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レアカードでごめんなさい!  作者: 九重七六八
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カードショップ レディジョーカー(一)

GHCゲームヘブンシティには公式カードショップもあります。ここでは、カードの能力鑑定や買取もやっております。

「おお、海斗、久しぶりだな。景気はどうだ?」

「ふん。いいわけないだろう。町の中心部じゃ、狩りをしてもたかが知れている。生活費で消化されてしまうよ。瑛太のおっちゃんみたいに運営側になった方が幸せかもな」


先ほどのメンバー3人とビジター2人で戦った戦闘では、相当苦労したにもかかわらず、ポイントは付与されたのは1万ポイントであった。チーム戦はやらない主義の海斗であったが、苦戦必死の対戦につい救援要請に応えてしまった。まあ、手に入れたレアカードを鍛えたいという思いがあったからだが。


結局はひ弱なレアカードのせいで5000ポイントのキュアアンプルを使う羽目になったから、実収入は僅かに5000ポイントになってしまったが。


「馬鹿言うなよ。そりゃ、命の保証はあるがね。ある意味、一生この街から離れられないんだ。お前たちの方が希望があるというものよ」


そう海斗に瑛太のおっちゃんと言われた中年の男は返答をした。瑛太は1年目までメンバーとしてランキング125位まで上り詰めた高レベルランカーであった。1年前に規定の5000万ポイントに達したので、それをはたいてこのカードショップを買い取った。たまたま、店が売りに出ていたのでラッキーだったのだが、前のオーナーは街からの脱出に未練を感じ、店を売り払ってメンバーに戻ったという。ただ、その決意は空回りし、戻って1ヶ月後に帰らぬ人になったと聞く。

 

 瑛太は今年40を超えた。もう街から脱出するのは諦めていた。運営側に回ることで、生活もできるし、命の保証もある。なにより、この街で結婚して幸せを手に入れたのだ。そして、海斗のような若いゲーマーのサポートをしている職というのもやりがいを感じていた。

 瑛太の商売は、カードの取引の仲介だ。GHC内に施行されている法律でカードの売買は認定されたカードショップでしか行えないとなっている。プレーヤーのカードのやりとりは、対戦による賭け札奪取しか認められていないのだ。カードに適正な値段を付けて買取り、それに利益を乗せて売る。その際に両方から税金が発生して、市の収入になるという仕組みだ。


「で、手に入れたカードがこれか?」

瑛太は海斗の差し出したカードを見た。


見習い司祭 レイチェル R


「ほう!こりゃ、リアルカードだな。ビジターがよく持ち込むので最近はこの手のカードが多いが。レアは珍しい。お前の小夜ちゃんと同等か、それ以上だぞ。どれどれ…」


 カードショップに許された権限として、カードを専用リーダーにかけて、将来の成長がどのくらいか、どんな特殊能力が隠されているかを調べることができるのだ。それを勘案して値段をつけるのだ。


「ほう…こりゃ、ただのレアじゃないな。成長するレアだ」

「成長するレア?」

「ああ。レアカードは経験を積ませて+、++、+++とランクが上がる。通常、3+が最強と言われているが、噂によるとそれを超えるカードがあるらしい」

「レアの上か?よくある話だが、LBCGじゃ、聞いたことないな」

「ああ。噂じゃHRハイパーレアとか、LRレジェンドレアとか言うらしいが、俺は見たことがない。レイチェルちゃん、ひょっとするとそういうカードになる可能性がある」

「コレクター垂涎てやつか?全く、この街は金さえ手に入ればなんでもアリだな」


「まあ、このレイチェルちゃんがそこまで進化するとは思えないけどな。お!このカード、基本数値は使えないが、特殊能力はいいもの持ってるな。クリスタルガードはともかく、デスペルレインがある。+になると覚える予定だ。こりゃ、アンデット系には効果大だ」


「対戦には役に立たないな」

「まあ、そうだが。金を稼ぐにはいいんじゃないのか?」

「まあね」

 エリアによっては、アンデット系のエネミーが出没するところがある。大量に狩ることでポイントを稼ぐことができるかもしれない。


「で、どうする?成長込みで値段付けるが?売るか?」

「う~ん。現時点では使えないからな…売ることも考えたが、評価は低いだろ」

「50万ポイントでどうだ?現時点の価値は1万あるかないかだが、俺は将来性を買う」


 そう瑛太は持ちかけた。これまで海斗にはだいぶ儲けさせてもらっている。この青年、カードの求めるのは即戦力、あとカードのレアリティに固執しない。これはこの街でLBCGをやるプレーヤーとしては異質な方であった。大抵のプレーヤーはよりよいカードを手に入れようと躍起になっている。


