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レアカードでごめんなさい!  作者: 九重七六八
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カードショップ レディジョーカー(二)

チリリン…

と瑛太のカードショップ「レディジョーカー」の扉を開ける音がした。

光が差して入ってきた人物の姿が影で見にくいが、小柄な人物であった。

「海斗、やっぱりここにいたのね?」

それは甲高い女性の声であった。


「おう、ハツネか?久しぶりだな」

瑛太が懐かしそうにそう入ってきた人物に話しかける。赤毛のショートボブの活発そうな女性である。年齢は若い。海斗と同じか少し下だ。へそが少し見える短いTシャツにデニムのショートパンツ、革のブーツを履いてカーボーイハットを首にかけている。腰には銃ケースを思わせるカードケースを装着していて、女ガンマンの様相だ。

 

 ハツネはランキング46位の開放組であった。頭にM46の文字が見える。そして、チームにも属していた。左腕につけた太陽の印が、サンシャインデュエリスト師団メンバーであることを示していた。このT市に存在するメンバーの三大組織の1つである。


「何か用か?ハツネ?」

 ぶっきらぼうに海斗は応えた。コイツが自分を訪ねてくることは、ロクでもない要件に決まっている。


「あら、その言い方、何だか疫病神が来たみたいな言い方ね?」


 ちょっと、ハツネが機嫌を損ねたような態度を取った。第三者から見れば、それはハツネの海斗に対する好意のように取れたかもしれない。


「お前が前線から戻ってきて、俺を尋ねるなんてロクな要件じゃない。師団長に何か言われてきたな?」

「・・・・・ご明察さすがだわ」

「ちっ。瑛太のおっちゃん。これでふけるわ」


 海斗はハツネを無視して、店を出ようとした。慌てて、ハツネが海斗の腕を掴む。


「ま、待ってよ!」

「離せ。俺はエリア開放には興味がない」

「話を聞いてよ!」

「どうせ、俺に前線に来いとでも言うのだろう?大山師団長もお前を使いに出すとは人選を誤ったな」

「人選を誤ったって何よ!」

「大事な要件に女をよこすことだ」

「相変わらず、女嫌いの差別主義者ね」

「女などと手を組んで、このゲームを生き残れるか」

「まあ、相変わらず馬鹿なこと言ってるわね。そう言っていて、あなた、毎日レディカードに命を助けられているじゃない。1週間ごとに飲まなければならないLDは、彼女たちで稼ぐんでしょ。言うなれば、あんたはヒモよ!」

「ヒモだと!」

「そうヒモ。辞書でひくと(女を働かせて金を稼がせる情夫)。あらまあ、あなたそのままね」


 海斗は馬鹿にされて頭に血が上ってくるのを感じたが、それでも3D女に暴力をふるうほど、下劣な男ではなかった。(カードの華には荒っぽいことをするが)ハツネが掴んだ腕を振り払うと、


「3D女子には興味はない。レディカードは女じゃない。道具だ。道具を使って自分の命を守る。別におかしくはないし、それを非難される言われもない」


そう言って、ドアを開けて出て行った。


「ちょ、ちょっと、待ってよ!とても重大なことを伝えに来たのよ!」


 ハツネは慌てて海斗の後を追っていくが、ちょうどT市に到着したビジターの大群に阻まれてその姿を見失ってしまった。


「もう!海斗ったら。相変わらず、女の子につれないのだから」


 ブツブツ言いながら、ハツネは瑛太の店に戻ってきた。瑛太はそんな彼女にお茶を出す。


「海斗は基本的に組織には入らんよ。あの戦いの後、前線から戻ってから、ポイント稼ぎに徹しているからな。あと1年もすれば目標の1億ポイントに達するんだ。危険な橋は渡るまい」


 そう瑛太はハツネにアドバイスした。多分、前線の人手不足解消に手練の海斗をスカウトしに来たのだろうと思ったのだ。だが、ハツネの話はそんなものではなかった。


「何?開放エリアが攻撃されただと?」

「そう」


 衝撃のニュースであった。そんな情報はどこからも流れてきていない。瑛太は一応、運営側の人間であるので、こういう情報は手に入りやすいのだが、ハツネに聞くまで初耳であった。


