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レアカードでごめんなさい!  作者: 九重七六八
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空の洞窟(二)

地下5階・・・現れたのは極レアのエネミー「悩めるアリストテレス」

しかし、海斗の取った選択は・・・。

「逃げるぞ!」


冷静な海斗がそうアルトとミラに告げた。後方にはメンバーとビジターのグループが3つほどいたが、それを無視して後方に下がる。3つのグループは何事かと思ったが、近づくエネミーに感嘆の声を上げた。


「こんなところで超レアじゃん!」

「倒したら報酬はでかいぞ!」


ビジターもメンバーも色めきたった。

現れたエネミーは「悩める哲学者アリストテレス」古びたローブに大きな本を抱えている大男である。顔は土色で深いシワが刻み込まれて憂いのある顔をしている。頭の上にHRのマークがクルクル回っている。倒せば莫大なポイントを稼げると噂されているエネミーだ。メンバーのパーティは五人グループと六人グループ。平均ランキングは700台と800台である。これにビジターグループ三名が加わる。


一見美味しい相手と思えるエネミーであったが、海斗は知っていた。今の自分たちでは非常に危険な相手だと言うことを。


「お前たち止めておけ!」


海斗はそう戦いを挑もうとするメンバーグループに一言だけ告げた。だが、超レアで高額報酬が期待できるエネミーを前にして下位ランキングメンバーが諦めるはずがなかった。


7、800台だといつワースト10に落ちて月末に粛清されてしまう恐怖があったからだ。多少の危険は覚悟でも莫大な報酬を得て、とりあえずの安心を買いたいと考えるのが普通だろう。だが、ランキングアンダー100の海斗の忠告を無視した2つのメンバーパーティはあまりにも高い代償を払うことになる。


「海斗さん、譲っちゃっていいんですか?」


高ランカーながら、このエネミーと戦ったことのないアルトは後方から、トライゾンエリアが発生し、戦闘になった3つのグループの様子を見ながらそう言った。


「死にたくないなら、参加はしないことだ。以前の俺たちの戦力でもアイツとは戦うべきじゃない」

「そうなの?見た感じ、美味しい相手としか見えないけれど……」


ミラがそう戦いの様子を見ながらつぶやいた。ミラが見る限り、3パーティの攻撃は順調にアリストテレスの体力を削っており、あっという間に倒しそうな勢いであったからだ。


「あのエネミーの本当の正体は手にしたグリモアだ」


海斗が指差す。アリストテレスがゆっくり本を開いた。トライゾンエリアの地面から高レベルエネミーである「魔界の使者ヘル・デーモン」が五体召喚されたではないか。


「あ、あいつらヤバイんじゃない?」


アルトは思わず声を荒げた。現れたヘル・デーモンにターゲットをチェンジし、2体を倒したパーティであったが、再びグリモアが開くと今度はヘル・デーモン2体とさらに高位な「地獄の官吏クライデビル」が3体も召喚されたのだ。


「ぎゃああああっ……」


ランキング899位のメンバーの男が断末魔の叫びを上げて心臓を抑えてその場に倒れた。ライフクリスタルが3つ破壊されたのだ。それは体内のナノカプセルが破壊され、一瞬で心臓の動きを止める毒薬の注入を意味するのだ。


「う、うわあああっ……」


一人が死んだのを見て他のメンバーが動揺する。目の前の戦闘を放棄して逃げ出すものもいる。だが、一度形成されたトライゾンエリアから逃げ出すのは簡単ではない。敵に背を向けた男もクライデビルの攻撃をまともに受けてクリスタルが破壊される。


「ビジターの人、頼む、集中攻撃でトライゾーンを破壊してくれ。俺たちが攻撃を支えている間に!君たちは死なないが、俺たちはクリスタルを破壊されると死んでしまうのだ。頼む!」


リーダーらしき人物がそう叫ぶ。トライゾンエリアから脱出するにはこれの持つ耐久力を0にしなければいけないのだ。内側からならビジターの攻撃でも破れると思われた。だが、ビジターの三人は怖くて足がすくみ、攻撃をすることができない。さらにメンバーの2人が倒れる。このままでは全滅だ。


