労働基準法違反だわ!(一)
海斗にこき使われるレイチェルこと鈴木華。今日も回復ドリンクを飲まされて魔法を使われます。ううう……体重が!
「レイチェル!デスペルレインだ。急げ、このボケ、ウスノロ!」
「は、はい。海斗様」
私は二十数度目のデスペルレインという特殊技を使います。これは、魔法の一種でアンデット系のモンスターを集団で葬る技です。通常、レベルを3段階に上げた後方支援カードの中から、ごく稀に付与される技なのですが、私のようなレアカードは最初から覚えているらしいです。
と言っても、経験を積んで+にならないと使えないのですが、昨日、めでたくR+に昇格した私はすぐさま、海斗様にT市の中でアンデット系モンスターに出くわす危険が多い、古戦場エリアに同行させられました。
(で、私を使ってお金もうけは止めてほしいです。私に対して失礼です!)
デスペルレインは魔法発動と同時に、空から聖なる光りの雨が降ってくる攻撃です。威力は弱いので、ボスキャラには効果が薄いのですが、目の前に現れたスケルトンやゾンビ系カード、怨霊系のカードでレベルが低いカードは大量にやっつけられるのです。これを海斗様はうまく利用して、わたしのデスペルレインで一網打尽にしています。(ズル!)
10体を一撃で倒して1万ポイントです。同じことを繰り返してもう22万ポイントは稼いだと思われました。
(てことは、私は22回も発動したの!こんなにこき使うなんてレディに失礼です!)
魔法発動すると私の攻撃コストが減少しますが、そこは海斗様、抜かりがないです。コストが減ってデスペルレインが撃てないと、海斗は500ポイントで買ったレッドラベルの薬を私に飲ませるのです。100mlの刺激があるドリンク缶です。もう10本以上飲まされています。
(ウゲッ…ゲップが出そう。それにこれビミョーの甘いです。カロリーは大丈夫でしょうか?いや、絶対太ると思います。海斗様、私が太ったら責任取ってくれるのでしょうね。取らなかったら失礼過ぎます!)
などと心の中で毒づくことしかできません。それに、前衛のお姉さま方は強いのですが、残念ながら、一人1体しか倒せないので、時間がかかるのです。私ならドリンク飲んで一撃かますだけ。それで差し引き9500ポイントが海斗様の端末に加算されるのです。
これはおいしい商売に違いないです。
海斗様は現時点で6800万ポイントと相当なリッチマンです。これまで、こうやって美味しく稼いでいたのかな?
でも、海斗様は、
「そろそろ潮時だな…」
などと言っています。(ああ、ついに私の体重のことを気にかけて…)
と思いましたが、違っていました。
初期の頃と違って、こういうループ的にポイントを稼げる状況は許されないらしいです。何回もやっていると超強いエネミーが現れるのです。この古戦場エリアはだいぶ昔にボスキャラが開放組によって倒されて以来、アンデット系の雑魚キャラがよく出る場所として有名です。そしてアンデット系は弱い割にポイントが稼げる。でも、強いキャラはとんでもない攻撃をしてくるリスクもあるのです。
しかも、今は夜の12時を過ぎようとしていました。ナイトモードが終わり、ナイトメアモードに突入する時間です。強いエネミーが出現する時間です。
(夕方からずっと働かされている私……わ、わたしに失礼です!)