「知らなくて当然よ。昨日、五つ星地区にエネミーの大群が現れて、メンバーが掃討されたわ。主要な師団がいなかったこともあるけど、ランキング100台のメンバーも何人かいたけど、エネミーの数が多すぎて撤退せざるを得なかったみたい。幸い、メンバーで死亡した者はいなかったけれど、下位ランカーの中には今回の被害でポイントをかなり浪費して、月末にLBが買えない者もでるかもしれないという噂よ」


「開放エリアにエネミーの大群なんて、ゲームが開始されてから、そんなことは一度も起きなかったぞ。このゲームは基本、区切られたエリアにいるボスキャラを探し出して、それを退治するのが本ルートだ。敵が奪い返しに来るなんて、RPGがSLGに変わったくらい違和感があるぞ」


 瑛太のいうことは最もである。RPGでボスキャラを倒して街を開放したのに、勇者が別のエリアに行っているあいだにモンスターが襲ってきて、また、街が占領されてしまうのでは、クエスト攻略物から、自分の領地を守りながら敵陣を占領するSLGに変わったと言っていい。


「再占領されたエリアには、またボスキャラが設置されたようで、今はサンシャインの方で再度の開放戦を計画しているわ」

「戦争だな。まるで」

「そう。戦争よ。だけど、メンバーが圧倒的に足りないわ。全部で1000名しかいないのだから。しかも、月末にワースト10人は粛清されて、新メンバーと入れ替わる。LDが買えなかったり、エネミーに殺されるメンバーも月に何人かいるわ。海斗たちのように個人でポイントを貯めることに徹しているプレーヤーもいるから、500名かそこらで、このT市の開放エリアを守るなんてできっこない」

「で、戦えるボッチメンバーを組織に入れるということか…」


 瑛太はなんとなく、この新展開の理由がわかってきた。ゲームの面白さを高めるテコ入れだ。それとも、海斗たちのような地道なプレーを嫌った運営本部の嫌がらせに違いない。

 最近、メンバーも賢くなり、初期の頃のようにエネミーとの戦いに敗れて命を失うことが少なくなった。これはメンバーが慎重に戦ったり、集団で弱点を補いながら戦う方法を極めたことに起因する。

 10万円もするLDもゲームの初期の頃は、ゲームをやらなくて貯められず、死亡するプレーヤーもいたが、現在は効率の良いポイント稼ぎの方法が広く知られ、よほど運が悪くなければ、効率よく稼いで命を長らえることも可能となった。

現実、この安全な駅前エリアで、ビジターとの対戦や弱いエネミー限定で討伐を重ねて、命をつないでいるメンバーが大勢いる。

 それではダメなのだ。


このRCMMO(現実都市大規模多人数オンライン)の収益の柱は、都市で行われているゲーム戦の観戦である。自分の命をかけたリアルな筋書きのないドラマが大受けして、全世界5千万人のユーザーがいる。ここから入る観戦料と広告収入が大きかった。

 

 都市にいなくてもネットでゲームにも参加できるが、大半人間は無料で楽しむことが多かった。お金を課金してゲームをやり込むユーザーは、将来、この都市でリアルなゲーム体験をしたいという者しかいなかった。そこからの収益もそれなりであったが、巨大なシステムの運営と都市のインフラ整備、行政サービスをまかなうとなると十分ではない。


 観戦者はいつも刺激的なシーンを欲しがっている。一推しのプレーヤーが大ピンチに陥りつつも、ギリギリでそれを切り抜けるというシュチュエーションでは、観戦する人間がより多くなった。よって、安全策を取るプレーヤーが多くいることは問題であった。


(それでプレーヤーが開放した地域を再奪取することが始まったわけだ…)

 

 このゲームがクリアされてしまうと、LBCGの人気が落ちる。それはT市としては避けたい事態だ。クリアされないように開放エリアがエネミー側に再奪取されれば、ゲーム攻略が長引くというものだ。


(だが・・・)


 瑛太はふてくされながら、椅子に座ってお茶をすすっているハツネを見ながら、嫌な予感がしていた。


(果たして、これだけで済むのだろうか?)


 瑛太の心配は残念ながら当たってしまう。


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