とりっくおあとりーと?
「かぼちゃ……」
ありがたいことにお隣さんからお野菜を譲ってもらってホクホクと籠から野菜を出していると見慣れた鮮やかな橙色のおいしそうなかぼちゃに思わずわたくしは手を止め、まじまじとその姿を見ます。
季節は秋。
幸いなことに食材は異世界も元の世界も変わらないようで見慣れたお野菜ばかり(不思議なことに名称も一緒……まぁ、たぶん厳密には違うのでしょうけどわたくしには同じように聞こえます)で、このかぼちゃが特に何か変だとかで手を止めたわけではありません。
秋にかぼちゃという連想で我が故郷日本でも近年メジャーになっていたとある異国の行事を思い出したためでした。
「そっか……もうすぐハロウィンの季節ですね」
狼男や魔女や幽霊……様々なお化けに仮装した子供達が笑顔で「トリックオアトリート!」と笑いながらおなじみの言葉を言っている光景が頭に浮かんで思わず一人でくすくす笑ってしまいました。
「……」
手の中には大振りのかぼちゃ。
逆三角形二つにギザギザ横線を彫るのに十分な面積はあります。
(何故だか)この家には彫るのにぴったりな大きさの彫刻刀のようなものもあったはずです!
「ジャックオーランタン、作ってみましょう!」
そしてそれに蝋燭を入れて灯してみるのです。派手なことはできませんがちょっとでもお祭り気分が味わえたらいいですよね!
とてもいい考えのように見えてわたくしはスキップしそうな勢いで準備を始めました。
…………。
「まずは下書きをして~~中身をくりぬきます!」
…………。
「あ、あれ?意外とかぼちゃってかたい……?」
…………。
「……!どうにか中身はくりぬけましたよ!さて、いよいよ本番です!」
…………。
「ああ~~ジャックさんの左目が陥没してしまいました~~!」
…………。
「ギザギザって結構むずかし……あ、曲がった……」
…………。
「…………これは…………」
数々の困難を乗り越え(?)やっとの思いで完成させたジャックさんを持ち上げたわたくしでしたがそのできばえに製作者であるわたくしですら絶句する羽目になってしまいました。
右目は丸みを帯びすぎてはいますがかろうじて逆三角形に見えなくもないですが左目は完全に失敗して歪な穴と化しており、とりきれていなかったかぼちゃの繊維と種がでろんと飛び出てしまっているのがなんとも不気味です。
口の部分にあたるギザギザは途中が折れてしまっていたりあらぬ方向に進んでしまっているために笑っているのかそれとも別の表情をしているのか見るものを惑わしています。
つまり、です。このジャックオーランタン(?)は限りなく、本当に限りなくですが失敗に近い代物になってしまったのです。
「え~~っと……大丈夫!ちょっと失敗してしまいましたが蝋燭を入れればそれなりに見栄えもよくなります!」
誰も見ていないというのに何故だか言い訳しつつわたくしは用意してあった蝋燭に火を灯しジャックオーランタン(?)に入れます。
大丈夫!
きっと、必ず、たぶん、おそらく幻想的なジャックオーランタンになるはず!
呪文のようにそう繰り返しながらわたくしはそっと蝋燭の上に自作のジャックオーランタン(?)を乗せました。
わたくしの作ったジャックオーランタン(?)が蝋燭の火に内側からぼうと光を放します。
「うっ!」
それを見た途端、わたくしの口からうめき声が漏れ出してしまいました。
目と口らしく箇所から蝋燭の光が零れていく光景は陰影もついて通常より倍の不気味さを見るものに与えます。
インパクトが半端ないです。
何も知らない子供が見たらトラウマ決定ですよ、これ。
自分で作っておきながらそんなことを考えてしまうわたくし。
駄目です。もうごまかせません。これは世に出してはいけない物体です。
ある意味ものすごい兵器をこの手で生み出してしまいました!
「失敗作です……とほほ、です。美術万年2の分際で作れると思ったことが間違いでした……」
はぁ、ちょっとしたお祭り気分を味わいたかっただけなのですが……これじゃぁお祭りどころか地獄の宴会にでも並べられていそうな出来ですよ……。
せっかく作ったのに残念ですがこれは跡形もなく壊した方がいいですね。
そう思い、さて、道具は……とわたくしが振り向くのと
「きゅいきゅい~~」
『だからお前らどうして俺に上るんだよ!っとバランスわりぃなぁ!』
例のかぼちゃがよく見える扉から本の虫さん達に担がれ、上られしている陽が入ってくるのはほぼ同時でした。
「あ……」
やばいと思い隠そうとするも一歩遅かったです。
「きゅい?」
『ん?』
全員の視線がテーブルの上で不気味に光る物体に釘付けになります。
地獄の静寂の後に……。
「きゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
『うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ばけものぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』
恐怖に引きっつた悲鳴の多重音が痛いぐらいわたくしの耳を突き抜けていきました。
その後、悲鳴を聞きつけたノール爺さんやご近所の人たちにも悲鳴を上げさせてしまい我が家は一時阿鼻叫喚の地獄絵図となりました。
そしてわたくしは後日ノール爺さんに正座で丸一日お説教をされる破目になったのです。




