖を振りかざし、思い切り殴りつけた。
スカッ……
外した!
外しやがった!
「このバカ!なんでここで外すんだ!外す確率2%くらいだろう!」
海斗は怒鳴りつける。
次に骸骨の騎士の攻撃……いや、敵のターン前にこの骸骨の騎士には「反撃」の能力があったようだ。確率的には滅多に発動しない能力だが、攻撃してきたレイチェルに反撃する。
(どこまでツイてないんだ!この女は!)
海斗は心の中で絶叫した。アルトやミラも呆然と成り行きを見つめる。
骸骨の騎士の攻撃!
スカッ……
外した。ありえん…この確率も5%を切る。
本当はレイチェルが海斗に買ってもらった「戦乙女のケープ」の回避能力のおかげであった。何はともあれ、レイチェルはロストをまぬがれた。「忘却のさまよえる骸骨の騎士」の単独攻撃は1200である。1000しか許容できないレイチェルはあっという間に昇天であった。
だが、この攻撃にレイチェルの「反撃」の能力が発動した。今度は外さない。ブリュンヒルデの杖の三倍返しを食らった「忘却のさまよえる骸骨の騎士」は消え去った。
三人はすぐさま避難エリアに飛び込んだ。
スカっ……ってやめてほしいですね。
渾身の一撃がスカって……。




