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レアカードでごめんなさい!  作者: 九重七六八
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空の洞窟(一)

カードの経験値を積ませるために「空の洞窟」へ向かう三人。



海斗は待ち合わせ場所であるラッスルホテルのカフェであの兄妹と合流した。兄妹はだいぶ前から待っていたようであった。


「海斗さん、今日はどこで狩りをします」


そう兄のアルトは海斗に聞いてきた。


「お前たちの戦力はどうなった?」


海斗はそう兄妹に聞く。この二人も昨日の戦いで主力カードをロストしていた。戦力的に大幅ダウンしているはずだ。戦力を見てから行く場所を決めるべきだろう。


兄のアルトは、前衛3枚が総入れ替わり。侍ガール「沖田総司」が一番強くてUN+だが、あとはノーマルのくノ一、足軽娘。戦力的には元の半分。でも、後衛カードはそのままであったから、まだ戦力的に戦える陣容だ。妹のミラは、前衛も後衛も壊滅的ダメージを受けていたので、前衛はホビットガール×2、カエル娘、後衛にエルフの魔法使いとピクシーという陣容で戦力的には元の半分以下というところだ。


 だが、海斗も含めてレベル100前後の高レベルメンバーである。それなりのフィールドで戦うことで、仕えるカードを手にれたり、経験値を上げることができるであろう。


「空の洞窟でどうだ?」


 海斗はそう提案した。空の洞窟とは、T市の中央部から少し離れた川沿いにある元体育館があった場所に設けられたダンジョンである。建物が5層で、地下が10層と大きなものである。上階の5層はビジター向けのエリアで上に行くに連れてエネミーは強くなるものの、最強でもメンバーレベル800台が苦戦する程度のエネミーしか出ない。それでもビジターにとってはスリル満点で人気のスポットであった。


 地下は逆に難関エリアで、3階程度まではビジターでも行けるが、それより下はメンバー限定かかなりの人数のパーティしか生きては帰れないエリアとなっている。死んでも復活できるビジターは怖いもの見たさに4階以下に踏み込むことはあるが、大抵ロストしてエントランスへ戻されてしまう。


 レベル100前後の高レベルランカーにとっては、地下5階付近はおいしく経験値とポイントを稼げる場所ではあった。だが、8階以下は生死をかける戦いになるので、海斗は最近は踏み込んでいなかった。攻略組が10階まで到達してこのダンジョンは開放エリアに指定はされているが、まだ探索は十分でなく、謎は残されているのではないかという噂もあった。しかし、10階に出てくるエネミーは半端ではないために、よほどの理由がなければ高レベルランカーでも足を踏み入れることはなかった。


「ここの5階付近で経験値稼ぎですか。まあ、安全面から言っても賛成ですね。とりあえず、前衛キャラを戦えるようにしないと他メンバーとの戦いで負けますし、日々の生活費も稼げますからね」


 そうアルトが言った。ミラも頷く。二人共海斗と同じ脱出組である。一人辺り1億ポイントを貯めればこのデス・ゲームから解放される。地味に稼いでもいつかは出られるが、それには長い年月がかかる。カードを鍛えてレベルを上げれば、それだけ強いエネミーと戦うことができ、ポイントも貯まるのだ。


 ただ、この二人がレベル137、145に甘んじているのは100レベル以下になると生活コストが上がるということを避けてのことだと思われた。100を切ると宿泊施設は駅前の高級ホテルラッスルか、市のリゾート地帯にあるフォレストビラに基本限定される。


 1泊2万ポイントが飛ぶ。130以上だとこれより2ランクグレードが下がるので、生活コストは一日5000ポイント程度だろう。しかも、兄妹なので一緒にいれば半分で済む。

 海斗は二人の実際の実力を100ちょっと上だと見積もっていた。三人ともベストデッキでないためにダンジョンの5階以下は厳しいがそれ以上なら、命を失う恐れはないと判断したのだ。

 

 空のダンジョンの受付に並ぶ。これから戦いに行くビジターやらメンバーでごった返していた。ビジターの大半は上階へ、メンバーは地下へという流れだ。受付のNPCのお姉さんに入場料を払う。お姉さんは犬の耳をつけて、派手なエプロンドレスを着ているがれっきとした市役所の職員である。