「海斗さん、助けに行きましょう!」


アルトが駆け寄ろうとしたが、海斗がするどく制止した。


「やめろ!トライゾンエリアに入ったら死ぬぞ!」

「じゃあ、海斗さんは彼らを見捨てると?」


ミラがそう詰め寄る。


「俺は奴らに止めろと言った。それを無視した奴らの自己責任だ」

「そんな冷たいこと……」

「哲学者アリストテレスが召喚する高レベル悪魔エネミーは無限だ。倒しても次々に召喚してくる。初期の頃にあいつに命を奪われたメンバーは百人以上と言われる」


「百人以上?そんな話は聞いたことがないよ」

「運営側が都合の悪い情報を遮断したからだ。アンダー100の初期メンバーなら知っていることだ。アイツとは戦わないことだと」


「じゃあ、あの人たちを見捨てるの?」


11人のメンバーのうち、既に6人が倒された。あとの5人もクリスタルが破壊されていた。3つ破壊されればオシマイである。


「後方から魔法攻撃で離れた位置から、トライゾンエリアを破壊する。外からの攻撃だと耐久力5万を削るのは時間がかかる。近づいて直接打撃をすると取り込まれるぞ」


 海斗の後方カードは支援系なのでトライゾンエリアを破壊できない。ミラのエルフの魔法使いとピクシーガール、アルトのマジシャンガールの遠隔攻撃を行う。1回の攻撃で2000ダメージが精一杯である。海斗も支援系のカード、進藤英美里と西宮霧江を引っ込めて、攻撃系のカードにチェンジする。それでも一回につき3000ダメージに過ぎない。その間にも中では次々とメンバーが息絶えていく。


「小夜、可能性はかなり低いが凍てつく指名発動!」


海斗はイチかバチか、小夜に「凍てつく指名」を命じた。エネミーや敵カードに対しては効果的な攻撃だが、トライゾンエリアに対する発動の成功率は0.1%を切っていた。だが、虐殺されそうなメンバーにもまだ運があったのだろう。この千分の1の確率を見事に引いたのである。


 小夜の「凍てつく指名」によって耐久力1になったトライゾンエリアは、ミラのピクシーガールの攻撃で0になり、エリアの持つ強制戦闘義務がなくなった。


「逃げるぞ!」


海斗たちはすぐさまダッシュして逃げる。再び、エネミーに接触すればトライゾンエリアが形成されてしまう。すぐさま、接触しないようにするしかない。絶望的な戦いをしていたメンバーもこの機会を逃さなかった。すぐさま、退却する。幸い、へたりこんでいたビジターが再びエネミーと接触し、戦闘に突入してくれたので助かった。ビジターの三人は瞬時にクリスタルとカードが破壊され、トライゾンエリアからはじき出されたが、おかげで人の命を救ったことになる。


「なぜ、助けに来なかったんだ!」


メンバーのリーダーの男が海斗の胸ぐらをつかんだ。ここは5階の安全エリアである。この男のパーティは6人中4人が死亡した。


「俺たちがトライゾンエリアに入っても死体が増えただけだ」


ポツリと海斗は言った。


「やめろよ。この人たちがいなければ俺たちは全滅だった……」


そうもう一方のパーティのリーダーはそう諭した。彼のパーティも5人中2人が死亡したのだ。海斗たちは危険を冒してトライゾンエリアを破壊してくれたのだ。感謝しても恨むのはお門違いであった。そんなことは分かっていたのだが、この怒りをぶつけないと悲しみで心が潰れそうであった。


「こんな浅い階であんな10階でも現れないエネミーが出るなんて、運営のミスだ!」


海斗を開放するとリーダーの男はそう怒鳴り散らした。確かに最近、強いエネミーが出没するようになった。


(確かに運営側の意図的なものを感じる)


アルトはそう感じたが、このRCMMOは運営側が絶対的な生殺与奪権を持っている。不満があるからといって暴動を起こせば、即始末されてしまうだけだ。それも合法なのだ。


最近、街中でも強力なエネミーが出没するようになった。ゲームの攻略を目指す開放組のように常に集団で行動していればよいが、海斗たちのような金を稼いで自分ひとりだけ解放されることを目的にする脱出組にとっては極めて不利な状況だ。


 最近、メンバーが賢くなり、安全策を取るようになったことが運営側としては極めて由々しき問題であると考えていた。毎月強制入れ替えがあるワースト10名のみの入れ替えでビジターから昇格する人間が少なく、それがゲームへの活気を失わせていた。このGHCでは、各プレーヤーの生き様を映像として流すのも金になるのだ。常に危機感をもって活動してもらわないと収入に響くのだ。強いエネミーが出没するのもその辺りが影響しているのかもしれない。


すみません。明日明後日と、出張でいません。ストックがなくなって更新が止まってしまいそう・・・でも、がんばる!

読んでくれる人がいる限り・・。

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