「50万ポイントか…う~ん。保留かな」

 瑛太は海斗の返答をおおよそ予想していた。それは海斗にある変化を感じてである。


 聞けば、海斗の奴、滅多に参加しないチーム戦に参加したばかりか、このカードに経験を積ませようとしたというのだ。カード戦によるエネミー討伐は、1枚のカードが崩れただけで戦闘に敗北する危険性もある。即戦力しか信用しないこの青年が、ひ弱なカードを一から育てる心境になったことが変化だと瑛太は心の中で思った。


「海斗、悪いことは言わん。売らない方がいい。お前、まだ、諦めてはいないのだろう?」


 そう瑛太は言った。自分も含めてこのゲームにメンバーとして参加しているプレーヤーの多く(特にメンバーとして経験を重ねていた人間)は、メンバーを卒業して、この街から去りたいと思っているのだ。


メンバーをやめるには3つの方法しかない。


1つはこのLBCGをクリアすること。


 LBCGの最終目的は、ゲームヘブンシティであるT市の全エリアを開放し、どこかに潜んでいる最終ボスを倒すこと。これはゲーマーが力を合わせないと達成できない。


 そして、これは、参加メンバー全員の開放を意味する。


 第2は1億ポイントを貯めてそれを収めること。こうすれば、メンバーの資格を返上することができるのだ。これは貯めた個人だけが助かることになる。


 第3は瑛太のように運営側になること。これには条件があって、まず、その権利を買う。瑛太のようなカードショップは5000万ポイント必要である。ただ、この場合は、プレーヤーは引退できても、ゲームには関わるしかない。しかし、命を失うことはないのだ。


「まだ諦めていないんだろう?」


と瑛太に言われて、海斗は(そんなんじゃない!)と言いたかったが、まだ、心のどこかでゲーム攻略に熱意を燃やしていた時代の自分がいることを自覚していた。だが、それは哀愁に過ぎなかった。この一見、萌カードゲームの様相を呈しているLBCGが実はメンバーにとっては恐ろしいデス・ゲームであることを知るに連れて、現実路線に自分を引き戻した。

 3つの中で確実なのは、3番目の運営側に回ることだが、これではゲームプレーヤーはやめられてもゲームとはおさらばできない。となると、現実的なのは1億ポイントと交換で自由を買うことである。


現在の海斗はそれに目標を定め、ポイントを貯めることに心がけていた。


現在の海斗のポイント

6800万ポイントと数値は示していた。

前線に出てポイントの高いエネミーやガーディアンを倒していないので、ランキングこそ91位であるが、換金できるポイントとしてはベスト50位に入ってもおかしくない金額である。これも一人で確実に倒せるエネミーだけを討伐し、ビジターを適当にあしらって稼いできた結果である。


(あと、3400万ポイントで俺は自由の身になる)


 海斗はそう数字を見て思った。早くこの街とLBCGとオサラバしたい。

T市から出ることができれば、休学中の大学に復帰し、真面目に勉強しようと思う。もうソーシャルネットゲームはやらない。こんなデス・ゲームとはオサラバしてやるのだ。


(だが…)

 近頃の自分は変だと思った。

 今日の悪魔の執事との戦いもそうだ。

 ビジターがこの街中ではレアなエネミーに対戦を挑み、それを美味しいと判断した3人のメンバーが参加した戦い。海斗は最初傍観するつもりであった。一緒に戦っても手に入るのは1万ポイント程度だ。


だが、最近手にしたレアカードのことを思い出した。


(戦闘経験を積ませるか?)

 そう軽く考えた。この街に来て以来、深く考えないでそう決めてしまった。戦闘に参加しているメンバーのうち、昔からの知り合いであるZIPがいたことも心理的垣根が低くなったこともある。

 一人で討伐するには、リスクを考えると遠慮したい相手ではあるが、これだけの戦力なららくしてカードの経験値を挙げられるという目論見もあった。

 結果的には、3人のメンバーの命を救い、1万ポイントの賞金と経験値をいただいたが、危うくレアカードを一枚失うところであった。

 しかもこのカード、リアルレアでどうも生きているカードなのだ。


「鈴木華」と名乗った見習い司祭レイチェルというカード。


コイツに死なれると寝覚めが悪い。


 自分がこのゲームとおさらばするのに必要ではないカードである。あと1年。地道に稼げば、1億ポイントは貯められる計算である。なのに、このカードは手放してはいけないという予感がするのだ。


レイチェルちゃん、売られないでよかった~。でも、50万ポイントって、50万円ってことですよね。高すぎる!?

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