「地下ダンジョンは1階から5階まで5000ポイント、5階以下は一万ポイントです」

「海斗さん、5階までですよね?」

「ああ。リスクは負いたくない」


 ポツリと海斗が言ったが、現在のカード戦力では5階までが安全圏。6~7階が限界エリアで8階以下は危険エリアだろうとアルトも思っていた。メンバーがエネミーと対する時はいつも命懸けである。レベル差が大きければ例え、思いがけないハプニングがあったとしても対処できるが力が拮抗している場合は、ちょっとしたことで負ける怖れがある。「負け」=「死」であるメンバーにとって、楽に戦うことが最も大事であった。


 自分たちと同じく、地下に向かうビジターのグループがいくつかある。彼らは負けても死ぬことはない。もちろん、その分、報酬は低いのだが「死なない」ことが行動を大胆にさせている。レベルに対して地下に潜るのは無理というレベルのグループが散見できる。


 彼らはT市にとっては大金を落としてくれるお客様なのだ。

 メンバーとしてはこのビジターの死なないという特性を利用して、儲けさせてもらうこともしばしばである。彼らが戦闘を始めるのを待って、ある程度エネミーにダメージを与えてくれたところで加勢して美味しいところを持っていく方法や危険な場所はビジターを先頭にして進み、強敵と出会ったらビジターを盾にして逃げるという方法まであった。メンバーは命がかかっているから、それくらいはやる。

 

で、海斗たちもそんなビジターの後をついていく。5階までに出没するエネミーは弱い。雑魚はビジターに任せておいて、こちらは楽に経験値やアイテム、カードを稼げるエネミーを狙った。雑魚とは「徘徊するゴブリン」とか、「さまよえる骸骨戦士」など。美味しい相手は「ダンジョンの黒騎士」とか、「怒り狂う火蜥蜴」などである。こいつらと戦うことで経験値を稼ぎ、カードの能力を上げると共に、ポイントとドロップアイテムを稼ぐ。


「ミラ、援護を頼む」

「はい、兄様」


 ビジターが遭遇し、3分の1程ダメージを与えた「怒り狂う火蜥蜴」との戦闘だ。ミラの後衛カード「エルフの魔法使い」×2が同時にコールドの攻撃魔法を使用する。ひるんだところで、侍ガール「沖田総司」と足軽娘、くノ一が襲いかかる。

 

 海斗のヴァイオリン奏者進藤英美里の奏でるアストラルバディの魔法で、パーティ全体の防御力が上がっている。


「今だ、レイチェル、メルセデス、アスカ、3連擊だ!」


 海斗の前衛である3カードの3連続攻撃が決まる。断末魔の声を上げて倒れ消える火蜥蜴。


「おお!さすがはメンバーさん。強いなあ……」


 先ほど敗れて戦闘から除外されたビジターたちがトライゾンエリアの外から感嘆の声と拍手をする。


 報酬の3万ポイントと経験値が入る。ドロップアイテムは大したものがない。そもそも、5階程度ではせいぜいNカードで、よくてプラス補正が付いたものしか手に入らない。


(このパーティは前衛が弱い)


 アルトは焦っていた。5階程度ならなんとかなるがもっと地下に潜るとなると、海斗の前衛ならまだしも、自分のカードでは「侍ガール沖田総司」しか通用しないだろう。ミラの前衛は弱すぎて壁にもならない。地道に5階付近でレベルアップするにも、素材が弱い状態では経験値稼ぎも無駄になりかねない。ミラの先鋭のカエル娘はビジュアル的には面白いのだが、N+++まで上げても攻撃力はさほど上がらず、防御力がせいぜい役に立つ程度で将来性がないのだ。それは自分のノーマル「くノ一」「足軽娘」も同様だ。


「海斗さん、そろそろ戻りますか?」


 アルトがそう言った時、海斗は前方から近づいてくるものを見つめていた。


(何だか、ヤバイ感じが……)


またしても強敵が現る?

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