ウイーンウイーン…警報が鳴りました。
海斗様がエネミーとエンカウントしたようです。私は他のレギュラーメンバーと共に召喚されます。
「ちっ、死霊の騎士レベル6か…」
海斗様は戦闘を続行するか、逃げるか迷っているようです。迷っているところを見ると、勝てない相手ではないようです。ですが、これまでのような楽勝な相手でもないようです。
「助っ人を申請します!」
そう言って、プレーヤーが二人参加申請してきました。一人は女の子です。二人共、高校生くらいでカップル?で行動しているようです。
海斗様は申請を受諾しました。この人、基本はソロプレーヤーですが、状況に応じて助っ人を使うようで、小夜さんに言わせれば金儲けのためには手段を選ばないということです。
申請が受託されて、トライゾンエリアに二人のプレーヤーが加わりました。男の子の方はバンダナをキザったらしく頭に巻いた金髪。ちょっとチャラい感じの細身のイケメン。女の子の方は、これまた金髪の腰まである長い髪。青いリボン二つで結んであるツインテール。2人ともジーンズにお揃いのTシャツという軽装。男の子の方はM137、女の子の方はM145の表示が出ています。2人とも高位のメンバーです。
「レディセット!」
男の子の方がレギュラーカードを展開しました。守備と攻撃のバランスがよい魚鱗の陣形。並べたカードは、前衛が侍ガール、くノ一、騎士ガール(いずれもUN)に後方支援は、占いガール(N)、マジシャン(N)、キャプテンナース(UN)という組み合わせ。ワーキングガールデッキというやつです。
女の子の方は、これまた珍しいデッキ。前衛はエルフ剣士×3の(N)に後方はエルフの魔法使い(N)、ピクシーガール(UN)、レプラコーンガール(UN)という組み合わせですこれはファンタジーデッキというらしいです。
ランキング100位台だけあって、いずれも+3とカードは鍛えてあります。まずは、男の子のワーキングデッキの前衛が攻撃します。トリプルアタック。前衛の3カードが力を合わせて繰り出す攻撃です。この攻撃の利点は、決まれば1擊で大ダメージを与えられるというところ。個々の攻撃でも3連続攻撃ができれば同じなのですが、敵に回避される可能性も3回あるし、攻撃途中に敵の攻撃に割り込まれて、未攻撃のカードがダメージ受ける可能性もあります。速攻ということでは、このトリプルアタックは悪くない戦術です。
ただ、敵の出方を見て攻撃できないというデメリットもあります。
グギャアアアアア・・・
トリプルアタックは成功したようです。
死霊の騎士の頭右上に35000マイナスの赤字が出ます。
(でも、このエネミーの総耐久力は???のままです)
女の子の方も美形エルフ(女)剣士のトリプルアタックで、同じ位のダメージを与えることに成功しました。
「西宮!祝詞を発動!前衛3人に聖属性の力を付与」
「はい、海斗様」
私と同じく後衛組の西宮霧江さんが、艶やかな巫女装束の姿で玉串を3度振ります。
(この人が仕事するの初めて見ました!)
海斗様の前衛3人のカードが金色のオーラに包まれました。死霊の騎士も反撃してきますが、ダメージは何とかカードの耐久力以内に抑えているようです。ビジターさんのように一撃でゲームから除外というようにはならないようです。
「準備完了、トリプルアタック!」
バンカーの南さんの飛ばした500円玉とフルーレの杏子さんのレイピアの切っ先が死霊の騎士を十字に刻み、死霊の騎士の体が仰け反ります。同時にポリスレディの加奈子さんの銀の弾が死霊の騎士の体の中心に命中します。
グアアアアアアアッツ!
地の底より響き渡ってくる恐ろしい断末魔の声がします。助っ人の男の子のカード占いレディの能力が発揮されて、ようやく死霊の騎士の耐久力が表示されます。
(MAX72000 現在28560)
の数字が表示され、その下に赤く与えたダメージが表示されます。クルクルと差し引きされて、28560の数字が減っていきます。
「ま、まずい!」
海斗様がそう叫びました。
海斗様のトリプルアタックで与えたダメージは28540。
死霊の騎士の耐久力が20残ったのです。
仰け反ったエネミーは、ゆっくり体を起こすと恐ろしいドクロの顔で三人のメンバーと18枚のカードを睨みつけ、(にたり)と笑いました。
にたりと笑った死神……。恐ろしいことが起こります!




